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万能霊薬とピアリとシャルロッテ

ざわめきが大食堂を埋め尽くす。

ザワザワというよりは、キャイキャイという音に近い、甲高い声が飛び交う。

それもそのはず、今食堂を埋め尽くしているのは全員が女の子だった。


年頃の女の子で埋め尽くされた空間。ついこの間まで30歳童貞社畜おじさんだった身としては、すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる。

でも今は、俺もリルルという、年頃の女の子の一人なのだ。


女の子なんだから、女の子に話しかけても変ではないはず。

憧れのガールズトークに花を咲かせる絶好のチャンス、のはずだった、が。


「ねえねえ、昨日の話聞いた!?」


「ピアリの植物園でしょ?わたし見に行ったよ!」


「私も見た見た!宿舎の窓からだけど、あんな大きいネムの木初めて見た!」


「先生も、大陸中であんな巨大な木は見たことないって。それで、学院の植物学の教授達が、今調査してるってーーー」


大食堂は今、昨日の植物園巨大化事件の話題で持ちきりだった。

恐らく事件を起こした張本人であろう俺は、とても会話に入れないでいた。

下手に昨日のことを喋って、うかつなことを言いでもしたら、俺はとんでもないことになってしまうのではないか。

というか、そもそも今の俺ーーーリルルという少女のことを、俺はほとんどわかっていないのだ。

そんな状態でうかつな発言をすれば、中身がおっさんだとバレてしまうかもしれない。

そうなれば、俺の目指すガールズライフはおしまいだ。


そう思い俺は、飛び交う黄色い声の間でひたすら縮こまっていた。

すると。


「静粛に!!!」


大食堂の中に、鋭い声が響く。

100人近い少女達の大合唱が、一瞬で静寂へと変わった。


食堂の前方の、演壇の前にツカツカと女性が歩み寄る。

20代後半くらいの、黒髪をショートボブに切りそろえた、少し目つきがキツめの女性だ。

紫紺のローブを着て、頭には魔女のようなとんがり帽子を乗せている。


様子から察するに、どうやら女性は魔術学院の教師のようだ。

スーツを着て、社長秘書とかやったら似合いそうだな。

そんなことを考えながら眺めてると、鋭い声が再び響いた。


「昨日の植物園での事件は、皆さんも聞いてると思います」


一瞬ざわめきが起こる。


「昨日の14:30頃、第三宿舎の裏手にある植物園の植物たちが突然、あり得ない速さで成長し、巨大な森のようなものを形成しました。この怪現象に対し、学院は調査チームを編成し調査にあたりました。結果ーーー」


「植物園の暴走は、膨大な“魔素(アルケ)”が植物に注がれた結果ではないか、との報告がありました。さらに言えば、その、非常に非現実的なことなのですが・・・」


冷静な口調に似合わず、女性教師が急に言いよどむ。

よほど受け入れがたい話をするのか、わずかの間ためらってから、意を決したように続けた。


「植物園に注がれた膨大な魔素(アルケ)の正体は、錬金術の到達点の一つであるーーー万能霊薬(エリクシール)ではないか、と」


女教師の発言に、大食堂はどよめきで埋め尽くされる。


万能霊薬(エリクシール)!?それっておとぎ話の?」


「どんな病気も治しちゃうとか、永遠の命を手に入れられるとか」


「錬金術の祖イズラエールが到達して、闇に葬り去ったという・・・」


「そ、そんなのあり得ないわ!!」


女の子達が口々に騒ぎ立てる中、俺は俯いてプルプルと震えていた。


万能霊薬(エリクシール)・・・?

俺、というか、リルルの、その、おしっこが?

錬金術の到達点?永遠の命を授ける?


あまりに馬鹿げた話しで、にわかには受け入れがたい。

だけど昨日確かに、植物園の中で隠れておしっこをした直後に、異変は起こった。

女教師の説明と照らし合わせても整合性がとれている。


前世で死ぬ直前に神様にお願いしたこと。

女の子に生まれ変わりたい。これは叶った。

ファンタジーの世界に転生したい。これも叶ったと思う。

そして、周りの誰もが驚く才能が欲しいという願い。


叶った。叶ったけど!

もうちょっとあるじゃん?こう、最強クラスの魔力をもって赤ちゃんから始めるとか、転生したらス◯イムだったとか。

なんでおしっこ!?

私のおしっこが万能霊薬(エリクシール)!?


あまりに酷い神様の仕打ちに、俺が呆然としてると。


「静粛に!!静粛に!!」


女教師の鋭い声が再び響き渡り、女の子達は再び口をつぐんだ。


「とにかく植物園の事件は現在も調査中です。事件を起こした犯人は不明ですし、万能霊薬(エリクシール)というのも、何かの間違いかもしれません。それからーーー」


「この事件に関して、帝国軍魔術調査局が調査に入ることも決定しました。何か心当たりのある生徒は協力するように。それでは上級生徒集会を終わります。解散!」


女教師がツカツカと演壇を降りると、三度ざわめきが戻り、女の子達は思い思いに席から立ち上がっていく。


生徒集会は終わりのようだ。が、俺はオロオロとあたりを見回した。

女の子たちは各々バラバラの方向に歩いていく。

大食堂に残る者もいれば、大食堂から出て他の建物に向かっていく者もいる。


・・・俺はこの後、どうしたらいいの?


リルルとしてどんな行動をすれば良いのか、全くわからない。

朝の集会の後だから、やっぱり授業とかあるのかな。いや、それとも今日は休日なのか。

そもそもリルルには友達とかいないのだろうか。

大食堂に集合した時から今まで、誰にも話しかけられることは無かった。

ーーーと、そんなことを考えていると。


「あらリルル、こんなところにいたのね!」


「朝・・・ずっと、待ってた・・・」


透き通るような凛とした声と、消え入りそうなか細い声の、対照的な二つの声がした。

振り返ると、そこには二人の少女がいた。


「ふふふ。ピアリちゃん、リルルと朝ごはん食べるの楽しみしてたのよね?」


「余計なこと言わないで、シャルロッテ・・・リルルの食べっぷりは・・・見ててあきないだけ・・・」


ピアリと呼ばれた女の子は、無表情な顔をわずかにあからめて抗議する。

リルルよりもはるかに小柄な少女は、ブカブカの紫紺のローブに、やはり大きめのとんがり帽子をかぶっていて、体の小ささがさらに強調されている。

絹のような銀髪のショートヘアーに、真っ赤な瞳が、どこか神秘さを感じさせる少女だ。


シャルロッテと呼ばれた女の子は、リルルよりも少し背が高い、金髪の美少女だった。

彼女を一言で表すなら、その、なんと言っても、発育が良い。

モデルのようにスラリと伸びた脚に、控え目ながら膨らんだ胸。

輝く黄金色のストレートヘアーはまるで貴族のような気品を醸し出している。

いや、身なりだけではなく、一つ一つの仕草や笑い方すらも洗練されていて、気品が溢れている。

実際にやんごとなき身分なのかもしれない。


ピアリとシャルロッテ。

この二人は、リルルの友達なのだろうか。


「え、えっと・・・シャルロッテ、さん」


「さん・・・?どうしたの急に他人みたいに。いつもはロッテって呼ぶのに」


クスクスと控え目に笑うシャルロッテ。

ふと、その顔にいたずらな笑みが浮かぶ。


「でも。そういう他人行儀な関係も、ちょっと素敵ね」


そういうとシャルロッテは、リルルの左腕にふんわりと自分の腕を絡めてくる。


「ひぅっ・・・な、な・・・!?」


「またお友達から始めましょう。リルルさん?」


天使のような笑顔でスキンシップをとってくるシャルロッテが、小悪魔のような視線をチラリとピアリに送る。


「す、すきに・・・すれば・・・」


「くすくす」


ほおを膨らませてむくれるピアリ。

口に手を当てていたずらに笑うシャルロッテ。

この2人はいつもこんな感じなのだろうか。


そしてそんな時、リルルはどんな反応をしていたのだろう。

全く想像がつかず、ただ視線を泳がせる事しかできない俺を、2人は不思議そうな顔で見つめる。


まずい、何か言わないと怪しまれてしまう。

かと言って、リルルらしくない発言をすれば、中身がおっさんであることがバレてしまうかもしれない。

どうしよう、どうすれば。


「え、えっと・・・き、今日これからどうしよっか!?」


とりあえず怪しまれないような、それでいてこの世界の情報も引き出せそうな質問を投げかけてみる。

すると、シャルロッテがぽん、と手を合わせて顔を輝かせる。


「その話をしたかったの!リルルはお昼から錬金術学の授業でしょう。その後3人でティーパーティーをしない?」


「ティーパーティー・・・?」


「そう、あのね、ローズガーデンにキャンセルが出て、急遽予約を取ることができたの。それでメイドのティロがスコーンやケーキを焼いてくれるって言うから・・・どうかしら?」


ティーパーティ・・・だと・・・?

色とりどりのバラが咲き誇る庭園に置かれるテーブルとイス。

テーブルの上には紅茶が注がれたティーカップと、3段のケーキスタンドに乗せられた、スコーン、セイボリーにスイーツ。

それを囲むように座った3人の少女(俺を含む)が、最近ハマっているぬいぐるみ集めや、密かに好きな人の話題に花を咲かせる。


まさに、俺が思い描いたガールズライフ。

生前の灰色な社畜生活とはかけ離れた、憧れの風景がそこにあった。


「ティーパーティー、もちろん行きたい!」


反射的に答えてしまう。


「よかった!そうしたらリルルと私とピアリちゃんの3人でやりましょう」


「ピアリはべつに・・・部屋で、実験の続き・・・」


「あら?リルルの食べっぷり、見てて飽きないんでしょう?」


しぶしぶといった感じで参加を表明するピアリだが、そわそわと落ち着きのない動きは誰の目からも楽しみでならないように見える。


「それじゃあまた、お昼の授業の後にローズガーデンで」


「ん・・・じゃあね、リルル」


それぞれの寮に戻ってゆくピアリとシャルロッテ。

俺の頭の中は、めくるめくティーパーティーのことでいっぱいだった。


異世界に転生して初めての友達。

そして、初めてのガールズライフ。

その嬉しさの前に、この世界の情報とか万能霊薬おしっこの秘密とかはどうでもよくなって、すっかり忘れてしまっていた。


そうと決まれば、お昼の錬金術学とやらの授業を軽くこなして、ローズガーデンへと向かうか!

ウキウキとした足取りで、寮の自室へと向かう俺。

しかし、全く知識のない錬金術学の授業が、そう簡単にいくわけはなかった。





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