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女の子になったらとりあえず鏡の前でかわいいポーズをとると思う

「リルル=メーリエ」

机から落ちた革張りの手帳に書かれていた名前。

それが俺の新しい名前みたいだ。


多分、女の子だよな?

鏡に映った自分をあらためて見てみるが、紛れもなく女の子ーーーっていうか、かなりの美少女だ。

どういう美少女かというと、顔立ちが整っているというよりは、クリッとした大きい瞳、どこか自信なさげな表情、小動物的な愛らしさを持った感じの美少女である。


女の子!女の子です!大佐!

小太りの30歳おっさんから美少女への転身。

テンションが上がらないはずもなく、鏡の前でくるくるーっと踊ってみる。


ふわりと舞い上がるスカートからのぞく細っそりとした脚。

ポーズが可愛く決まって、遠慮がちな笑顔ではにかんでみる。


か、かわいい・・・!

これ本当に俺?

さっきからにやけ笑いが止まらない。

そしてにやける顔も、また愛らしい。


はーっ。女の子って素晴らしい。

鏡で自分の姿を見ているだけで、おっさんだった時の100倍は楽しい。

こうなると、かわいい洋服とかにお着替えしたら、どれだけ楽しいのだろう。

同じ歳の女の子と紅茶とケーキを食べながらガールズトークとか。

やばい、妄想が無限に広がる。


っとと、いけないいけない。

女の子になった事実に舞い上がっていたが、考えてみれば、まだ自分がどんな状況か全くわからないのだ。

リルル=メーリエとはどんな女の子なのか。

今いるこの部屋はどこなのか。

そしてこの世界は、俺がいた現実世界とはどのくらい違うのか。


せっかくの2度目の人生だ。なるべく情報を入手した上で、慎重に行動を起こしたい。

そして、今度こそ俺の思い描く、完璧な人生ーーーガールズライフをエンジョイするのだ。


そう決意し、俺は再び現状の把握を開始する。


あらためて今いる部屋の中をぐるっと見回してみる。

板貼りの床に白い壁紙、ところどころ木の柱や梁が剥き出しになった内装。

ヨーロッパの昔の建物みたいだ。ヨーロッパ行ったことないけど。


ベッドの脇には小さな木製の化粧台、その上には化粧品なのか、小瓶や箱、花の咲いた小さな鉢なんかも乗っている。


その隣には机。筆記用具やノート、本なんかが整理されて置いてあるが、ちょっと埃をかぶってる。

リルルという女の子は、勉強はあまり好きじゃないのかもしれない。


そして衣装棚。

女の子の衣装棚の中をみるのは、すこしばかり気がひけるが、これも情報収集のためだ。

勢いよく両開きの扉を開ける。


中にはジャンパースカート、ブラウス、ワンピースなどの洋服が数着かけられている。

それから衣装棚の下の方は、3段の引き出しになっている。

うん、ここはあれだな、初見で開けてはいけないやつだ。

何が入ってるかって。

わかるだろ。

まあ、このままずっと女の子として生活していくのなら、いずれは開けることになるんだけど。

さすがに気が咎めるというか、まあ、見てみたいという好奇心もあるんだけど。


数分間の葛藤ののち、衣装棚の扉をそっとしめる。

謎の敗北感。

これだから30年間童貞だったのだ。


とまあ、一通り部屋の中を見渡してみるに、おそらくここはリルルという女の子の部屋なのだろう。

衣装ケースの中の洋服も、今着てるものと同じサイズだし、机の上にはリルルとその友達らしき女の子たちが写っている写真立ても飾ってある。

断言はできないが。


この部屋がリルルの部屋だということはわかったが、この世界がどんな世界で、今俺はどんな状況に置かれているのか、という根本的なことはまだ解っていない。


あらためて、さっき落とした革張りの手帳に書かれている数行を読み返してみる。


「リルル=メーリエ

エル=ババール帝国魔術学院5回生

専攻 錬金魔術

才能(ギフト) なし」


リルル=メーリエってのは、この娘の名前だろう。

エル=バハール帝国?この国の名前だろうか。

そして帝国魔術学院。

「魔術」という文字から推測するに、この世界には魔術や魔法といったものがあるのだろうか。

魔術学院5回生ってことは、リルルはその魔術とやらを勉強している子なのかもしれない。


なに?俺、魔術使えるの?

やばい、めっちゃワクワクしてきた。

ちょうど机の横に、杖のようなものが立てかけてある。

長さ1メートルくらいのそれを手に持つと、コホンと一つ咳払いをして、大きな声で唱えた。


「アバダケ○ブラ!」


何も起きない。


「メラ○ーマ!」


ピクリともしない。


「ドラグス○イブ!!」


静寂。


「チン◯ラホイ!!!」


返事がない、ただのしかばねのようだ。


「何も使えねーじゃねーか!!」


思わず地団駄を踏みながら(パンツが丸見えだった)俺はふと、さっきの手帳の一文を思い出す。


才能ギフトなし」


ギフト?才能なしってことは、このリルルは魔術が使えないのか?

魔術学院に所属しながら、何の魔術も使えない少女。

こうして手帳にまで、”才能なし”と書かれて、しょんぼりとするリルルを想像すると、生前に凡人だった自分と重なって、何だか泣けてくる。


いや、泣くのはまだ早い。

俺は確かに死ぬ直前、神様にお願いしたのだ。

女の子で、ファンタジーの世界で、そして特別な才能を持って生まれ変わらせてくれ、って。

神様がガバガバ監修でないなら、もしかしたらリルルには、まだ、特別な才能が隠されているかもしれない。


リルルのためにも、というか、俺の第二のガールズライフのためにも、この世界の魔術については早めに調べないといけない。


この部屋で収取できる情報は、だいたいこのくらいか。

これ以上の事を知るには、この部屋から出て情報収集する必要がありそうだな。

そうと決めた俺は、部屋のドアの前に立ち、ドアノブに手をかける。

だが。


外に行って、大丈夫なのか?


いきなり取って食われたりはしないだろうが。

俺は、リルルという少女についてまだほとんど何も知らない。

そんな状況でもし、家族とか友達とかに出くわして、リルルらしい対応ができるだろうか。

あまりにもいつものリルルとの違いに不審に思われて、俺がおっさんだって事がバレたりはしないだろうか。


でも、外に出ないことには、これ以上情報収集しようがないのも事実だ。

俺がドアの前でうんうん唸っていると。


ゾクゾクっと。

背中を悪寒のようなものが走り抜けた。


なんだこれ、風邪?

いや違う、これは、男だった時とはちょっと感覚が違うけど、間違いない。


ーーー尿意だ。


急速にトイレに行きたくなった俺は、部屋の中を見回す。

が、部屋にあるドアはたった一つ。おそらく外に出るためのものだろうから。


「この部屋、トイレがない!?」


驚愕の事実に愕然とする。

いや、大げさに聞こえるかもしれないが、突然知らない世界に飛ばされてトイレの場所がわからないのは、かなりのスリルである。


こうしてる間にも、どんどん尿意は大きくなってくる。


せっかくかわいい女の子になれたのに、かわいい洋服を着ているのに、お漏らしで台無しにするわけにはいかない。

部屋にトイレが無いとなると、必然、この部屋の外のどこかにあるに違いない。


わずかな逡巡ののち。

股間の部分を片手で抑えながら、俺は、部屋の扉を開け勢いよく飛び出した。



次話は21時頃投稿します

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