第7話 レアモンスター
ザラザラとした舌が顔にこすりつけられる。
「痛いよノア……もう起きるよー……」
昨日は気がつけば眠るほど疲れていたのに、すっかり元気になっているように感じる。
ああ、6歳の体は素晴らしい!
「おはよう母さん」
「あら、カイト今日は早いのね!」
思い返すとカイトはいつも寝坊して朝食ができてから母さんに起こされていたな……
これから俺はノアの隣を歩いて恥ずかしくない男になるために頑張ると決めたのだ!
「顔洗ってくる!」
水道が有るわけではないので、外の水瓶に貯められた水から桶に顔を洗うほどの水を移して使う。
現代日本からすると手間がかかるが、この水なんかを苦労して運んでくれる父さんたちに感謝だ。
「……まてよ、川から水を引き込んでいるんだし、水車で上げれば上水路作れるんじゃないかな?」
「にゃー?」
「うーん、水車……何かの作品で読んだこと有るけど……いずれは再現してみるかぁ……」
そんな事を考えながら、桶にはられた水に映る自分の顔を見る。
生前のガリガリでクマがこびりついた顔ではない。
両親と同じ栗色の毛に6歳の子供らしいピチピチとした肌。
31男から見ると、かわいいと言っていいだろう。
ラッキーだ。美男美女の両親に感謝だな。
「……親父と、お袋は……結構いい線いってたな、俺の生活態度のせいだな……」
もやもやした気分はキンキンに冷えた水で顔を洗って流した。
「あんなに嫌がってた朝の支度も自分から……ほんとに凄いわカイト!」
朝食前に父さんの傷のケアをして、一緒に御飯を食べていると母さんは褒めちぎってくる。
「ノアと一緒に居ても良いように、これからはしっかりするんだ!」
「そうか、でも子供らしさを無理に忘れることはないぞ。
今も思いっきり楽しめよ?」
「ありがとう父さん!」
ノアは母さんの作ってくれるご飯が大好きみたいでハムハムとすごい勢いで食べている。
ああ、いいなぁ……幸せだなぁと心から感じてしまう。
「この後はベネス神父のところに行くんだろ?
カイトにはお世話になりっぱなしだから、鑑定でもなんでも無料でやってくれるって」
「そうよ、聞いたら魔物も退治して魔石も持って帰ったって!
カイトは凄いわ! 母さん幸せ! ……でも、気をつけてね?」
「うん、ノアに頼りっぱなしにならないよう頑張るよ!」
「ふっ……ほんとにカイトは急に成長したな……、嬉しいけど、寂しいもんだ」
「父さんの怪我が治るまではちゃんと世話してあげるよ!」
「おいおい、怪我治ったら居なくなるみたいな事言うなよ……泣いちゃうぞ?」
「でも本当に早く良くなって仕事してくださいねー、今はカイトちゃんのおかげで『前よりもいい生活ができそうですけど』……」
「あれ? ララ、なんか言葉に棘を感じるんだけど……」
「そんなことはないわよー、あら、私も女衆の集まりに行かないと。お昼には戻ってきますね」
「ララ、こっちをみてくれませんか? ララ?」
「まぁ、父さん。ドンマイ! 行ってきまーす!」
俺は食器を水桶に入れて家を飛び出して教会に向かう。
いつの間にかノアは頭の上に乗っている。
「おお、カイト! よく来てくれたな、まあお茶でも飲むか」
「おはようございますベネス神父」
教会の扉を開けるとすぐにべネス神父が迎えてくれた。
なんだか上機嫌だ。
「いや、カイトが集めてくれた物を一晩調べたが、素晴らしいな!
貴重な薬草、香草、キノコに木の実、あの森にこんなにもいろいろなものが有るというのは素晴らしい! 隣村はやはり放棄するようで、無事な村人を受け入れるうちの村として色々と物入りになるだろうから、本当に助かった!」
べネス神父は教会を通して村にとって大事なことを取り仕切っているので、実質村の中心人物だ。
そういう人の役に立てたのならありがたいことだ。
「ノアがいれば魔物もある程度は対処できるので、これからも頑張ります!」
「おお、そうだそうだ、今日はノア殿の鑑定だったな。
巻物は用意してあるからな、神託を受けるか?」
「ええ、お願いします」
鑑定作業は物や人、そして動物や魔物にも行える。
新種の魔物などは鑑定して情報をできる限り共有して対策を考えたりする。
多分ノアも、新種の魔獣なんだろう……
「……予想はしていたが……やはり謎の文字だな」
巻物に浮かび上がっていたのは……日本語だった。
『猫又』
なんとノアは妖怪だった!
「ノア、しっぽは分かれていないの?」
「にゃにゃ」
「へー成長すると分かれるんだ……」
「とにかく、カイトのギフトもレア、使役する魔獣もレア、しかも強力な力を持っている。
これから忙しくなりそうだ……」
「そうなんですか?」
「カイトはわからないだろうが、6歳の若さで魔物を狩り、魔法を使う魔獣を従える。
教会も城も君を放っては置かないと思うんだ……
さて、どうしたものか……カイトは、将来どうしたいんだ?」
「ノアと一緒に……出来るなら冒険者になりたいです」
「ふむ、たしかにそれは有りだな……変に組織に属するより多くの人の助けになる気がする……」
「それとベネス神父にお願いがあります」
「なんだい、出来る限りの協力をしよう」
「冒険者として、剣や戦う方法、それに魔法の使い方を習いたいです」
「……ふむ、たしかにそれは大事だ……
わかった、中央に伺いを建てておく。
それと教育に関しても少し若いがみんなに混じって授業を受けに来なさい。
きっと君の役に立つ」
「ありがとうございます!」
べネス神父が行っている授業は8歳から村のこどもや回りの村からも通う子供も居る。
それに参加させてもらえるのはありがたい。
俺の修業の日々は、こうして始まった。
次話は1時間後21時に出します