第5話 依頼
暖かい……
けど、ちょっと重い……
「にゃ!」
ザラザラとした舌が俺の顔をなめている。
「ああ、ノアおはよう。もう会社に行く時間かぁ……」
「カイト!! 目が覚めたのね!!」
薄く目を開くと……母さんが俺のことを覗き込んでいた。
「あれ、母さん?」
「カイトォ!!」
暖かい母さんの温もり……ああ、俺はカイトだった……会社なんて行かなくて良いんだ、ノアも居るし母さんも、父さんも……!!
「か、母さん! 父さんは!?」
「カイト、隣りにいるぞぉー……」
隣のベッドから声がする。
「父さん!!」
俺は隣のベッドに飛び込んで父さんに抱きつく。
「うぐぐ……か、カイト……ありがとう。お前が助けてくれたんだな……」
優しく俺の頭を撫でてくれる父さん。
良かった。今度は助けられたんだ!
交通事故で、俺の目の前でどんどんと冷たくなっていく両親。
以前の戒斗の記憶が、俺の中にも残っている。
「か、カイト、嬉しいんだが、少し力を緩めてくれ……」
「カイト、コールはまだ傷が完全に治ってないの、優しくしてあげて?」
「あ、ごめん父さん」
「父さんか……パパ、パパ言っていたカイトに命を救われるとはな……」
優しく頬を触られると、涙が出そうになる。
「……あの狼は!? それに、ノアは!」
「ノアちゃんなら頭の上に居るわよ?」
手をのばすとノアが体を擦り寄せてきた。
「ノア、大丈夫だったか?」
「すごかったのよノアちゃんは!
あの狼を翻弄して、ダスさんとかが駆けつけたらコヨーテと一緒に逃げちゃったけど、村を救ったのはノアちゃんよ!」
「にゃーん」
誇らしげにしているノアを撫で回す。
「本当にありがとな!!
ノア、父さんの傷ってなんとかならない?」
「にゃ!」
ノアに言われるがまま、父さんの体に手を当てる。
「にゃにゃ」
「わかった」
父さんの体に魔力を流すと体の状態がわかってくる。
乱暴につなぎ合わせ、いろいろなところに無理が出ている。
皮膚は歪んで、血管や臓器も癒着して動きが悪い。
「にゃにゃーん」
「わかった。ゆっくりと、丁寧に……」
無理やりひっつけた場所を、丁寧につなぎ合わせていく、歪みを少しづつほぐして、本来ある形へと戻していく。
「にゃ!」
「わかった。無理せず少しづつだね。
父さん、これから毎日俺が治していくから」
「お、おお……す、凄いな……本当に俺の息子なのか?
凄い楽になったぞ。息子が魔法を使えるようになるなんて、想像もしなかった……」
「そうね、カイトはテイムも出来て魔法も使えて、どこまで成長するのかしら!」
「俺の魔法はノアから借りているようなものだから……」
「あら、それだったらノアちゃんにはたっくさん美味しいもの食べて強くなってもらわないとね!」
「ニャーーーン!」
「そういえばベネス神父がカイトにお礼を言いたいって言っていたよ、あの癒し草がなければ大変だったって。後で会いに行くと良い……ああ、本当に楽になった。
ちょっと眠るよ……」
「おやすみ父さん」
「おやすみコール……さ、カイトもお腹すいたでしょう?
まる二日寝てたのよ。母さん張り切って料理するわ!」
「そ、そういえば……」
ぐーーーーーーーーーーーーー。
意識すると同時にお腹が凄まじい音で空腹をアピールしてきた。
それから母さんの絶品野菜スープでお腹を満たして、改めて教会へと向かった。
村の中は2日で結構きれいになっていた。
一番酷いのがうちって感じだ。
村の人達は俺の姿とノアの姿を認めると口々に感謝を告げてくる。
俺の力じゃないのに、なんだかむず痒い。
でも、ノアが褒められるのはとても嬉しい。
今回の事件で被害者が出なかったのはノアのおかげ、その御蔭で村人全員にノアが好意的に受け入れてもらえて本当に良かった。
「ああ、カイト目を覚ましたか」
「ベネス神父、お陰様で」
「いや、礼を言うのはこちらの方だ。
ありがとうカイト、君の癒し草のおかげで多くの人が助かった」
「いえいえいえ、うちの父さんの治療もしてくださって、神父さんにはお世話になりっぱなしで……」
「……君は、なんだか急に成長したな、まぁあんな事があれば当然だな。
それにしても、あの謎の神託はよくわからなかったが、カイトは素晴らしいギフトを得たのだな」
ノアとの魂の繋がりを得られたことは何よりも嬉しいし、神様、十分にチートです。
「ところで、あの癒し草はどこらへんで見つけたんだい?
実は今、いくら癒し草があっても有り難いんだが……」
「それなら、取ってきます!」
「反対するべきなのはわかっているんだが、君たちの力を借りなければ今の状態だと無理だからな……済まないがお願いできるかな?」
「任せてください。うちのノアの実力を見てください!」
「そうだな、あの狼、たぶんフロックウルフだろう……
隣村を襲った奴だと皆考えている……
一度やられたこの村にはそうそうは来ないだろうが、警戒は怠れない。
そのためにも薬草は多くほしい……」
「わかりました。もう直ぐに出発します」
「済まないね、子供に頼る情けない大人で……」
「気にしないでください、やれることをやれる人間がやれば良いんです」
「ははっ、なんだか年上と話しているような気持ちだ。たしかにそうだな」
たしか父さんは24だから神父さんは28、ダスおじさんが26、みんな年下です。
「それじゃぁ行ってきますね!」
俺は教会を出て母さんに事の顛末を伝える。
前みたいに何も言わずに心配はかけられない。
「そうね、ノアちゃん。うちの子をお願いね」
「にゃーん」
任しておけと言わんばかりにノアは俺の頭の上に乗る。
「カイト! 準備は出来たか!?」
ダスおじさんが声をかけてくる。
この村で馬に乗れて元気なダスおじさんが森まで連れて行ってくれることになった。
「か、カイト!」
「うん? ミーナじゃないか」
「森に行くんでしょ? 大丈夫?」
「大丈夫だよ、ダスおじさんも居るし、ノアも居るから!」
「うん……ノアちゃん、カイトをよろしくね……あと、こ、これ……後で返してね!」
何かを握らされてミーナは自分の家に戻ってしまった。
「……これ……」
手には革製の腕輪、小さな赤い宝石がついている。
ミーナの宝物だ。
「……手を出すなよ」
ドスの利いた声がする。親バカだ……
「何言ってるんだよダスおじさん、まだ6歳だよ!?」
「……手を出すなよ」
ダメだこの人……俺は腕輪を大切に身に着け、森に向かうのであった。
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