第49話 サラリーマン冒険者
覚悟を決めてから日々が飛ぶように過ぎていく。
とりあえず、過去の財産を精算し先立つモノを作ってからミーナのドレスをお義母さまと大都市に作りにいってもらう。(もちろん皆様の交通費、滞在費も当方で負担させていただきます。ん? なんですかこの高級レストランの明細は……?? え? 日常を過ごす洋服もですか? え? 家具? 家? はい、もちろんです……当方が……負担……)
「ノア!! 狩に生きるよ俺たちは!!」
日々届く胃を痛くする報告の数々、俺は自身の胃のためにノアと2人で狩に没頭するのであった。
ダンジョンに篭るより、魔の森の魔物を狩る方が経費が少なく短期的な利益は得やすい。
ダンジョンは多くの経費をかけて一攫千金を狙うハイコストハイリターンな投資みたいなものだ。
狩猟生活は俺とノアのコンビであれば、ある程度一定の利益が約束されたローコストローリターンな仕事と言える。
深くまで潜ればそれなりに強力な敵、つまり高額商品が転がっている。
とにかく、毎日職場という名の狩場へと足繁く通い、日銭を積み上げていく……
「ふふふ、当日は楽しみにしていてね。
ちょっ……カイト……そんなに寂しかったの?」
抱きしめた俺の背中を愛おしそうに撫でてくる。
「ああ……」
本当は一人でどこまでか上限のわからない稼ぎ続ける日々が辛かったのと、離れた場所で消費される自分の稼ぎのストレスから開放された喜びから抱きしめた。なんて説明したら頭を潰される。
「にゃー」
「ノアちゃんも久しぶりね」
「なんか、ミーナ……綺麗になった?」
「うふふ、カイトが気の利いたこと言ってくれるなんて……
やっぱり都市の生活は冒険者とは違うので、ね」
「冒険者辞めたくなった?」
「始めはほんの少し考えたけど、私にはあの生活は続かないわ、それに……すこし太っちゃったし……」
「えー、全然わからなかったよ」
「それに、やっぱり冒険のドキドキには変えられないわ。
たまになら望むところなんだけどね」
片目をつぶって笑みを作るミーナ、暗にこれからもよろしくと言われている気がして、胃がジクリと痛んだような気がする。
「さて、当日に向けての準備は全部依頼したし、稼ぎついでに身体を絞らないとね」
「よし、少し森の奥の方まで行こう」
「にゃん!」
今はお金を堅実に稼ぐことが自分の健康にとって最も重要だ……
こうして今日も仕事へと向かうのであった……
「やっぱり3人だと効率が段違いだね!」
「大物も遠慮しなくて済むからかしら?」
「にゃ!」
「あら、そんなにグチグチ言ってたの-?」
「ノア! 嘘言うなよ! 基本的に無言で淡々と狩ってたぞ!」
「にゃにゃ!」
「胃が悪いのカイト?」
「ははは、ダイジョウブデス」
森の深部で大型魔獣を狩ると、そこからの実入りを計算しているときが、一番楽しくなっている。
「ミーナ……集落がある……」
「フォレストウルフが飼育されているわね、ライダーがいるわ……」
「にゃん」
「魔力反応もあり、キャスターもいるのか……かなり抑えて探査してみるね」
「にゃ!」
ノアの協力を得て隠匿して探査魔法を放つ。
30体はくだらない……ウルフは8体……
「眠らせて、出来る限り減らして……なんとかなるかな」
普通に考えればゴブリンがこの程度の数であれば、俺たち3人で相手をすれば問題ない。
先手を取れているからだ。
「ギルドから報奨金ももらえるし……行こうか」
「そうね」
「トリプルキャストで行こう」
俺たち3人で組み合わせる眠りの魔法。
あたりに魔法で作られた擬似的な霧が立ち込めていく。
魔法が入りやすいようにする導入の霧、それから本命の睡眠の霧、それらを魔法で作られたことを目立たなくさせる霧。
これらを組み合わせた凶悪な魔法で、僕たちのオリジナルだ。
「行こう!」
完全に意識を失っているものや、かなり昏睡しているもの、次々に排除していく。
最優先はウルフだ。
ウルフにとって不幸だったのは、1頭もレジスト出来なかったことだ。
無事に8体のウルフを始末する。
目に見えるゴブリンは全て死体へと変えた。
「ギャ、ギャー!!」
魔力の波動が村に放たれた。
「あいつか!!」
俺とノアが同時に魔力の元に駆け寄る。
儀式でも行うような奇妙な服装に杖、ゴブリンキャスター。
魔法使いは、何よりも優先して仕留める。
そして、魔法よりも肉弾戦に一気に持ち込むのが鉄則だ。
俺たちの接近に魔法で迎撃しようとした瞬間、ノアが足元に穴を作り出し大きく体勢を崩す。
魔法使い自身ではなく、周囲の地形を変化させるのも、王道な戦い方だ。
バランスを崩し、地面にしこたま頭を打ち付けて、体勢を戻そうとしているキャスターに斬りかかる。
杖を持つ腕を切り落とし、ゴブリンの腕から大量の出血が巻き散らかされる。
返す剣で首を狙うが、ギリギリ避けられ肩口で剣を受け止められる。
「ちぃっ!」
一撃で絶命に至らない、魔法が来るっ!
グシャ!
ミーナの鉄槌が、キャスターの頭を吹き飛ばした。
「ありがとう……」
「いえいえ、どういたしまして」
「よし、残党を狩ろうか」
ようやく武器を持って小屋から出てきた集団を、3人で狩っていく。
まだ小さな個体も、逃せばあっという間に増えて襲いかかってくる。
容赦はしない。
全ての敵の排除を確認した後に、魔石の回収に動く。
「……前は本当に嫌だったけど、浄化のおかげで気が楽になったわ」
「臭いからね……」
「にゃぁ……」
全てを終えて、ミーナは浄化を発動して綺麗になる。
俺とノアは魔法の水と風魔法で、出来る限り汚れを落とす。
まだうっすらと匂いが残る……
村に火を放ち、消化を確認してから、村へと戻るのであった。
冒険者の正しい日銭の稼ぎ方であった。




