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猫好き冒険譚  作者: 穴の空いた靴下
第三章 冒険者編
48/50

第48話 契

 ガンガンと耳元で金属を叩きつけているかのような頭痛で目を覚ます。

 目の前にはスウスウと寝息を立てるミーナの姿。

 冒険時には珍しくもないことだが、一人の女性の格好をしたミーナが目の前にいることに、頭痛を一瞬忘れて急に立ち上がってしまった。

 頭痛はより一層暴れだす。


「み、水……」


 目の前のテーブルに置かれた水差しから、半分ほど入っていたグラスの中身を他のグラスへと移し、水を注ぎ、一気に飲み干す。

 それから目をつぶって体内の魔力を循環させる。

 一瞬、頭痛が強くなるが、すぐに身体が暖かくなり、強烈な二日酔いが改善していく。

 この世界で酒飲みが魔法使いを羨む一番の理由かもしれない。


「はぁ……、結局店で眠ったのか……しかし、酷い状態だな」


 お店の一角に布を敷いて寝かされていた俺とミーナは良い扱いだったみたいだ。

 周りでは床やらテーブルで酔っ払いたちが大いびきをかいている。

 テラスから村を見渡すと、何名かが路上で潰れている。

 随分と暖かくなってきたから、風邪を引くことはないだろうが、原因を作ったことを反省して、周囲の人々に魔力による身体強化を薄くかけておく。

 二日酔いの回復や、風邪のひき始めには効果抜群だ。


「さて、まだ日が浅いけど……ここでまた寝るのは申し訳ないからなぁ……」


 西日が鋭くテラスを照らしている。←注目


「ノア、起きてる?」


「んにゃ?」


 ミーナに抱かれて心地よさそうに寝ていたノアが顔を上げる。


「ミーナを家に送って、俺たちも家に帰ろう」


 支払いはよくわからないけど、店長さんの屍を見つけてポケットに金貨を入れておく。

 お釣りはお世話になったお礼だ。

 ノアが俺の頭に乗って、俺がミーナを持ち上げる。

 ふわりとまるで毛布を持つようにミーナの身体を持ち上げられる。

 なにも言わなくてもノアが魔法で補助してくれている。


「ありがとうございました」


 お店に静かに礼を言ってミーナを背負って家に向かう。

 早朝とは言え、準備を始めているお店は多い。

 昨日のことは村中に知れ渡っているみたいで、冷やかされながら家に戻ってきた。

 ミーナの家に向かう、もちろん鍵がかかっている。

 ミーナの手をそっと取っ手に触れさせると静かに鍵が開く。

 

「お邪魔しまーす」


 よく来ているとはいっても、やはり主人不在の家に勝手に入るのは気が引ける。

 そそくさとミーナの部屋に向かい扉を開ける。


「あ……」


 部屋からいい香りがする。

 ミーナの香りだ……

 久しぶりに入ったけど、以前よりも少女らしい可愛らしい部屋から、女性の部屋、冒険者なのであまり可愛らしいというよりは落ち着いた、それでいて細かなところに気を使われている雰囲気が、異性を感じさせる。

 なんとなく居心地が悪く、少し動機が早くなる。

 俺は急いでミーナを背中から抱きかかえ、ベッドへと寝かせる。


「にゃ……」


 急にミーナに重量が戻る。

 そこまでの重さではないが、急に戻すから、思わず俺も覆いかぶさるように布団に上がってしまった。

 目の前にはミーナの顔……


「……カイト……大好き……」


 いつの間にかするりとノアが部屋から出ていった。

 同時に、ミーナの両手が俺の首に巻き付いてくる。


「……んっ」


 柔らかな、感触、そして、ミーナの香りが俺の鼻孔をくすぐった。





「起きてたのか……」

 

 気恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋めるミーナの髪を撫でながら問う。


「途中までは気持ちよく寝てたよー」


 見上げるミーナの可愛らしさに、思わず俺のほうが気恥ずかしくなり、ミーナを抱きしめた。


「ノアとなんか打ち合わせしていたの?」


 きっかけとなった早めの魔法遮断に抗議をしておく。


「ノアちゃんが気を使ってくれたんだよ」


 ミーナは俺の胸元に頬を寄せながら、指を絡ませてくる。

 その手を握りしめ、ミーナを見つめる。


「……俺、頑張るね」


「ええ、頑張ろうね」


 再び、柔らかな感触に脳が痺れた……




「ただいまー」


「にゃー……」


 いつものベッドで寝ているノアがしっぽで返事する。


「……お前、図ったな……でも、ありがとな。

 これからもよろしくな」


「にゃーん!」


「ば、ちゃ、ちゃんとしたよ! ……たぶん……」


 俺はノアからのこれ以上の追求から逃れるようにシャワーを浴びて、心地よい疲労から来る眠気に任せて、ベッドへとダイブし、意識を手放した。


 次に目を覚ますと、ドンドンと扉を叩く音がしている。


「はーい……」


 目をこすりながら対応すると……


「カイト、決闘を申し込む」


 完全武装したダスおじさんが立っていた。


「ごめんなカイト、うちの馬鹿の相手をしてやってくれるかい?」


「カイト、おめでとう!」「よくやったわカイト!」


「俺はまだ認めていなーい!! さぁ、決闘だカイト!」


「頑張ってカイト」


 ミーナがニコニコとギャラリーに混じっている。

 これは、受けないわけには行かないだろう。


「お義父さん「そんな呼ばれ方をする義理はなぁい!!」


 ギャラリーから大人気ねーぞ-、だの、お前より稼ぎ頭だろー、だの散々なやじがダスおじさんに浴びせられている。


「決闘お受けいたします」


「カイト、いや、貴様に娘はやらん!!」


 スタスタと歩いていくダスおじさん。

 俺は、そのままついていく。

 広場につくと、くるりと振り向き。


「さぁ、尋常に、勝負だ!! ほら、コール、さっさと合図を!」


「はぁ……カイト、やっちゃっていいぞ? 奥様の許しも得ている。

 それでは、カイトとダスの決闘を始める!」


 ノアはミーナに抱かれて気持ちよさそうに寝ている。

 まぁ、コレは俺とダスおじさんの決闘だ。


「それでは、始め!!」


「娘はやーーーらーーーんーーーぞーーーー!!」


 バトルアックスを本気で振りかぶっている。

 この人、場合によっては本気で俺を殺すつもりだ。


「電雷」


「ふぎゅんっ!!」


 弱い電撃をぶつけると、びくんっと跳ねて、そのまま倒れて動かなくなった。


「それまで、勝者、カイト!!」


 全然盛り上がることもなく、野次馬達もやっぱりなぁ……とかつぶやきながら解散していく。


「ほんとに馬鹿なんだから、勝てるわけないじゃない」


「まぁ、一応けじめなんだろダスなりの」


「まったく……カイト、ミーナをよろしくね」


「はい……頑張ります!」


「お母さんは嬉しいわ-、式を楽しみにしてるわよ-」


「そ、それはもうちょっと安定したら……」


「カイト、男が安定を求めたら終わりだぞ、けじめを付けなさい。

 家庭をもつことで、強くなれるもんだ!」


 おお、父親らしいことを……


「ドレスとかの準備も有るし」


「あらー、それはそうね。良かったわねミーナ、甲斐性のある旦那を見つけて。

 世界で一番かわいい花嫁にしてもらうのよー?」


 これは、今日からでも稼がねば……


「はい、母さん」


 ミーナの満面の笑みに、やる気がぐんぐんと湧いてくる!


「にゃにゃ!」


 ノアも俺の気持ちを察して協力してくれるそうだ。


「ああそうだった。癒やしよ彼の者を癒せ」


 伸びて放置されているダスおじさんに気がついたミーナが癒やしの魔法を与える。


「娘は……わた……さん……」


 もともと気絶させただけの軽症だ。

 意識を取り戻したダスおじさんを、村の男衆が担いでどこかへ連れて行った。

 きっと酒場だな……

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