第42話 粛々と
冒険に必要な物資が全て届き、整備も準備も整った。
何度も打ち合わせをしてダンジョン攻略へと向かう。
今回もミーナとノア、3人での攻略だ。
俺とミーナで分けて物資を背負う。
「荷運びに魔力を使うわけにいかないけど、相変わらず、最初は重いね……」
「たくさん儲ければ便利な魔道具に変えていけるんだけどね……」
大量の物資を持ち込むには人手がいる。
本格的なパーティの場合、戦闘や探索を行うパーティと荷運びのパーティを分けているところもある。大規模なパーティを組むと、もちろん人数は増える。
その結果経費がかかり、収益も分散するのでバランスが非常に難しい。
当たりを引ければいいが、ハズレを引き続ければ赤字続きになってしまう。
結構冒険者ってシビアなんです。
その分、大当たりを引き当てれば一攫千金も夢じゃないし、堅実に結果を積み上げれば名声を得て、その名声を利用して別の職について安泰な人生を得ることも出来る。
それなりの実力が有れば、まぁまぁ裕福な暮らしは可能だから、厳しいだけではない。
「それでも、俺が想像していた冒険者像とはちょっと違うなぁ……」
「物語の冒険者達は夢とロマンを追い求めて、最期には人類の敵を倒して富と名声を手に入れるってのが定番だもんね……学校でそれは夢とロマンだったって気がついたわ……」
「世知辛いねぇ……今もミーナとノアだから一度潜ればそれなりの収益が出るけど……
4人とか増えたら……危険を冒さないといけなくなる」
「優秀な人なら良いけど、ろくでもない冒険者も少なくないって聞いたしね」
「パーティ内での揉め事の話は枚挙にいとまがないって言ってたよね先生」
「色恋沙汰から窃盗、時に殺人事件まで……」
「そう考えると、知らない人とパーティ組むのは怖いよね」
「ペアというかノアちゃんもいるトリオパーティで実は良いのかもね」
「そうすると冒険というか、仕事みたいな安全な探索を繰り返すことになっちゃうから、ミーナは教会で仕事したほうが収入も増えるし、救える人も増えるし、申し訳ないなぁ……」
「私はカイトと一緒にこうやって探索しているの好きよ、それなりに冒険もあるし。
それに、ノアちゃんがいるし」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。とにかく今回はできる限り浅い層は急いで突破して、少し深いところまで進んでいこう」
「ええ」
「いつまでも、あると思うな、学校での蓄え」
「ふふっ、たしかにね」
学園でのダンジョン探索によって得られた収益は学生のものになる。
運良くSクラスにいた俺達は、ほぼほぼ学友のとんでもない能力のおかげで結構な額の貯蓄を持っている。
貴族様たちの多いご学友たちに取ったらチンケな額だが、一般庶民である僕たちにとってはかなりの貯蓄だ。
さらに俺とノア、ミーナは研究への協力金も得ている。
拘束時間も膨大だったが、それが許せるくらいのお金は頂いている。
お互い、実家の設備を良くしたり親孝行にも多少のお金は使える(本音を言えば、一度知ってしまった魔道具の良さからは離れられないってのもある)
「よし、今日はここで休もう」「にゃ!」
「予定通り6階層まで1日でこれたわね」
ようやく重い荷物をおいて一息をつく。
テントや炊事の準備を行いながら、今日の反省や改善を話し合う。
休憩中にもしっかりと問題解決に向けて行動する。
この積み重ねが冒険者としての長生きにつながる。
先生から何度も言われてきた。
「やっぱり、この3人でやるのは楽だよね」
「にゃーん」
「そうよね、お互い何を考えているか言わなくてもわかるからね……」
「冒険するならミーナと一緒じゃないともう耐えられないかも」
「……はぁ、どうせ私が勘違いして舞い上がっても意味ないしなぁ(ぶつぶつ)」
「ん? どうしたの?」
「何でもありません!」「にゃ、にゃーん……」
「大丈夫よノア、もう慣れっこだから!」
「なんだか、仲がいいね二人は……嫉妬……」
「さ、カイトなんて放っておいて寝ましょうねー」「なー」
「ぐぬぬ……」
ノアの温もりのない睡眠……でも、冒険者にとってどんな環境でもしっかり眠れることは必須条件。場合によっては魔法で強制的に眠らせることもあるぐらい睡眠は大事だ。
そしてノアの温もりは睡眠効果を255%アップさせてくれる……絶対……。
朝目が覚めると寝袋の中にノアが入り込んでいた。
優しく撫でるとノアも目覚めたようで体を擦り付けながら外に出て体を伸ばしている。
「おはようノア」「にゃあ」
固く絞った布で顔や体を拭いて着替えて今日の戦いの準備をする。
火をおこして簡単なスープと粉と水を混ぜてこねて焼く簡単なパンを作る。
燻製にした肉と乾燥させた野菜を調味料と合わせた物をお湯で溶かしただけのスープだが、実は結構うまくて好きだ。
「おはようカイト、ノア」「おはようミーナ」「にゃ!」
体を温め、素早く、必要な栄養を取る。
まぁまぁ美味しければなおよし。
冒険者が街に戻ると食事や酒に拘る理由はこういう事情が大きい。
「今日も、油断せず行こう!」
俺たちの冒険者としての一日が始まる。