第4話 事件
「神父様!! 大変だ!!」
神託をうけおえると同時に神殿の扉が荒々しく開かれる。
今日の扉は苦労が絶えない。
「どうしたのですか騒々しい」
「魔物が村に入ってきた! けが人も出ている!」
「なんだと!」
ダスおじさんがすぐに飛び出していった。
「すぐに薬を作って駆けつけます! 村のみなを神殿に!」
母さんが僕の体を抱き寄せる。
「コール……お願い、無理したりしないで……!」
震える手で僕を抱きしめている。
そうだ、父さんの性格上、怪我を押してでも魔物を防ごうとする。
怪我をしている状態で襲われたら……
「にゃ!!」
ノアが僕の不安を吹き飛ばすように力強く鳴いて頭の上に乗ってくる。
不思議と重さを感じない。それどころか、不安がなくなり……
「ま、母さん! 俺! ノアとなら大丈夫!」
気がつけば母さんの手を振りのけて教会の外に走り出していた。
村は大騒ぎになっている。
人々が慌てて教会の方に走り出している。
その背後から黒い影が走ってくる。
「シャドーコヨーテだ!」
普段は動物の死骸を漁る森の掃除屋と呼ばれる小型の魔物で、こんな村まで出てくることは珍しい。強くはないけど、小さく俊敏で、爪と牙は結構な怪我につながる。
「フーーーッ!!」
ノアが威嚇すると、コヨーテたちがビクリと体を揺らし、こちらに向かってきた。
「ノア頼む!」
俺は確信を持ってノアにお願いする。
「ニャーーーー!」
ノアが甲高く鳴くと、目の前の空気が歪み飛びかかるコヨーテたちが地面に叩きつけられる。
「ニャ!!」
もうひと鳴きすると、地面から土の槍が飛び出して、コヨーテたちを貫いた。
「凄いぞノア!」
「ニャニャ!」
ノアが村の一角をにらみつける。
ダスおじさんがコヨーテたちを農具で追い払おうとしているのが見える。
俺は、直ぐに走り出す!
「ダスおじさん!」
「ばっ! なんで教会から出てきた!」
「確かこんな感じで!」
ノアから感じた力の流れ、同じように大地に手をかざし土を操作する。
「喰らえー!」
ボコッ
土が盛り上がってコヨーテが突っかかって転んだ……
おかしいな、槍を出したつもりだったんだけど……
「にゃー……」
ノアがため息とともに槍を作り出して転んだコヨーテを貫いた。
結果オーライだ。なんかがっかりしているのが伝わる……
「い、今のは魔法か? カイトが使ったのか?」
「ううん、ノアがやってくれた!」
「魔法を使うって……そのちっこいのは魔獣なのか?」
「ノアはノアだよ」
この世界には普通の野生動物、人間などを襲う魔物、そして高位の魔獣が存在する。
魔獣は人語を理解したり、魔法を使ったりするために非常に危険とされる。
もちろん、なかなかお目にかかることはない。
「とにかく助かった。他にも居ないか見てくるからちゃんと神殿に戻れよ!」
「パパが無理しちゃうから止めに行かないと!」
「ああ……そうだな、一緒に行くぞ!」
ダスおじさんは俺を抱えて走り出す。
注意深く村を見渡しながらもまっすぐにうちに向かってくれる。
どうやら最初に倒したコヨーテが魔物の主力だったのか、村の人達が何匹かコヨーテをやっつけていた。
「見えた! って……おいおいおいおい!!」
家の状況を見て、心臓が高鳴った。
どう考えてもコヨーテの爪痕ではない物によって家の扉が壊されていた。
「キャーーーー!」
「今の声は……!!」
「ミーナぁ!!」
素早く俺をおろして、迷うこと無くダスおじさんが家に飛び込んでいく。
俺もそれに続く……
「コーーール!」
「ダス!! 二人は無事だ! こいつはやばい! 逃げろ!!」
「貴方!!」
「パパァ!!」
ライナおばさんとミーナが飛び出してきてダスおじさんに抱きつく。
そして部屋の奥には、巨大な狼が父さんの上に覆いかぶさっている。
父さんの胸は爪で切り裂かれ、足の傷も包帯が真っ赤に染まっている。
なんとか椅子で狼を防いでいるが、今にも喰い付かれてしまいそうだ……
「ノア! 父さんを助けて!!」
「ニャニャニャニャニャーーー!!」
ノアが俺の頭から狼に向かって突撃していく。
「俺も!!」
コヨーテを叩き落とした空気の流れの操作、必死に思い出して再現する。
押し込まれていた父さんの腕がほんの少し上がり、狼との間に隙間が出来る。
同時にノアが狼の横腹に突撃する。
圧倒的な体格差があったが、狼は吹き飛ばされ、窓から外に叩き出された。
「ゴフッ……」
体の上から巨大な質量が取り払われた父さんが咳き込む、同時に地面に吐血する……
まずい、致命傷なのは……素人でもわかる。
「父さん!!」
「おお……カイト……危ないじゃないか……母さんと、逃げろ……」
父さんの顔からみるみる生気が失われていく、地面に血溜まりが広がっていく。
「死なせない! 父さんをもう、死なせない!」
わかっている。操作の仕方は、血液の理論も、そして、操作の方法はノアから教わっている。
俺は、魔法を使って父さんの傷口を無理やり塞いで、流れ出た血液を浄化して体内に戻す。
この世界に細菌だのウイルスだの知識は無いが、俺は知っている。
理論もネットで読んだことが有る。
医療系の小説は好きだった。
魔力によって父さんの体の損傷を把握して、完璧ではないけどつなぎ合わせていく。
頭が痛い……気持ち悪い……それでも、それでも今この瞬間に、やらなきゃ!
「ダメなんだーーーー!!!!」
最後の力を振り絞って、俺は気を失ってしまった。
1時間後18時に次話を出します