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猫好き冒険譚  作者: 穴の空いた靴下
第二章 王都学園編
39/50

第39話 安定と挑戦

 そろそろ撤退時期を考えていかなければいけない、まだ調子はいいが、少し疲れが見えてきた。

 誰がって?

 俺だ。

 結構全体を見続けるのってのはしんどいんだ……

 ノアのフォローがなければもっと早く疲れていただろう。


「すまない、少しペースを落としてくれるか?

 連戦で、少し疲れたよ」


「ああ、そうだな。すまん、調子が良くて油断していた」


「バランスを取っているのはカイトとノアだもんね」


「ちょうどそこがいい感じだから休みましょう」


 ミーナが物陰でありながらこちらからは周囲の見通しの良い場所に休憩準備をしていく。

 条件に合う場所を見つけたから休憩を申し出たわけだ。


 温かいお茶を飲むとホッとする。

 皆も軽食を口にしながら、その温かさにホッとしているだろう。


「ところで、どこまで進む?」


 皆が落ち着いたところを見計らって、話したかった事を問いかける。

 このメンバーでのダンジョン探索、今のところは何も問題がない、想像以上に順調だ。

 しかし、そろそろ素材などの量も多くなり、持ち込んだ準備も半分を割っている。

 もちろん帰るだけなら進むよりも消費は少ない。

 なんといっても道を把握しているし、突破を目的とした戦闘方法で問題はない。


「……正直、まだ行ける……って思ってる時が引き時だな」


 一番進みたがるであろうバイトがそう言ってくれれば、話は直ぐにまとまった。

 冒険者になろうとする生徒には叩き込まれる一つの考えがある。


 無謀は最も恥ずべき思考。

 撤退をする勇気を大切に。


 なにかに挑む時に、それが成功するか失敗するかは、その目標の内容を正確に理解して、それを乗り越えられる準備をきちんと行えるかで、挑む前から決まっている。

 冒険者を目指し始めてから卒業まで、冗談ではなく目をつぶれば頭の中で繰り返されるほどに教え込まれる。

 問題の正確な把握のための情報収集の仕方、そして、問題に対しての正確な対応のための準備のノウハウ。学園を出た冒険者が、ほぼ例外なく一定以上に成功するのは、とにかくこの点を徹底して行うからによるのは間違いない。

 結果として、学園出の冒険者は冒険をしない冒険者と揶揄される。

 どう言われても、挑戦というものは安定した足場を作ってからやるものだ。

 そう魂に刻まれているので、こういった調子がいいときほど、慎重になったりする。


 全員の意見は一致した。

 この階層の探索を終えたら帰還する。

 結局第8階層、記録の12階層がどれだけ異常か……


 そう決まっても、油断はせずに丁寧にこの階層を埋めていく。

 戦闘も常に先手を取って速攻で終わらせるスタイルを崩すことはない、索敵で敵を発見し、最大火力を叩き込んで相手に主導権を握らせない。

 この戦い方以上の手はないので苦戦することはなかった……

 そして、地図の空欄が完全に埋められる。


「さ、帰るか!」


 こうして俺達の卒業試験は、驚くほどに順調に……

 でも、かなりの戦果を上げて終えることが出来たのであった。

 家に帰るまでが冒険、帰路も油断すること無く、丁寧に帰還した。


「完璧ね、熟年パーティみたいな振る舞いだったわよ」


 帰還すると同時に、リカ先生が声をかけてきた。

 ダンジョンを出た瞬間に、全く気が付かない状態で背後から声をかけられたので心臓が止まるかと思った。


「せ、先生ついてきてたんですよね?」


「ええ、ちゃんと見て評価してたわよー」


「まじで気が付かなかった……」


「あったりまえよールーキー前の冒険者に見つかったらリカ泣いちゃう!」


「やっぱり、すごい人はすごいなノア……」


「にゃーん……」


「ついでに、最高記録の12階に行けた理由は……総重量500キロを超えるという準備を、軽々と担げる可憐な剣士がいたからよ!」


 ウインクされたけど、意味がわからなかった……魔法で支えても魔力が枯渇しそうな重量だな……

 やはり、超一流は何かが壊れている。

 俺やミーナがSクラスなのは、壊れた能力が有るわけではなく、俺とノアの特殊な研究対象としての能力と、ミーナの治癒魔法という存在だ。

 周りは何人か壊れている人間がいたので、増長しないで済んだ。

 正直、ミーナの治癒能力は凄いとは思うが、圧倒的な驚異とは感じない。

 むしろ彼女の超重量打撃武器での戦闘能力のほうが異常性すら感じる圧倒的な能力なのではないだろうか? と思っているが、うっかり口にすれば、その膂力を持って説明をされるので決して口にはしない。


 共にSクラスで学んだ友人たちには感謝しか無い、学校を出れば、もう並び立つような立場になることはないような高官や将兵となって、この国の中枢として今後の活躍をしていくのは間違いない。 

 ただただその明るい未来に期待する。


「とにかく、皆おめでとう。卒業試験は文句無しでクリアよ」









 こうして俺は、特に盛り上がりもなく、卓越した能力もすごい人達に隠れて、一応形だけSクラスをクリアしたが、『あいつは研究対象として籍を置いていただけの凡人』

 という、正確な論評を受けてノアと共に卒業して村へと戻った。

 ミーナと共に村に戻ると、村の様子が一変していた。


「完全にバブルだな」


「にゃ!」


「冒険者だらけだね……」


 村、いや、街は賑わいに賑わっていた。

 以前の村の姿は、どこにもなかった。

 巨大な冒険都市へと変貌していた。

 



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