第36話 研究と修行と勉強
「でも先生は別に気にしてなかったのに……」
「うむ……マルア氏は大変に優れた魔術師なのだが……
自分に関係のないことは興味がないというタイプだからなぁ……」
「……確かに、そんな感じはあった……」
リカ先生はすごく言葉を選んで話している。
確かに俺の話も、「その話はわからないから興味がないわ」と言って会話が終わりになることがあった。
その代わり自分の興味があることは根掘り葉掘り何時間でも質問攻めにあったりする。
小さな村だったし治癒魔法自体の細かな効果を気にする人がいなかったんだな……
「とにかく、記録もとったし、これから慌ただしくなるわよカイト、覚悟してね」
リカ先生の言葉通り、それからは大変だった。
授業が終わると直ぐに病院へ行ってミーナと共に治療の日々……
たくさんの学者に質問攻めにあったり、どうにも研究者というものは自分の知的興味のためなら、俺の体調なんかを考慮する思慮深さをどこかに放り投げるみたいで……
毎日毎日学園で身体と頭をいじめて、放課後は病院で治癒魔法攻め……
休日も病院へ通う日々、ミーナもみるみる疲弊してきてしまっている。
「リカ先生……もう、限界です……」
「そうよね……私も上に掛け合ってるんだけど……とにかく画期的すぎるし、有用すぎるから……」
「百歩譲って俺はノアとペアでやっているので大丈夫ですけど、ミーナが倒れますよ?」
「……カイトちゃんは優しいのね、わかったわ。私も本気で話し合ってみるわ」
結局リカ先生の本気の話し合いによって、俺達にも休息というものが作られることになった……
「ありがとうカイト、リカ先生から聞いたわ私のために身体を張ってくれたって……嬉しい……」
「ノアもストレスでハゲが出来ちゃって……もう、我慢ができなかったんだ!!」
「にゃーーー!!」
「私のため……私のため……」
なんだかミーナはダスおじさんに似てきている気がする。
学園でもその容姿と回復魔法の使い手、Sクラスの華としてちやほやされているのに、全て袖にして、逆にそれが人気を上げている。
おかげで俺に対する風当たりも強くなってきているらしいけど……
「お前、ミーナさんとはどういう関係なんだ!?」
こういう絡まれ方もするようになる。
「本当の回復魔法って凄いですよね、同じ村の隣人として尊敬してます!」
と、まぁそういう立ち位置に持っていくことで批判の風を上手いこと避けている。
相手はSクラス、俺も頑張ってAクラスに齧りついているという立場の差からも中々いい作戦だったと思っている。止めに……
「ノアのことを昔からとっても可愛がってくれているので、ノアがミーナのことが大好きなんですよ!」
これで、全員がほっこりと争いの種を生むこと無く話を終えることが出来る。
しかし、その平穏な日々も終わりを迎える。
「カイト、貴方のSクラス入りが決まったわ」
「ふぇ!?」
「まぁ、仕方ないわよ、貴方のミーナちゃんは格好の研究材料だし、Sクラスになったほうがお互いに得るものが多いわ、名誉なことよ」
リカ先生はにっこりと俺の手を握って労ってくれるが、俺の不安は全く別の場所にある。
Sクラスに配属され、さらに高いレベルの授業と実技が待っていた。
回りは本当に傑出した人たちだし、何より問題は、俺の隣にいつもミーナがいること……
「おい! どういうことだ!」
「えーっと、その、ノアがミーナのそばにいたがるから……」
「……なら仕方ないな……」
なんとか収まった。やはりノアの魅力は世界を平和にするんだ!
打算的な面もあるかもしれないけど、Sクラスの中でもよく組む人も増えてきた。
Sクラスのクラスメイトは皆圧倒的だ。
実技実習なんかだとついていくのが大変だ。
俺もノアも二身一体の奥義に至って、なお遥かなる高みを感じてしまう。
魔法だけじゃなくて剣技や体技も成長しているとは思うんだけど、剣に手をかけたと思ったらすでに髪の毛のカットを終えてもらってたり……なんていうか、世界が違う人がいる……
それでも一生懸命訓練に齧り付いてついていくことで、自分の力も成長していることは感じている。
特に凄まじい絶技を見れるということは何よりも糧になっている。
初めは煌めきくらいにしか見えなかった剣技もなんとか何をやっているのかぐらいは見えるようになってきた。どうやらノアはかなり見えてきているみたいだ。負けられない。
見えても体が動かなければ仕方がない、俺は徹底して思ったと通りに身体を動かす。という目標で鍛錬を重ねていく……
12歳からの青春の時間を、心身の鍛錬に全てを費やして、俺の6年間は過ぎていくのであった……