表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫好き冒険譚  作者: 穴の空いた靴下
第二章 王都学園編
35/50

第35話 治癒魔法

 何気ない一言だった。


「リカ先生、今年実は幼馴染が入学したんですよ」


「あら、凄いじゃない。どの娘?」


「あのSクラスのミーナって娘です」


「まぁ! 驚異的な治癒魔法で試験官を驚愕させた聖女候補生の!」


「ええ、凄いなぁ、俺の教えたことも役に立ってると良いんですけどね」


「あら? カイトは医療に詳しいの?」


「ええ、ノアと二人で治癒魔法を使うと結構やれるほうですよ」


「え? ……ごめんなさいねカイト、貴方が治癒魔法を使えるって聞こえたんだけど?」


「はい、自分もノアも使えますよ?」


「……ちょっとついてきて」


 いつになくリカ先生が真剣な顔つきで俺の手を引いていく。

 久しぶりに先生に飛ばされたときのことを思い出した……


 連れてこられたのはギルドの治療室。

 

「リカ様、珍しいですねここにくるのは」


「そうね、少し気になる事があって、今怪我人はいる?」


「あ、はい、こちらに」


 奥のベッドでは退屈そうにナイフの手入れをしている冒険者風の男性がいた。


「なんだなんだ?」


「学園の特記条項に従って、貴方を治癒魔法の対象とさせてもらうわね」


「!? ……冒険者なら、断れないのは知ってるだろ?

 好きにしな、いや、ラッキーだなよく考えれば」


 男性がかけていた毛布をどけると添え木され包帯で包まれた脚が顕になる。


「半分くらい逝かれちまってな、出血が落ち着いたら……冒険者廃業だな……」


「カイト、治癒魔法を」


「わかりました。

 すみませんが少し水を使うのでこちらに足を出してもらっていいですか?

 ノア、解析からやるよ」


「にゃ!」


 色々と工夫をして今では時間をかけていい治癒はこの方法で行っている。

 まずは傷の状態などを丁寧に調べる。

 その際に血管や神経などの位置も把握しておく、概念としての異物などがある場合はこの時に除外しておく。魔法で作られた純水で傷口を洗浄して細かな出血は極小の火魔法で止血する。

 治癒魔法、回復魔法は0から1を生み出すようなものじゃない、周囲の組織を利用したり、場合によっては体の別の部位から転用したりする。大きな欠損を回復したりは出来ないので、出来る限り組織量がほしい。ドラマやアニメ、漫画、小説の知識だけど、こんなとこでこんなふうに役に立つなんてね、人生わからないもんだ。


 傷の状態の把握も出来たら組織を利用して修復していく。

 どうやら爪みたいなもので骨を砕かれて皮膚を持っていかれているから、骨を修復して周囲から皮膚を閉じていく。神経も切断されていたのできちんとつなげ合わせる。

 足先への大きな血管が切れていないのは奇跡だな……この人は運が良かった……

 流石にそうなって時間が経っていたら切断するしか無い。


 そんなこんなで10分ほどで治療終了だ。

 ノアのサポートがアレばこんなもんだ。

 内蔵損傷とかがあると1時間位かかることもある。


「……記録したわ……カイト……どうして……いや、こちらの落ち度ね……

 全魔法適正に治癒魔法まであるなんて……でも、なんか違うような……」


「おお、足の感覚が! って、立てる!?」


「す、凄いですわ! リカ様、こちらの治癒師の方は?」


「……生徒よ、まさか、今まで治癒魔法を持っているなんて見落としてたけど……」


「治癒魔法って珍しいんですか?」


「そうね……しかも、貴方が使った魔法は、治癒魔法じゃないわね……」


「治療しましたよ?」


「……説明するよりも見てもらったほうが早いわね」


 それから再び学園に戻り、なぜかミーナと一緒に街に連れて行かれた、学園特製の馬車での移動だ。

 暫く走ると大きな建物が見えてくる。


「入るわよ」


「病院……?」


「そう、ミーナちゃんも課外授業で何度も来ることになるわ」


 リカ先生はずんずんと病院の奥へと歩いていく、すでに連絡が行っているのか数人の職員が案内している。

 そして、ある一室に入る。

 たくさんのベッドが並んで、そのベッドは全て埋まっている。

 見るからに重症な人が多い。

 そして、その人達を治療している人は魔法は使っていない。

 なにか不思議な液体を塗ったり、包帯をしたり、ちょっと、原始的というか……


「ミーナちゃん、この人に治癒魔法を」


 酷いな……凄まじい傷跡で腕がえぐられている。


「は、はい!」


 お、ミーナの魔法を初めて見るぞ。

 ノアも頭の上で興味津々で覗き込んでいる。


「神よ、癒やしのお力を分け与えください……」


 ミーナの手から柔らかい光が発せられ、傷口が、みるみる塞がっていく……


「ん? これ、どうなってるんだ?」


「そう、貴方の魔法とは違うでしょ?」


 そうなんだよ、これ、傷口を治していくのに、周囲の物を使ったりしていない……


「治癒魔法は、魔法の中でも特殊、神から与えられた物なの。

 本当に選ばれた人間しか使えないわ。

 でも、カイトの魔法はそれとは全く違う……

 もしかしたら、貴方はマルア氏と同じように、魔法史を塗り替えるようなことをしているのかもしれないわ……」


 それから1時間ほどかけて傷口は回復した。

 なるほど、かかる時間は結構違う、でも、俺の魔法で対応できない怪我も治せる……でも……


「そう、大怪我で大出血とか今すぐに死んでしまいそうな時に、間に合わないの……

 もちろん鍛錬次第で治癒速度はあげられる、それでも限界はあるわ。

 ミーナちゃん、凄いわね。その歳でその速度に精度……今直ぐにでも教会から声がかかるわね」


「……実はそのお話もあったのですが、私は学園で学びたいんです!」


 ミーナがちらりとこちらを見る。

 なるほど、知り合いがいたほうが気が楽だもんな、教会とか固っ苦しそうだし……


「ありがたいわ……次は、カイトこちらの人を治してくれる?」


「え、でもミーナと違って俺の治癒は……」


「いいの、さっきの人とかなり似た傷、お願いね」


「わかりました……ノア、やるぞ……」


 10分ほどで傷の処置を終える。


「さて、ふたりとも、腕の状態はどう?」


「ありがとうございます! まだしびれはありますが、鍛錬を積めば元のように使えるようになります! 本当にありがとうございます!」


 ミーナが治療した人は大事そうに手を擦っている。


「……何をされたんですか? 治癒直後なのに、まるで自分の手が蘇ったみたいだ……」


「いや、ちょっと筋力とかも落ちてると思うので……」


「いや! 凄いことだよ!」


「……? どういうことなんですか?」


「神の奇跡で治した傷は、また元のとおりに扱えるようになるまで、数ヶ月かかるのが普通なの……

 カイトの魔法は……異常なのよ」


「視てもいいですか?」


「ええ、もちろん」


 ミーナが治した腕を調べる。


「……ああ、なるほど……ちょっと失礼しますね」


 細く弱々しい神経や血管を周囲の組織を用いてバランスを整えていく。

 ちょっと手伝うだけでみるみると血行が改善して、陶器のように白くなっていた組織に朱が指す。


「おおおおおお……感覚が!」


「……驚いた……そんなことまで出来るのね」


「すごいわカイト!」


「いやいや、ミーナの魔法のほうが凄いよ、本当に奇跡だろ」


「二人が力を合わせたら……学園特記条項に則って、今見たこと聞いたことに箝口令をしきます!」


 それからは、大変だった……

 王国の偉い人が来たり、兵隊が回りを守っていたり……

 俺とミーナは魔力が尽きても、まっずいポーションを使って治療を続けることになった……

 

2021年、令和2年が皆様にとって素晴らしい一年でありますように!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ