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猫好き冒険譚  作者: 穴の空いた靴下
第二章 王都学園編
32/50

第32話 超越者

「あら、銘打ちなんて凄いじゃない、そう簡単には出してくれないわよあの親父」


 緊張して早めに待っていたら、いつの間にか背後に回って武具を観察されていた。

 あの巨体でどういうシステムなんだ……ノアも目をまん丸くして驚いている。


「あ、ありがとうございましたリカ先生!」


「良いのよー、それにお礼を言うのはまだ早いわ」


 リカ先生は冒険者ギルドの中に入っていく。俺たちもそれに続く。


「はーい! お久しぶり。地下に行きたいからよろしく」


「リカさん! 冒険者に復帰するんですか!?」


「残念ながらそれはないけど、未来の有能な冒険者をちょっと育てにね」


「ってカイト君! ま、まさかリカさん……まぁ、リカさんがいれば……

 カイト君、死なないでね?」


「え、あ、はい」


「それじゃ行くわよー」


 いつもの地下への入り口と別の入口があったとは……

 しかもギルドの裏からしか入れない位置に厳重に警備されていた。


「入ったら、一瞬も油断しちゃダメよ?」


 扉が開いた瞬間、リカ先生が鎧に包まれた。

 めっちゃかっこいい、なにこれ……


「私の相棒、太古のアーティファクトよ」


 リカ先生の武器は巨大な両手剣、まるで小刀みたいに扱うから脳みそがおかしくなりそう。

 俺もノアもまるで体の一部のような新しい装備に身を包んでリカ先生についていく。

 長い下り階段、時折襲ってくる魔物をまるで小枝で薙ぐように片付けてどんどんと地下へと降りていく。あまりに簡単に倒すから魔物が弱いのかと思ってしまうが、実際には俺が上層で相手をしているような魔物よりも遥かに危険な魔物だ。

 リカ先生の一挙一動を目に焼き付けていく。


「さて、そろそろ危険な階層になるわ。このルートはあまりに簡単に深くまで行けちゃうからギルドが管理しているの。ここからは、カイト貴方も前に出なさい」


「はい!」


「ニャ!」


 俺の肩には可愛らしい服に身を包んだ相棒が居る。

 これからは、俺がノアを守るんだ!


「さて、まずは目を慣らさないとね」


 魔物が現れた。骨で作られた鎧を身に着けた犬、外骨格を持つ犬に似た魔物でアーマードッグと呼ばれている。大きさは立ち上がると2mほどになる超大型犬だ。


「アーマドッグの上位種、外骨格の硬度は鍛え上げた鋼よりも上……

 さぁ、どうする?」


 定石通りに行けば鎧の隙間を狙う……

 襲いかかるドッグの激しい攻撃を受けながら、隙間を探す……

 関節のごく一部、目や口の周囲などの限られた場所しか無い、下位種とは比べ物にならないほど守りが厚い。

 一撃一撃も重く、以前の武器や盾なら保っていなかったかも知れない……

 バッカルさんがくれた武具は、刃こぼれ一つなく、自分の思ったとおりに動いてくれる。

 

「未熟だからこそ、良い武具を使いなさい」


 まるで俺の気持ちを読み取っているかのようにリカ先生が語りかけてくる。

 リカ先生の足元にはすでに数体のドッグが転がって灰となっていく。

 外骨格をまるで軽石を斬るみたいに切断している。

 なにかタネがあるかと思ったが、ただ、圧倒的な技術と力で切断している。


「私の真似は無理よー、コレは私のスタイル。

 カイト、貴方は貴方のノアのスタイルを作りなさい」


 そうだ、俺はひとりじゃない、今もノアは俺のサポートに徹して補助に回ってくれている。

 手数は以前よりも少ないが、安心感、安定感はある。

 始めは暴風のように感じていた相手の攻撃、一撃でもまともに喰らえば即死級だろう……

 緊張と恐怖に負けない勇気を持って観察、工夫をしながら立ち回る。

 少しづつ相手の動きが読めてくる。

 回避にも余裕が出てくる。

 命のやり取りをしながらの戦闘は、飛躍的な成長を促す。

 ゴブリンたちとの戦闘を思い出してくる。

 俺に足りなかったのは、挑戦だ!

 胸が熱くなる。


「ノア、仕掛けるよ!」


 するどい爪が振り下ろされる、盾で滑らせるようにいなして目の前に現れた横腹、頑強な横っ腹を晒すのは自らの鎧を俺が砕けないと理解しているからだ、知能も高い。

 俺は超高温の火球を放ち、ノアが俺の刀身を極寒の風で包む。

 火球が爆ぜるも鎧は砕けない、内部の細かな空胞構造が熱変性への耐性を作っている。

 そこに俺の剣が突き立てられる。

 ゴキンという手応えとともに、外骨格が破壊され、そのままズブリと横腹に突き刺さる。


「食らえ!」


 内部に風による無数の刃を走らせると、ドッグは大量の血反吐を吹き出して絶命する。

 サラサラと灰と化して、魔石だけが残る。


「やった……」


「はい、油断しない」


 俺の背後から静かに忍び寄ってきた、影走りと呼ばれるトカゲのような敵にリカ先生が剣を突き立てる。気配も感じられなかった……天井などに張り付いたり物陰から一気に襲ってきてその鋭い顎で一撃のもとに絶命する冒険者も多い。


「す、すみません!」


「ノアちゃんも気配探知は魔法使いの領域よ、特にこいつらは並の気配探知をくぐり抜けてくるわ」


「にゃ、にゃー!」


「でも、工夫で敵の装甲を破る手段は良いわね。色々出来るんだから組み合わせて使えば絶対的な力にも……拮抗できるわ!」


 そう言いながら横を流れる下水道から飛び出してきたワニ型魔獣を叩き切る。

 物凄い強固な外皮で冒険者キラーの異名を持つ恐ろしい魔獣のハズが……


「力はパワーなのよ」


 リカ先生の神技だ……

 絶対的な力にも拮抗できるとリカ先生には言われたが、今の俺達ではリカ先生に拮抗できるとは到底思えない。

 俺とノアは顔を見合わせて、今できることを最大限行おうと気持ちを新たにするのであった。



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