第28話 学園の友
燃え盛る炎は直ぐに地面に吸収された。
「ふん、まぁまぁだな……」
とんでもない魔法を放ったのにケロッとしている。
なんというか、見た目もファイアーな感じ、ヴェルウェルさん……18歳。
真っ赤なコートに胸元を大きく開けた真っ黒なシャツ、ズボンも真っ赤でド派手。
髪の色が青みがかった黒なのが惜しいけど、その瞳は爛々とギラついている。
属性を一極にすれば俺なんかより使える人間がゴロゴロいる。
その才能は天から与えられたもので、人の努力は介在しないので、全属性の人間が一つの属性に打ち込めば、その属性だけが伸びるわけではない。確かに一つの属性の伸びは抜きん出るが、中途半端に一つの属性しか使えない全属性の人間が出来上がるだけだ。
複数属性を扱える人間は、出来る限り全ての属性をバランスよく鍛錬して、色々な状況に対応できる多様性の方向に伸ばしていったほうが良い、と先生は教えてくれた。
それぞれの得意属性なら、俺とノアを圧倒する人間が珍しくもない、これが学園……
しかも、驚きは続く。
剣術においても、魔法も剣も師匠ほどではないが使える人間はいた。
俺はどちらかと言えばスピードで撹乱して、タイミングを図って中距離から魔法で仕留める。という戦闘スタイルだけど、圧倒的な力とパワーで敵を粉砕する人や、二人いるの!? と思わせるほどのスピードで戦う人、なるほど学園に来る意味がよく分かる。
ここに来たら俺なんて、どれもそつなくこなして、どれも目立たない……
普通くらいの実力であることを思い知らされた。
もちろんノアとのコンビネーションがあれば……
「ふぅん、結構やるな……」
ってぐらいには思ってもらえる。そんな感じだ。
「す、すげー! ノア、ここは凄いな!」
「ニャン!!」
逆に俺もノアも燃えてくる。
ここに居るみんながライバルであり学ぶべき師なんだ!
全てのテストが終わり寮へと向かう。
初日だけはクラスと寮の部屋は関係ない。
特殊なクラスに行くと、いい部屋を割り当てられたりもするんだけど、普通の生徒は今日入る部屋で一年を過ごすことになる。
部屋は4人の相部屋なのでルームメイトがどんな人か楽しみだ……
部屋に入ったら歓声が上がった……
「よっしゃーーー!!」
「ずっと気になってたんだ! この子君の従魔だよね? ここで一緒に暮らすんだよね?」
「さ、触ってもいいかな!?」
歓声の原因はノアだ。そうか、たしかにうまく行けば一年間ノアと暮らせるというのはこれ以上無い至高のご褒美、歓声も頷ける。
そう言えば凄い狼を連れた子も受験生にいたなぁ……
ルームメイトは、
ダステン=コールイン、17歳 剣士、商人の次男の生まれで昔は喧嘩っ早かったけど、街に来た冒険者の剣士に憧れて剣の腕を磨いた。メキメキと頭角を現して、街を襲った魔物をどの大人よりも始末した功績によって町長から推薦された。明るめの茶髪を短めに整えて、イケメンだ。服の上からでもその肉体は見て取れる。ノアを撫でている姿がとても絵になる頼れるお兄さんって感じだ。
ボーロック=ジース、18歳 魔法剣士、父親は冒険者で魔法使い、魔法は水と土の陽を得意としており、父からは魔法、父のパーティメンバーから剣の腕を見込まれて、小さな頃からしっかりと叩き込まれて来たらしい。父親を通してギルドマスターからの推薦だ。暗めの茶色が肩まで伸びていて人懐っこい笑顔でノアを撫でてくれる優しいお兄さん。
ケーネスト=パーミット、18歳 風魔法使い、貴族の息子だが4男、そんなに力のある貴族じゃなく、魔法適性がとても高かったので、王国に仕えることを目指して学園に推薦された。知性と品性が見て取れる上品な顔つきはかっこいいと言うよりは綺麗だ。真っ黒な髪を後ろで束ねている。クールに見えるがノアを撫でる優しい表情のギャップに乙女たちはぐっと来るだろう。
12歳での入学はいないらしく、必然的にまわりは年上になる。
「結構話題だったんだよ、あの子、ノアちゃんは誰の部屋になるのかって!」
「あのサイズなら部屋で過ごすだろう、なら1年間部屋にはあの子がいるんだーって」
「かわいいね……」
ノアは愛想よくみんなの膝の上をトコトコと歩いて回っている。
こういうところも如才ない。
「カイト君は12歳で全属性魔法を陰陽関係なく使えて、さらに従魔も同様、剣の方も結構出来るって噂になってるよ」
「いやいや、まわりがすごすぎて驚きっぱなしです」
「ああ、わかる……俺も街では大人だって顔負けで少し調子に乗ってたけど……凄いなここは……」
「でも、知っちゃったから、目指すしかねーよな」
「そうだな、目指すべき人間がたくさんいるなんて、俺達はラッキーだ」
「ニャン!」
それからは、それぞれの地元での話や、今に至る話、これからの生活への夢などを語り合った。
もしかしたら、今日一日しか一緒にいられないかも知れないけど、同じくらいの年の、同じ夢を追う人たちと語り明かした夜を、俺は忘れない。
気がつけば、朝日が窓から差し込んでいた。