第26話 学園
ギルドを出て馬車は走り出す。
王城を右手に見ながら別の区画に向かうみたいだ。
王都は城を中心に北と南に大門、東は海に面しており港が作られている。
その西区画に学園はある。
城周囲の中央区画にギルドや行政機関が集まっている。
円形の大通りの内側は中央、外が外輪と俗称で呼ばれていて、中心に近づくほどマウントが取れるって寸法らしい。
西区の最もなか寄りに学園は存在する。
周囲を高い壁で覆われていて、なにか秘密の研究をしているかのような雰囲気があり、そして巨大だ。王国の研究設備もここにあり、子供から大人までが所属し、学んだり研究したりしており、その人材は傑物しかいないのだから厳重に守られている。
「城下町の中に城下町があるみたいですね……」
レンガ造りに鉄柵門、衛兵が周囲を警戒している。
巨大なレンガ壁に大きな門、その風貌から観光に訪れる人間も少なくないのか、別段俺たちを気にする様子もなく警備にあたっている。
正面門鉄柵の隙間から中が見える。
正面にレンガ造りの美しい巨大な建物、中央研究所だ。
学園最大の建物で、この国の最高の頭脳をもつ者たちが日々研究を行っている。
教育設備は入って左手、生活する場所が右手にあるらしいが、残念ながらそこまでしっかりと見ることは出来ない。
魔法科学よりなイメージが強いが、剣術を始め武術関連設備も非常に充実していて、王国が誇る近衛騎士団へ平民が入るにはこの学園で結果を出すことがほぼ唯一な方法だと言われている。
冒険者に置いても、上級冒険者以上の冒険者の9割はこの学園と何らかの繋がりを持つらしい……
とにかく、すごい場所だ。
「カイトが入学したら完全な宿舎生活になる。
カイトはすでに冒険者なので外にも出られるが、かなりの時間をこの中だけで過ごすことになる。
実際何年もこの中だけで生活することになっている人間も多い」
「なんていうか、でかいですね」
「でかいわよ、中で迷子になっちゃうことも珍しくないわ」
「それだけ王国ではここに期待しているし、事実ここから様々な物が生み出されている。
発明品然り、人材然りだ」
俺はここで何を生み出せるのか……
背筋が伸びる思いだ。
「にゃん!」
「ああ、頑張ろうぜ!」
見えないけど、ノアの背筋も伸びているはずだ!
「遥か高みが居る、それが糧に成る人間も居る。
しかし、毒になる人間も居る。俺はカイトが前者であることを信じている」
「私もよ、すごい人に混じって、必死でついていきなさい」
「はい! 師匠、先生!」
それからは街の中を軽く説明を受けながら今日の宿へと向かう。
王都で師匠、先生と過ごす時間は、忙しく過ぎていく。
学園生活で必要なものを揃えたり、事務的な手続きを行ったり、あっという間に時間が飛んでいった。
「今日は、ここで食事だ」
師匠が見たこともないきちんとした格好をしている。
映画とかの貴族? みたいな礼服、師匠の鍛え上げられた肉体と、きちんと整えられた姿が合わさると、こんなにも男らしく、そして格好いい。
先生もドレスに身を包み、その気品と美しさは華が開いたようだった。
「カイトもカッコいいわよ」
どうやら感想が口から漏れていたみたいだ。
自分もなんだか照れてしまうが、きちんとした襟付きシャツにジャケットズボンスタイル。
生まれてこの方、こんな格好をしたことはない。
「それにしても……」
全員の視線が俺の頭上に集まる。
「ノアちゃん、可愛いいいいーーー」
「いやいや、カッコいいだろ!」
特製のシャツとジャケットをビシッと着こなしているノアは最高に可愛いし、カッコいい。
街の人々の目を、一番引いているのはノアなのかも知れない。
師匠と先生は明日、パーティと合流してダンジョン都市へと移動する。
俺も明日からは学園の寮生活が始まる。
その最後の夜、王都でも一番大きなレストランで食事をすることになった。
「あーーーーノアたん可愛すぎですよーーー」
個室に案内され入るとガーランドさんがノアの姿を目ざとく発見して、ドン引きの赤ちゃん言葉で話しかけてきた。
ガーランドさんは、軍服? みたいな印象の受ける服に身を包んでおり、口さえ開かなければ威厳のある人物に見えただろう。すでに手遅れだが……
「あらあら、カイトも立派になって……」
「本当に、カイトなんだよな?」
父さんと母さんも待っていてくれた。
久しぶりの再会にそのセリフはどうかと思うぞ父さん。
「男子三日会わざれば刮目して見よ、と言う言葉がありますが、まさにカイト君のことですね」
べネス神父は儀式の時に身につけるような礼服に身を包んでいる。
この世界にもその言葉あるんだ。と、変な感心をしてしまったが、みんなが集まってくれた。
「今宵は、俺の弟子、そのまた弟子の門出、大いに楽しもう!」
ガーランドさんが乾杯の挨拶をすると、見たこともないような料理が運ばれてくる。
父さんも母さんもきゃあきゃあと騒いでいる。
正直、日本でもこんな料理はテレビの向こう側でしか見たことがない。
もちろん味も素晴らしかった。
師匠、先生、ガーランドさん、父さん母さん、ベネス神父たちとたくさんの話をした。
ガーランドさんが上級冒険者だった時の冒険譚はオレの心を非常に高ぶらせたし、師匠と先生が挑む世界の厳しさに少しだけ不安な気持ちにもなる。
「大丈夫だ。カイトの進むべき道となる。そう決めた」
「カイトとノアちゃんと出会って、私達ももう一度夢を見られるわ、本当にありがとう」
二人の言葉に目頭が熱くなった。
二人から教えられたことは計り知れない。
「俺も、学園でしっかりと学び、ノアと一緒に二人に追いつきます!」
俺は、この日の食事を生涯忘れることはないだろう……
そして、俺は、学園の門をくぐることになる。