第23話 旅立ち
俺の作ったノア人形はノアの不興を買って壊されてしまったが、全然気にならない。
ああ、頭の上はこうじゃなければ……
「ノアぁ……」
「にゃあああぁん……」
ノアの感触を顔全体で感じている。
その目の前では師匠と先生がずっと土下座している。
村へ帰り、皆に迎えられ沢山の人や親に泣かれて、身なりを整えて、家に帰って二人に土下座されている。
「もう良いですよ師匠、先生、誰もわからなかったんですから。
俺はノアと会えたのでそれで良いんです」
「本当に申し訳がない……」
「ごめんなさい」
正直、少しめんどくさくなった。
俺のすべての苦労はノアと再開したことによって全て解消している。
父さんと母さんもめちゃくちゃ泣きつかれたけど、今は一刻も早くノアとイチャイチャしたいのだ。
「本当にもう大丈夫ですから、ところで卒業試験の方はクリアでいいんですよね」
「もちろんだ……あの森の中を3ヶ月生き抜くなんて並大抵の冒険者でも不可能だ」
「しかも、はるか深部にまで飛ばされて、大変だったでしょう……」
先生も師匠も本当に申し訳無さそうだ。
「大丈夫です。何よりきつかったのはノアに会えないことでしたし、一番はじめのゴブリンの集落に特攻した以外は、安全に進むようにしましたから」
「……ゴブリンの集落?」
「ええ、そうだ! どうやら遺跡を根城にしていたらしく、かなり色々と手に入れてきたんですよ!」
それから戦利品を車から持ってきて披露した。
先生が直ぐにギルドに走ってガーランドさんも家にやってきた。
どうやらギルドの職員も一緒だ。
「この剣が無ければ大変でしたよ……」
特に全員が剣に興味津々だ。
大量の魔石を出したことにも大層驚かれた。
さらには魔道具や宝石、金貨などの貨幣も出すたびに皆が息を飲んでいた。
ギルドから応援が駆けつけ、何やら道具が持ち込まれて大騒ぎになったので、疲れているからと自分の部屋で好き放題ノアとイチャイチャしていたら、いつの間にか眠っていた。
こんなに安心して深く眠ったのは久しぶりだった……
「ふぁーお腹すいたー」
部屋から出ると何やら物々しい雰囲気でガーランドさんと師匠と先生が頭を抱えていた。
「どうしたんですか?」
「カイト、この遺跡がどこにあったかはわからないよね」
「うーん、飛ばされている途中に気を失ってしまったし、とにかく夢中であるき続けてきましたから、森の深部に3ヶ月位行ったところかなと……」
「だよな……」
「やっぱり凄いものだったんですか?」
「ああ……特にこの剣は……はるか古代、神代の時代に栄えた魔導国家ベリリオンで作られた武器の可能性が高い……国宝級じゃな」
「この金貨、同じくベリリオンの魔法硬貨ってやつで、一枚で王都にお屋敷が持てる……」
「おお、凄いですね……」
「いくつかの魔道具は、今、世の中に出ているもののオリジナルとも言える物で、これを解析すれば、世の中にある魔道具が全て一新する可能性もあるわ」
「ゴブリンキングが神代の武器を所持していたとなれば、事によっては人類の危機だったのかもしれんし……この功績は……一平民の枠に収まりきらんぞ……」
「しかも……12歳の準冒険者……」
「これは、秘匿事項とするしかない。
そして、一刻も早くカイトには上級冒険者になってもらう!
それだけの実力もある!」
「そうですね、それしかありません!」
「そして、上級冒険者としてこれらを提示すれば特級冒険者は間違いない、さすればたとえ国家でも手出しができなくなる!」
「こうなったら俺たちも直ぐに上級冒険者になって学園から卒業したカイトをフォローできるようにならないと!」
「そうね!」
「それではオネの街ギルド長として命じる。
この場で見たこと聞いたことを外で語ることを固く禁ずる! わかったか!」
「はい!!」
特級冒険者……
冒険者ギルドにおける最上級冒険者のことだ、現在この王国には5本柱と呼ばれる特級冒険者が居る。それぞれがとんでもない功績を立てた人たちらしい。
俺とは関係なく、どんどんと話が進んでしまう。
俺が持ち帰ったものは厳重にガーランドさんが封印して守ってくれるそうだ。
そして、俺の学園入り、先生と師匠の王都でのパーティ入りに向けて急ピッチで準備が行われていく。
俺が持ち帰ったものの魔石は俺の希望でギルドに卸して、そのお金で師匠と先生のための最高級の武具に使ってもらった。
もちろん固辞された。
「絶対に死なずに上級冒険者になって返してください」
と言ったら従ってくれた。
なんだかんだ言って、師匠と先生には返しても返しきれない恩がある。
俺も学園で頑張って、師匠たちと肩を並べる冒険者となって冒険したい。
「な~~」
「ああ、もちろんノアと一緒にだ!」
俺とノアはついに街を出る。
小さな辺境の村、そこで産まれた普通の子だった俺は、今、前世の記憶とノアとともに冒険者としての広大な世界への一歩を、踏み出すのであった。
まだ見ぬ学園で、どんな出会いがあるのか、ノアをかわいがってくれる友人は作れるのか、不安もあるが、それ以上にドキドキのほうが大きい。
「カイト、手紙を書いてね? 私も書くから!」
「うん、ミーナも元気でね。
ダスおじさんもベネス神父もみんなも、父さん母さん、行ってきます!」
「カイト、気をつけてな!」
「カイト、お家にも手紙ちょうだいね?」
「ちゃんと手紙を書けよ、ミーナを泣かしたら許さんからな」
「カイトの進む道に神の光がありますように……」
こうして、俺は、街を出て、学園へと向かうのだった。
俺がいなくなって日々を不安に過ごしていたノアと毎晩一緒にいて、抱きしめて、撫でて、落ち着かせてくれていたミーナには、力の種が生じていたのだが……
それが芽吹く話は、少し先になる……
第一部はここまでになります。
次も明日17時に投稿します。