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猫好き冒険譚  作者: 穴の空いた靴下
第一章 オネの村編
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第21話 食事と森のルール

 思いも寄らない結果に、しばらく放心してしまったが、ミノタウロスの手足が灰となって分かれた半身から大量の血溜まりが広がって行く光景に、ようやく思考が蘇ってきた。


「なんて切れ味だ……」


 刀身に描かれた文字が淡く光って、そしてよく見ると刀身がぶれて見える。

 構えを解くと光も消え刀身のブレも止まる。


「間違いない、これ、マジックウェポンだ……

 しかも、とんでもなく強力な……」


 古代の遺跡からは失われた技術によって作られた魔道具などが発見されることがある。

 もちろん色んな場所から同じような魔道具が見つかったりもするが、まれにとんでもない性能の2つとない魔道具が見つかることがある。

 特に武具は人気が高く、性能が高いものだと国が動くほどのお金がやり取りされることがある。らしい。

 簡単な魔道具は今も作られており、魔石を使った生活用品も広く使われている。

 電気や蒸気機関などの代わりに魔法による技術が伸びているイメージだ。

 電気も魔法で作れるから、前世の世界と異なる発展をみせるだろうなぁ……


 血の処置や肉の切り分けと残った素材の処理、さらには寝床の整備をそんな事を考えながら行っていく。多岩と木の根によって作られた部屋は想像以上に快適だ。

 隙間を周囲の草木で埋めて、入口部分に火を炊いて煙でしばし燻すことによって虫よけも兼ねて独特の据えた香りが満たしている。

 しばらく換気すると匂いも落ち着いてむしろ居心地のいい香りに包まれる。

 寝床なども草を刈って布で包むいつもの奴だ。


「さーて……ようやくお楽しみの食事だ!」


 本来肉は熟成という手順をとったほうが美味いけど、ミノタウロスの肉はそのままでもかなり美味しい。

 準備と言っても魔道具のおかげで火起こしもめちゃくちゃ楽だ。

 脂の少ない赤身の肉を薄く切り出して、熱く熱した石の上に少ない脂身を乗せると、直ぐに香ばしい香りがしてくる。そこに薄切り肉を乗せればたまらない香りが広がる。味付けは塩と香辛料だけのあっさりと仕上げる。というかそれしか無い。

 あんまり森の中でいい匂いをさせると魔物が寄ってくるので、きちんと草木で覆われた場所で調理したほうが良い。酸欠には充分注意しよう。

 軽く焼き目をついた肉を枝で作った箸でつまんで……


「うっま!!」


 熱々の肉を噛みしめると心地よい感触が押し返してくる。

 力を込めて噛みちぎるとミノタウロスの力が濃縮したような濃い味が口の中に広がる。

 脂っぽさのないスッキリとした力強い味わいは、単純な塩と香辛料に加えて、空腹という最高のスパイスによって素晴らしい味わいに昇華されている。

 付け合せのキノコや芋みたいな食物も僅かな油があるだけで別レベルの旨さになる。


「しかし、ゴブリンは死にそうになったけど、結果を見ればラッキーすぎたな……」


 食事にこれ以上無く満足した後は、このサバイバルを生き残るための準備を整えていく。

 何かをしていないとノアがいない喪失感に押しつぶされそうになる。


「この剣もとんでもないものだしなぁ……」


 そのとんでもない剣を使って、今は弓を作っている。

 彫刻刀みたいにスルスルと木を加工できるので少し怖いくらいだ。

 森の中には色々な植物が有り、弓の弦にも使えるような植物もある。

 師匠と先生に冒険者のサバイバル知識は叩き込まれている。

 普通12歳がここまで理解が高いのを誰か疑問に思わないのかい? って思ったけど、ギフトがあれば珍しくないと聞いて驚いた。


「学園か……楽しみだな」


 そのためにも早く森を抜けないと。

 とんでもない武器を手に入れ、たくさんの魔道具を手に入れている。

 これ以上ノアのいない生活は耐えられない……

 明日からは、ペースを上げていこう。

 そんな事を考えて、草を詰めて丸くした布をノアと思って撫でながら眠りについた。


 ペキペキ


 その音が耳に入ると反射的に飛び起きて剣を抜く。

 今回は準備万端なので周囲に小枝を巻いておいた。

 これによって何かが近づくと特徴的な音が鳴る。

 冒険者の知恵の一つで、森の中なら簡単に準備できる。

 息を潜め、ゆっくりと外を窺う。

 何かがこの木の回りを歩いている。

 入り口にかけた蔦のカーテンから覗き見る。


「……さすがの嗅覚だな……」


 森のハイエナが群れをなしてミノタウロスの死骸を埋めた場所を掘り返し始めていた。

 ニオイ消しもしたつもりだったが、奴らの嗅覚はその上をいっているみたいだ。

 この場所の入口の前ではまだ火がくすぶっているので、距離を詰めてこないが、もし来るなら相手をしなければいけない。

 またも多数相手の戦闘になる……

 いくら斬れる剣を持っていても、数に襲われれば危険が危ない……

 じっと気配を消して様子を窺う。

 処置をした肉の方は丁寧に葉で包んでいるのでまず大丈夫だよな……

 もし襲ってきたらこの石を背後にどう立ち回るか……

 いざとなったら肉を投げつけて逃げればまずリスクのない肉の方へ行くはず……


 色々なことをぐるぐると考えていた。

 ハイエナ達は骨を掘り返して喧嘩をしながら奪い合っている。

 ガリガリベキベキと骨を砕く音がする。

 奴らのあの牙と顎の力は侮れない、一度組み付かれたら相手を砕くか首を落とすまで離さない……


 剣を握る手のひらにじわっと汗をかいてしまう……


 結局、ハイエナ達はすべての骨を掘り返してしゃぶり食べ尽くして、森の中へと消えていった。

 やはり、この森は油断ができない。


 ようやく一息ついて、森林脱出のためにまた荷を背負うのだった。

 

 



 


明日は17時に投稿します

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