表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫好き冒険譚  作者: 穴の空いた靴下
第一章 オネの村編
20/50

第20話 幸運

「げ……何この巨大な魔石……」


 これは、本当にやばかった……。

 これほど大きな魔石だと、みんなと一緒でも苦戦するレベルの可能性がある。

 良かった……たぶんゴブリンジェネラルとかもしかしたらキングとかまであるかも知れない。


「最初から出てこられたら……即死だったかもなぁ……」


 卑怯な方法だったが、勝ちは勝ち。

 ありがたく魔石をしまう。

 足元を見ると見るからに立派な剣があったので拾っておく。

 宝箱にも結構な量のアイテムと金貨や銀貨、宝石があったので回収する。

 途中で布袋をいくつか拝借したのでどんどん詰めて、遺跡を後にした。


「いやー、これ、凄いな……」


 剣を抜いてみると、明らかに只者ではない雰囲気を放っている。

 持ち込んだショートソードはすでに刃物としては使えず鈍器だろう。

 根本もガタガタだし、拾った武器はボロボロなのでこれからどうするか悩んでいたが、この剣があれば安心して戦える。

 さらに見た目が良い。

 しっくりと手に馴染む柄、まっすぐと伸びる刃の部分はくすんだ輝きを放っているが、一番の特徴はダマスカス鉱のような紋様と刻まれた文字だ。

 多分古代文字なので、これは太古の遺産と呼ばれるオーパーツだろう。

 とんでもない業物な気がする。

 試しに木片を斬ると、地面に落ちてからしばらくしてパラリと2つに分かれた。

 とんでもない切れ味だ。


「いや、他の物も凄いな……」


 金銀財宝も凄いが、ランプのように光を放つ魔道具、ライターのように火の出る魔道具、前世からすればあれだが、この世界では……骨董品としての価値があると思われる。


「でもこれは良いな。隠者の鈴だよなこれ……」


 見たことがある。使った人間は鈴の音が届く範囲で相手に認識されにくくなる。

 野営が格段に楽になる人気のオーパーツだ。

 いろいろとゴブリンの道具を使って大きなリュックを作り上げて、持てるだけ持って帰ろう。


「重い……」


 いつもノアに軽くしてもらっていた。


「ああ……ノア……」


 一晩立つと、本当にノアに会いたくなる。

 すでに泣きたい。

 それでも、歩みは止めない。

 

「一刻も早くノアをハスハスしなければ……」


 荷物は大きくなったが、鈴のおかげで魔物と戦うことは格段に減った。

 今回の反省はあるが、あれだけ強力な敵が出るということは、この場所が最深部よりも深い可能性がある。ちんたら進んでいたら、ノア不足で禁断症状が起きて死んでしまう。


「だからって……大顎門の群れは……」


 小川沿いに村の方向進めるだけ進みたかったけど、途中に大顎門の群れが住む場所に当たってしまい、大きく迂回することになった。

 戦闘に対して不安に思う点はいくつかあった。

 遺跡で発見した剣。素晴らしい切れ味で雰囲気も最高なんだが、切れ味が良すぎることが怖かった。前世の記憶で切れ味の良い刃というものは、例えば剃刀なんかはそうだが、直ぐに刃こぼれをしたり薄さと鋭さを追い求めた結果耐久性が無いことが多い。

 戦闘のためではなく装飾的な意味合いとしての剣の可能性も有り、その場合あっさりと折れでもしたらゴブリンのような武器を扱う魔物なら奪うという手段もあるが、大顎門のような動物系の魔物だと、最悪素手で対峙する可能性が出てしまう。

 流石に、大顎門相手に武器無しで勝つ映像は……浮かばない、さらには群れに対しては……


「そろそろ、どこかあたりを付けないとな……」


 日が傾いてきたら野営地点を探す。

 いくら魔道具があるとは言え、睡眠時が一番危ない。

 すでにギャンブルみたいな寝方をしてしまったけど、一応火があれば多くの魔物は近づいて来にくくはなる。

 さらに認識阻害の道具もある。

 幸運ではある。

 まぁ、いっぺんに不幸が襲ってきた反動なんだろうけど……


 暫く進むと大きな岩を巻き込むように大木が生えているその根の元にいい場所を見つけた。

 根っこが周囲を守ってくれているようになっていて、奥で休めば警戒しやすい。

 

「まっ、そうだよね……そんな気がしていた」


 大木の根元からのそりと魔物が現れた。

 

「……倒せれば……今日の夕食が……豪華に……」


 現れたのは牛の頭と身体、腕と足は人間のそれに近い、巨大な棍棒をズルズルと引きずって出てきた。ミノタウロスって呼ばれている魔物だ。

 倒しても手足だけが消滅するタイプで、たぶん牛っぽい動物が魔物化したものだと考えられている。つまり、肉が食べられる。しかも、かなり美味い。赤身系で歯ごたえがいい。思い出すだけで唾液が……

 この巨体が収まるのであれば、どうやら中は快適な広さがありそうだな……


「信じるしか無いな……」


 こいつ一体なら、いざとなれば逃走すればいい、そこまで足は早くない。

 あの棍棒を受けるとなると、かなりの強度がなければいけないが、流すように受けて見るようにする。

 ミノタウロスはこちらを視認すると、ブフォフォと息を吐いて棍棒を軽々と肩に担ぐ。

 俺も素早く荷物を置いて、剣を抜いて対峙する。

 ミノタウロスの筋肉が隆起して、息も荒くなる。


 来る……


 凄まじい振り下ろしがまっすぐと俺に向かって迫る、素早く体を開き剣で流し気味に受けた。


 つもりだった……


 キンッ


 という軽い手応え、敵の攻撃に対してあまりにも軽い手応え、拍子抜けの感触に受け止めるはずの力がそのまま振り切ってしまった。

 内心では覚悟していたが、やはりこの剣はもろく強力な一撃であっさりと折れてしまった……

 そう思った俺の手には、無傷の刀身が輝いていた。


 ぐらり


 ミノタウロスの上半身がずれた。

 棍棒、それを持つ腕、上半身。全てを一刀のもとに切り捨てていた……

明日は17時に投稿します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ