第19話 激闘
コレが、命のやり取りか……
一斉に飛びかかってきたゴブリンをなんとかバックステップで避け、集めた短剣を投げつけての額を切り裂く。
じっとはしてられない、俺のいる場所に石の礫と弓が向けられている。
転がるように身を捩り、そのまま立ち上がり、そして走る。
ノアに師匠に先生。
俺は自分が強いと勘違いしていた。
ただ、回りの人間がすごかっただけだ。
それにノアからもらった魔法に頼り切っていた。
タンっ
目の前に矢が刺さる。
考えろ、生き残るために、止まるな。
ゴブリンの集落は、想像よりも遥かに大きかった。
何が奇襲になっている今がチャンスだ……
結局は村を逃げ惑いながら少しづつゴブリンを倒すしかない。
敵の武器を使って、石を拾って、出来ることは全てやる。
無様でも良い、今自分に迫りくる死という恐怖に打ち勝って、またノアと並び立てる存在になる!
魔法を使えばこの状況を打開できる。
しかし、それは、試練からの逃避と同意義だ……
俺は歯を食いしばって、また走り出す。
「それにしても、敵が多い……おかしい……」
明らかに住居より巨大なゴブリンが出てきたり、数が住居と合わない。
その謎はゴブリンの巨大種が自分たちの家を叩き壊したことで判明した。
住居の下にぽっかりと空洞が存在しており、そこにもスペースがあった。
「そうか、遺跡の上に住居を作ったのか……」
ダンジョンとはまた違う、古き時代の地下遺跡。
過去の宝や、時には魔物が跋扈する。これもまた凄い財産である可能性があるが、今はやばい。
ゴブリンは暗い洞穴でも生活してしまう、そしてどんどん増える。
地下遺跡がどれくらいの大きさがわからないが、その中にゴブリンがひしめいていたら……
「いや、今度こそ、これを利用する」
今までで得た情報から打てる手がある。
俺は必要なものを必死で集めながら準備をする。
もちろんゴブリンは待ってくれない、打倒しながら必死で準備をすすめる。
「あとは、打ってこい!」
迫る弓を奪った盾で受け止めて、軽く挑発する。
すると魔法使いが火球を打ち込んできた。
「待ってたぞ!!」
俺はその火球を剣で弾き返して、必死に準備していた場所へ叩き込んだ。
ボウッと火球が俺が組んだ木材の中に吸い込まれ、一気に燃え上がり、そして大量の黒煙を吐き出し始める。
「仕上げだ!!」
炎と黒煙を吐き出した木材の塊がガタッと穴の奥に落ちたことを確認して俺はその穴を建物の建材をかぶせて塞いでしまう。
完璧ではないが、外に上がる煙が防がれる。
ゴブリン達は俺の行動なんて気にもせず次から次へと襲いかかってくる。
彼らが俺の行動を理解したのは、それからしばらくしてからだ。
「明らかにゴブリンの増え方が緩んだ!」
住居を次から次へと破壊して、穴がある住居の穴を塞いでいく、戦闘中に行うのは気の遠くなるような作業だが、幸運なことにそこまで地下につながる穴は無かった。
そして、それぞれの穴からも黒煙が上がってくる頃には、ゴブリンたちの数は両手で数えられるくらいまで減っていた。
ゴブリンたちも異常に気がついただ、すでに後の祭りだ。
セオリー通り魔法使いと射手から、そして近接攻撃を繰り出すゴブリン、大型種。
最期の一匹の喉に短剣を突き刺すと、周囲は静寂に包まれた。
気が付かなかったが、すでにあたりは薄暗くなっている。
「や、やったぞ……」
叫ぶ元気もない。
水筒に入った最期の水を飲み干し、僅かな食料を腹に入れる。
物凄い疲労感と、達成感でなんだかふわふわしている。
幸いなことに数え切れない打撲や擦過傷はあったものの、切り傷などは無いゴブリンの不潔な武器による傷は厄介で、すぐに薬草などを必要とする。
流石にこの状態から森に入る勇気はない。
それからは必死に木材を集めて周囲に篝火を建てて、草を布で包んだベッドを作ったと同時に倒れ込み、眠りに意識を奪われた。
強烈な日差しが顔を直撃して目を覚ます。
「ぐ……か、体がい、痛い……」
寝起きは悪いが、前日の疲労がきちんと抜けている。
流石12歳の体だ。
でも、無理させすぎた。
昨日は気が付かなかったが、体が熱を持ったように熱い。
周囲を見渡すと、篝火に小さな火種が残っているが今にも消えそうだ。
とりあえず薪になりそうな木材と合わせて火を維持する。
「さて、集めるか……」
そこら中に散らばっている魔石を放っておくわけには行かない。
ベッドにつかていた布で袋を作ってそこにどんどん魔石を入れていく。
敵の装備品や道具で使えそうなものは集めておく。
さらに周囲を探索する。
「やっぱりあったか」
集落、しかもあの規模を維持するなら絶対にあると思っていた。
小川が少し離れた場所に流れていた。
小川が有れば周囲には植物が多く、いくつかの食用の果実や木の実、キノコも見つけられた。
それらを簡単に調理して腹を満たす。
タンパク質が足りないが、とにかく腹は満たされた。
「調べるしか無いよなぁ……」
かぶせた木材をどかして、地下への入り口を顕にする。
焦げたような香りがムワッと立ち上る。
しばらく内部に換気してから慎重に内部を探索していく。
松明を設置しながら少しづつ内部を探索していく、いくつもの魔石が落ちている。
想像通り、ここにもゴブリンが居たんだろう。
「一酸化炭素中毒って意識失うから苦しくないらしいんだよな……」
俺がやったのは、不完全燃焼しそうな物を詰め込んで、空気を遮断した。
多分昨日はこの遺跡には黒煙が満たされ、一酸化炭素や二酸化炭素によって呼吸が出来なくなったゴブリン達は次々と命を落としたんだろう。
そして、遺跡の一番奥はまるで王の間のよう担っており、すでに消えた松明が部屋に飾られ、いくつかの宝箱、それと玉座には大きな魔石が鎮座していた。
明日は17時に投稿します