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猫好き冒険譚  作者: 穴の空いた靴下
第一章 オネの村編
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第18話 卒業試験

「カイト、これをつけて」


 先生が俺の手首に腕輪を付ける。

 革製のシンプルなデザイン、小さな魔石がついている。


「よっしゃ、卒業試験だ今からマルアがお前を飛ばす」


「飛ばす!?」


「ええ、その腕輪は一度だけ落下軽減の魔法が使えるわ、それを使って着地した場所から村まで帰ってくるの、魔法を使わないでね」


「魔法を使わず?」


「その腕輪は魔法を使えば切れることになっています。

 森の奥から、道具も装備も限られた状態から始めるの、今まで教わったことを総動員しなさい」


「にゃ!」


「ノアちゃんにも、一緒に村でカイトの帰りを待ってほしいの」


「にゃにゃにゃーにゃ」


「そう、あなたも魔法でカイトを手伝っちゃ駄目。

 これはカイトの卒業試験なの」


「にゃー……」


「ありがとうノア、でも、コレは俺自身の成長のため!

 必ず村に帰ってくるよ!」


「信じてるぞカイト!」


「大丈夫、今まで教えたことを活かせば、必ず乗り越えられます」


 俺の足元に魔法陣が展開される。

 風が少しづつ強くなり、俺の体を浮き上がらせる。

 

「師匠、先生、ノア、待っててね」


「行きます!」


 風が一気に強くなり、俺の体は空高く舞い上がる。


 ……って、高い!!!

 眼下に広大な森が広がり、はるか遠い山々もはっきりと見える。

 次の瞬間暴風が俺の体を運んでいく。


「ううううおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ジェットコースターの高く上がって下がっていくあの時間がずっと続いていくかのように景色が物凄い勢いで過ぎ去っていく。


 ……先生!! これ、飛ばし過ぎじゃないですか!!??


 我慢していたけど、俺は、意識を手放してしまった。




 右手が熱くなって目を覚ます。


「ど、どうなって……ってうわ!?」


 体に感じていた浮力がなくなり、地面に着地する。

 あれからどれくらいたったのか……気がつけば森のどこかに着地した。

 右手を見ると魔石は光を失っていた。

 わずかに揺らぐ光が、俺の魔法が発動したときに感知して腕輪を切るんだろう……


「さて、まずは現状の把握だ」


 持たされた道具と武器防具の確認から始める。

 ショートソードと鉈。レザーアーマーとブーツ。こんな場所でいつまでも平服ではいられないのですぐに身につける。

 火起こし、ランプ、乾パンに干し草、塩と香辛料、水袋、布が数枚……


「これ、ハードすぎません?」

 

 食事はどう見積もっても2回分くらい、食事の確保と水の確保は最優先事項だ。

 いまが森のどのあたりかもわからない……


「そもそも村がどっちにあるのかもわからないじゃないか!」


 大問題だ、進むべき方向がわからない。これはいくらなんでもと思ったが、ちゃんとヒントがあった。


「……なるほど、村の方向を向けると光が強くなるのか……たぶん、信じますからね先生!」


 腕輪の魔石の光が、ある方向に向けると少し強くなることに気がついた。

 そういう道具があることは授業で習っていたので、なんとか気がつけたけど、やっぱり冷静で居ることは大事だね。


「方角は決まった。まだ時間も早いはず、色々集めながら進むしか無い」


 普段なら魔法で切り開いてサクサク進める森の中も、鉈で自力を持って切り開くと遅々として進めない。

 さらに、周囲から使用できるもの、食べられるものを探しながらなのだから、余計に歩みは遅くなる。


「注意深く観察すると、森って凄いな……ノアに頼りっきりだったからなぁ……

 ノア……」


 なによりもきついのは、いつ何時も側に居たノアが居ない。

 この心理的な不安は大きい。

 頭の上が落ち着かない……


「……こんなの、耐えられない! 一刻も早く帰還する!」


 決意を固め歩を早める。

 その分集中する。

 周囲の状況を把握しながら最速で進む。


「そろそろ、野営を考慮しないと……」


 進みながら適した場所を探す。

 

「!?」


 魔法を使った探知を行っていないと、こういう事が起きる。

 蔦を切り裂き少し開けた場所に出た。その視線の先には……ゴブリンの集落があった。

 そして、その住人と目があってしまった……


「ぎゃっぎゃっぎゃっ!!!」


 そのゴブリンは大騒ぎする。


「くそっ! しまった!」


 森に逃げるわけには行かない、どこから攻められるかわからないゲリラ的な戦法を取られたら、圧倒的に不利だ。

 俺はその開けた場所に出て、剣と鉈を構えて一直線に集落に突っ込んでいく。

 ある意味奇襲をかけている状態なんだから、もう、行くしか無い。

 粗末なテントからゴブリンがのそのそと出てきているので、それを出来る限り早く退治していく。

 剣で斬りつけ、鉈を叩きこむ。

 数体を退治した時点で、弓を射られた。

 転がるようにして交わして家を利用して姿を隠しながら射手へと迫る。

 その側面から石の礫が飛来してきた。

 後少し射手を間合いに入れられたのに……大きく飛び退いて物陰で息を潜める。


「……マジシャンがいるのか……でかいんじゃね、ここ」


 背後から飛びついてきたゴブリンを剣で切り落として、そのゴブリンの持っていた短剣を拾い上げて走る。

 相手の近接部隊も戦いの準備が出来てしまった。

 今の所遠距離は弓と魔法が一体づつ、なんとしてでもこの二体を仕留めたい。

 走りながら飛びついてきたゴブリンを鉈で引っ掛けて剣で切り裂く。

 原始的な斧を持っていたのでそれも拝借する。

 今度は火球が飛んできた。


「チャンス!」


 俺はその火球を野球のように弓使いに向かって打ち返す。

 近くに居たゴブリンが盾で防ぐが、その盾にあたって周囲に火種が撒き散らかされる。

 射手がこちらに弓を構えようとするが、俺の投げた短剣が弓を破壊する。

 俺は走る方向を急速に変えて魔法使いに向かう。

 魔法を唱えようとするので、手斧を投げて邪魔をする。

 近接ゴブリンが邪魔しようと間に入ってくる。


「ふんっ!!」


 大地を蹴って大きく跳躍する。

 数体のゴブリンを飛び越えて、そのまま魔法使いに剣を叩き下ろす。

 

 振り返ると、ぞろぞろとゴブリンが武器を構えて襲ってくる。

 弓を構えるもの、杖を持つものもいる。

 ここからが、始まりだなと、そう思うしか無い。

 

 

次は明日の17時に投稿します

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