第16話 防衛戦
地上への扉を開けた途端に、戦いの音が耳に飛び込んできた。
「セタス達か!? すまん、すぐに手伝ってくれ!!」
「わかった!」
師匠は直ぐに状況を理解して前線に走り出す。
「ほらっ! 呆けないで行くわよ!」
俺も先生に背中を叩かれて後を追う。
突然のことにも冷静に対処をしないといけないと反省する。
前線に出るとかなり状況が悪いことがわかる、けが人をかばってなんとか防いでいる状況……
何箇所も防壁が破壊され、火の手が上がっている場所もある。
拠点内に入り込んでいる魔物を先生と俺で退治してまわり、なんとか拠点の外壁部まで戦線を持ち上げることが出来た。
何箇所も敵が侵入できる場所があり、戦場が分散している状況なので、怪我人の治療もままならない現状をまず打開しなければいけない。
「カイト! 壁を作るわよ、ノアちゃんもお願い!」
「はい!」
先生とノアと俺で土を操作する。
地面がえぐられ巨大な壁を作り出していく。
堀と土壁、返しをを作ることで簡単には突破されない防衛用の壁を作る。
多方向から攻められている状況を改善させ、わざと一部を開けることで、壁の破壊よりもその一部に敵を集中させる目的だ。
魔力が切れれば脆い土に戻るので、緊急時にしか使えないが、今は非常に有効だ。
「すまん、助かった……」
防衛にあたっていた冒険者の一部は、その場に崩れ落ちるように座り込む人も居た。
師匠がその前線に立つことでようやく怪我人の治療に当たる時間が作れる。
先生はすでに師匠のサポートに回っている。治療に関しては信頼してもらえている。
俺は直ぐにけが人の治療にあたっていく。
ノアの手助けを受けながら危険な怪我などを優先して治療して回る。
よくこの状態で持ちこたえているな、というのが正直な感想だった。
これが、冒険者……
折れた腕で盾を構え、この拠点を守り抜いてくれていた。
尊敬しか無い……
放置しておけば命に関わる傷をおっている人も居たが、とにかく後で精密な治療を行うために応急処置で消えていく命を繋ぎ止める。
本当に危ないのに、治療で立てるようになったからと前線に混ざろうとする冒険者を魔法で眠らせたり、少し手間取ってしまったが、治療を終えて師匠と先生が守る最前線に合流する。
「師匠、先生おまたせしました!」
「よし、攻勢に出るぞ!」
軽症だった冒険者は直ぐに戦線に復帰して少しづつ魔物を押し返していく、俺とノアは隙を見て周囲の木々を切り裂いて堀に叩き込み火を放つ。
視界の確保、防壁の強化と、日が暮れて暗くなってきた周囲を照らす目的もある。
炎が土壁を照らし周囲の魔物の姿をはっきりと確認できる。
「いつからだ!?」
「3時間ほど前、夕方に突然狼の襲撃が来て、押し返せないまま日が暮れるとこだった……
助かったぜ本当に……」
「そうか、すぐに引き返す判断をしてよかった!」
飛びかかる狼やゴブリンの上位種を切り裂きながら状況を聞いて判断している。
普段の師匠も凄いが、今の師匠はさらに凄みを増している。
本気の師匠がそこにいた。
他の冒険者も何も言わずとも皆が連携して敵を押し込んでくる。
俺と先生は彼らの死角をフォローしながら、少しづつ敵を押し戻して森のエリアまでを制圧していく。
防壁が崩れ土に戻る頃には戦況をひっくり返すことに成功した。
「師匠! あいつが怪しいです!」
敵の中にひときわ大きく明らかに異常な狼を見つける。
「フシャーーーー!!」
「え、あの時の狼だって!?」
ノアが珍しく怒っていた。あの時仕留めそこねた狼が、森に逃げ込み進化したらしい。
そして、人間を発見して復讐を図ったと……
自分の不手際でみんなに迷惑をかけて申し訳なさと、狼への怒りが混じっている。
「今度は俺も戦えるし、師匠も先生もみんないる。
決着をつけよう!」
ボス狼も、ノアの姿を見つけ、怒りを瞳に宿して飛びかかってきた。
「ニャー!!」
ノアが頭上から飛び上がり、風の牙で敵を斬りつける。
ギャリンという刃同志がぶつかり合うような音がして狼は華麗に着地する。
「ガゥ!?」
その場にはすでに俺と先生で沼状に変化させている。
突然のことに急いで脱出を試みるボス狼に空中からノアが追撃をかける。
ボス狼の体が切り裂かれ、鮮血が飛び散る。
ようやく沼から乱暴に脱出した先にはすでに師匠が身構えている。
「終わりだ!!」
必殺の一撃が狼の首を飛ばし、その巨体を大地に伏せる。
その姿に周囲の魔物が動揺を隠せない。
「チャンスよ! 仕上げるわ、カイト、この間の魔法を周囲広範囲にやるわよ!」
「はい!! ノア、任せたよ!」
風魔法を拠点の周囲を包み込むように発生させる。
範囲が広いので暴風とまではいかないけど、魔物が踏ん張らないと耐えられないくらいの強風ではある。周囲に居る魔物を逃さず固定させる役目もある。
そこに水魔法が合わさり、急速に気温を低下させていく。
その魔法の危険性に気がついてこちらに飛び込んでくる魔物は、師匠たちの格好の的になる。
「魔法使いが3人もいると、すげーな!」
「まーな!!」
冒険者で魔法使いは貴重だ。
強力な魔法使いは国に雇われたり、教育や研究に回ることが多い。
先生は全属性使いということで、中級くらいのパーティでは重宝されたため冒険者に身をおいていた。研究や国に属するには器用貧乏なのであまりいい職にはつけないというのが実情だ。
もちろん今は違う。
3人の合体魔法によって周囲の木々が凍りついて魔物の活動も低下した。
「仕上げるわよ!」
「はい先生!」
「にゃにゃにゃー!!」
3人で周囲一帯に雷を叩き落とした。
すでに動けない魔物たちを激しい雷撃が撃ち抜いて、バタバタと倒れ、灰と魔石に変わっていく……
流石に大規模な魔法を連続してはなって、気持ち悪い……
ノアも頭上で省エネモードでへばっている。
先生は気を抜かず師匠のフォローをしている。
まだまだだな……なんとかその場に倒れ込むのだけは我慢した。
「おっしゃ、終わりだな!」
師匠の一声で拠点の冒険者から歓声があがる。
こうして、なんとか拠点を守り抜いた。
今日は一時間後21時にも投稿します