第14話 初ダンジョン
ダンジョンには必ずいくつかのルールが有る。
ダンジョンの入口の扉によってレベル・深さが異なる。
ダンジョンには階層ごとに扉が有り、階段につながる廊下と階段部分は魔物は入らない。
ダンジョンは月に一度新月の日に閉ざされて内部が変わる。
この時は必ずダンジョンから出ていなければ危険。
ダンジョンの構造が変化するだけではなく、壁から魔物が産まれる。
激しく変化する新月のときだけではなく、探索時に魔物が産まれる前兆の振動を感じたら、出来る限り周囲を見渡せる場所で壁から距離をとって不測の事態に備える。
などなど、冒険者として知っておく常識というものがある。
「ダンジョンの心得は大丈夫だな?」
「うん、きちんと頭に入ってる」
「ニャン!」
「行くわよ」
とうとうはじめてのダンジョンの扉が開かれる。
森のダンジョンをはじめて見つけたのは野営訓練も兼ねた森の深部への侵入中だった。
ずーっと続く森の中に急に小高い山を見つけた師匠が、
「あれ、怪しいな」
と調べると、山肌に忽然と扉が設えてあった。
周囲は鬱蒼と茂る森、ある意味不自然な小山。
自然の中に突然の人工物、違和感がすごかったことに驚いた。
師匠と先生が熱心に調べて、未踏のダンジョンであることを確かめると、
即座に村に戻って大金を使って早馬を走らせた。
昨夜は拠点でキャンプを張った。
キャンプ自体は何度も行っているが、明日が初ダンジョンだと思うと興奮して目が冴えてしまう。
「カイト、これ飲んでおけ」
師匠が暖かいお茶を入れてくれた。
なんともスッキリした香りがする。口をつけるとほのかに甘く爽やかな風味が口に広がる。
「少し落ち着くだろ? はじめてのダンジョンで興奮して眠れない新人はそれを飲むのが冒険者の通る道だ。ま、美味いから好きなやつも多いけどな」
「確かに美味しいです」
「そうか……ダンジョンだからとあまり緊張はしなくていい、
浅い階層なら油断しなければ問題はない、
ただ、このダンジョンは広いらしいから、
多数の敵に囲まれないようにだけ気をつけていこう。
ノアが居るおかげでその可能性は随分と低いのは助かるな」
「にゃん!」
任せてっ感じで師匠の膝に飛び降りて体を擦り付けるノア、
師匠の表情も崩れて優しく撫でている。
「にゃにゃ!」
「わかった行ってらっしゃい!」
「なんて?」
「先生にも挨拶してくるって」
「そうか……さて、明日一日はダンジョンの中だ。早く休んどけよ」
「わかりました! ……おやすみ師匠」
「ああ、おやすみ!」
師匠のおかげでぐっすりと眠れたので今日の体調は万全だ!
「おお、すごい……」
扉を抜けると、ここがダンジョンの中とは思えないほど大きな空間が広がっていた。
半円形のドーム状の部屋から馬車がすれ違えるほどの道が正面に開けている。
天井の高さは……20mくらいはありそうだ、壁面から天井にかけてが明るく光っている。
始めの階段をずいぶんと下がると思ったが、こういうことか……
「明るいんですね」
「暗いダンジョンもあるぞ、この階層壁にも天井にもヒカリゴケが大量に存在してるからだそうだ。
壁や天井自体が発光しているダンジョンもある」
「ダンジョン内部に小川があったりすることもあるし、植物が生えていたり食べられる樹の実があることもあるわ」
「ふ、不思議な場所ですね……」
「そのせいで、ダンジョンは『ダンジョン』と言う名の生物なんじゃないかって言うやつもいるな」
「自分たちの養分にするために人間を呼び込むダンジョン……」
「別に俺たちを食べるわけじゃなくて、この場で戦いとか魔法を使わせると、なんか力が発生してそれを利用するとかなんとかだったな」
「まぁ、その辺は仮説でしか無いから、カイト自身で明らかにしてみなさい」
「宿題ですね、わかりました」
「よし、慎重に進んでいくぞ」
「はい!」「にゃ!」
ダンジョンは洞窟のようなものだと考えていたけど、実際には石畳の敷かれた人工的な建造物のような印象を受ける。長年の放置されてホコリだらけかと思えば、そういう物はダンジョンに吸収されて比較的清潔に維持されていくらしい。
「にゃにゃっ!」
「うん、右からだね」
「カイト、行ってみるかい?」
「はい、ノア、頼むよ」
「にゃっ」
ウロウロしている気配が、離れていくタイミングで通路を覗くと……
「ゴブリン?」
「にゃー……」
「油断するなよ、見た目は同じでも上位種族の可能性もある。
まぁ、第一階層にそんなもんでたら困るけどな……」
「わかりました。慎重に行くぞノア」
ノアとタイミングを合わせて攻撃を仕掛けると、あっさりとゴブリンは風魔法に抵抗するでもなく真っ二つになった。
「ゴブリンだったみたいだね、周囲に敵影はなし」
「よし、どうだった初めてのダンジョンでの戦闘は?」
「外とあまり変わりは無いですね。少し緊張しましたが」
灰になった魔物が地面に吸収されていく。
そして地面には魔石が残される。
俺は地面を叩いてみるが、吸い込まれるような柔らかさはなく、コンコンと硬質な感覚がする。
「不思議だよなー、今見たとおり、魔物の素材は残されるが、灰は吸収されてたぶん再利用されているんだろうな」
「カイト、ノア、風魔法で攻撃する時はあまり遠くまで魔法の影響を残さないようにしたほうがいいわ。いたずらに通路の先の魔物を刺激しちゃうから。
同じ理由で爆発したり大きな衝撃を起こすような攻撃は事前に対処するか、魔物が寄ってくる可能性を考えてね」
「こんな狭いところで爆破とかして崩れないのですか?」
「岩場などのエリアだと気をつけたほうが良いけど、壁や天井は崩れないわ」
「狭い通路のダンジョンもあるとそれに合わせて色々と工夫が必要だ。
俺もここならいつもの大剣を使うが、狭ければショートソードに変えたりする」
「なるほど、そういうときのために色々な武器の使い方を覚えろと言われてきたんですね」
「そういうことだ。さ、先に進むぞ」
「地図は魔道具で書いているからどんどん進んで大丈夫よ、この階層なら」
「よし、どんどん行くぞノア!」「にゃにゃーん!」
低階層であることもあり、その後丁寧に戦えば苦戦することはなかった。
今日は一時間後19時にも投稿します