第12話 いざダンジョンへ向けて
馬車で森の入口まで移動する。
今日はダンジョンの雰囲気を味わうために荷物もそこまで大量には準備していない。
それでもおよそ2週間は滞在できる準備はある。
行きと帰りを考えれば一週間は進んで、一週間で戻る。
もちろんそんなギリギリの計画をしていたら冒険は失敗する。
風魔法で重量を軽くして運んでいるので馬にも負担はないし、森を歩くときにも楽だ。
普通にダンジョンなどを攻略するのなら、パーティ以外に荷運び専用の人員を雇うらしい。
俺達みたいに常時魔法展開して荷物の重量を軽くするなんてありえない。
「ノアちゃんのおかげだよねー」
先生がノアを抱っこして進む。
背中には巨大な荷物があるが、ノアのおかげで軽いもんだ。
森の最深部まで、いくら馬も増えたけど、貴重であることには変わりないから馬では入れない。
徒歩で約2日かかる。
途中2度の野営をする必要がある。
多くの冒険者が通うようになって、森の中の開拓も進んでおり、浅い階層では完全に街道化している。そして、初日の野営地は伐採され、防壁で囲まれたエリアが設けられている。
商魂たくましくこの地に定住して冒険者相手に商売をする者たちによって、小さな宿場が形成されている。
リスクは高いが、安全のために大金を払う冒険者も居る。
もちろん俺たちもそんな冒険者だ。
別段、苦戦することもなく最初の宿場へと到着する。
「おおカイトじゃないか。お誕生日おめでとう、とうとうダンジョンだな!」
もちろん開拓にも先生と師匠、俺たちも協力しているからみんな顔見知りだ。
「ありがとう! 予定通り明日の早朝までお願いします!」
「ああ、君たちがいるならみんな安心だ。もちろん、仕事はするけどね」
「このエリアならお前らで平気だろ? 起こすなよー」
「見回してきましたが、堀の損傷箇所があったので直しておきましたよ」
「マルアさん、いつもすみません。その分夜飯は頑張らせていただきますから!」
「ノアの分もよろしくね!」
「ええ、ええ、きちんとララさんからレシピを貰っています!
汗でも流してお待ち下さい!」
森の中に立つ宿屋、ここが魔物が溢れる場所でなければ雰囲気もある。
この宿は、こんな危険地帯にあるのに大浴場が売りだ。
これのために護衛を付けてわざわざ来る貴族も居るらしい。
やはりお風呂は人間の大事なところを支配するんだな……
危険なものを広めてしまったが、悔いはない。
湯船に浸かりながらそんな事を考える。
「しっかし、この森は本当に初級冒険者にはうってつけだな。
素材も多いし、魔物もエリアできちんと強弱がわかっている。
そして、こんなに安全な休憩所がある。
オネの街はいずれ巨大な冒険都市になるのは間違いない……」
「師匠はいろんなダンジョンに行ったんでしょ?」
「ああ、怪我をする前はイケイケでダンジョンに挑んだもんだ……
最期のダンジョンも、あと数回層で最深部だったんだがな……」
今はきれいになった右腕をさすりながら、今までの冒険譚を語る。
俺はその話を聞くのが大好きだった。
まだ太陽も出ていないうちから簡単な朝食を口にする。
出立の準備はしっかりと前日のうちに終わらせてある。
一流の冒険者でもある師匠と先生も今日のための準備を怠りはしない。
「予定どおり、今日中にダンジョンまで急ぐぞ」
「ええ、私たちなら問題ないわ」
「頑張ります!」
「にゃにゃっ!」
ノアは朝食を食べながら尻尾をピンと伸ばして気合を入れている。
母さんのレシピで作ってもらえた食事が気に入ったみたいでピクピクと尻尾を動かしながらご飯にかぶりついている。かわいい。
「行ってらっしゃいませ、帰りもお待ちしております!」
宿屋の主人に送られて俺たちは森を進む。
日も出ていない暗い夜道だが、夜と違って魔物の気配はほとんどしない。
早朝に出た理由はコレだ。
早朝は昼間に活動する魔物も動物も、夜に活動する者も皆眠っている時間だ。
この時間にできる限り急いで距離を稼いで一気に最深部に近づく。
コレによって安全性の確保されていない森でのキャンプを避ける。
ダンジョン手前には遥かに小規模だが整備されているし、ダンジョンの壁を背にしてキャンプを張れる。
俺と先生が交互に肉体強化魔法をかけながら森の中を全力疾走していく。
「にゃにゃん!」
「右前方から3体きます!」
日が高くなると魔物との戦闘も増える。
ノアの索敵によって敵からの奇襲を受けないだけでも随分と戦闘を有利に運べる。
「おらぁ!」
師匠の大剣が即座に一体の魔物を真っ二つにする。
先生が魔法で周囲の蔓で魔物を縛り上げ、すぐに俺が首を切り落とす。
最後の一体はノアの風の刃が切り裂いた。
「うむ、今の流れはよかったな」
「ええ、タイミングもバッチリでしたねカイト」
「ありがとうございます」
こういう時でも常に修行だ。
ノアは定位置に戻って器用に丸くなってリラックスしている。
荷物にかけている魔法は途切れることもなく索敵もして戦闘にも参加する。
ノアは本当に凄い!
俺も自分のできることをしっかりとやる。成長するにはそれしかない!
その後も何度かの戦闘を重ねるも、問題無く圧倒できていた。
「フーーーーーッ!」
「でかい! 気を付けろ皆!」
「カイト合わせて!」
「ハイっ!」
先生が地面を砂上に変化させて、即座に俺が大量の水を沸き起こす。
一帯に瞬時に沼を作り出した。木々がずぶずぶと沈み込み、その大物が凄まじい勢いで突っ込んできたが、沼に足を取られて突進を止めることに成功した。
巨大なワニ、大顎門と呼ばれるモンスターだ。
「ちぃ! 厄介な!」
師匠が振るう大剣は深く切り裂くことができずに少しの傷をつけるのに止まる。
強固な鱗は簡単には切り刻めない。
「先生凍らせます! 合わせてください! ノアっ行くぞ!」
今にも沼から出ようとしている大顎門を荒れ狂う暴風で包み込む。
先生が細かな水分を風に纏わせて、ノアが温度を急速に下げる、それらが合わさることによって猛烈な吹雪を局地的に発生させる。
爬虫類は急速な 体温変動に弱い。
すぐに大顎門は意識を失い吹雪によってその身を包まれる。
「師匠!」
凍りついた大顎門は大剣の一撃で粉々に砕け散る。
頑強な鱗も凍らせてしまえば脆くなる。
「こんな倒し方があるのか……」
「カイト、こんな倒し方どうして知っているの?」
「村に出るトカゲも寒いと寝ちゃっていたので、同じ方法が通じるかなーって……」
爬虫類とか変温動物とかそういう説明は難しい。
子供らしい説明で納得してもらおう。
「おい見ろよこの巨大な魔石!」
師匠がはしゃいでる。森の最深部は初めてじゃないけど、ダンジョンを見つけてからは久しぶりだ。
さっきみたいに強い魔物も出てくる。油断はできないな。
「ノアありがとう。助かったよ」
「ふにゃー……」
「疲れた? 大丈夫?」
「そうだな、ここらへんで少し休むか……」
ダンジョンまでは後少し、どんな強敵が来るかもわからない、ここらへんで休憩だ。
次は明日17時に投稿します




