第10話 森のダンジョン
二人の修行は死ぬほどきつかったけど、それ以上に高みを知ることが出来ること、そして自分の成長を実感できることが何より嬉しかった。
それに、週末の森の探索が、二人を連れて行くことでかなり深部まで進めるようになった。
「……6歳からこんな場所で戦っていりゃ、こうなるか……」
「ノアちゃんはとんでもなく優秀な斥候ね。
こんな子が居たら……冒険者への未練が戻りそう……」
「先生も師匠ももうすぐ特級冒険者だったんですよね……」
「ああ、俺はこの傷のせいで利き腕が駄目になったから……」
「私は全属性の限界を感じて、後輩の指導に回ると決めた……」
「師匠は傷どうですか?」
「ああ、まさかこんな場所でこの傷をいじれる治癒師、しかもこんな子供に出会うなんてな」
「普通古傷は治癒の魔法では治せないのに、まさかあんな方法が……」
今俺は毎日師匠の右腕の傷を治療している。
師匠の傷はドラゴンにつけられて、なんとか倒して地上に戻ったときには自然治癒していしまい、拘縮した形で治ってしまっていた。そのせいで右腕の動きは戦いには耐えられない物になっていた。
そこで俺が父さんにやったみたいに、一度傷を融解させて、再び治療していくと言う形で再構成している。上皮組織、皮下組織、筋膜や筋肉などのイメージが出来る俺の知識チート魔法と言えるだろう。読むべきは医療系漫画と小説だ。
ただ全体の組織とのバランスがあるので、少しづつ治療している。
受傷から時間が経っているので年単位の治療になる。
二人は本来は半年の契約だったらしいけど、村への移住を決めてくれた。
町でやる気も才能もない貴族のお守りはもう卒業だと、再び冒険者になるためにこの村で俺を鍛えてくれることになった。
村の教育にも、自警団の訓練なんかもしてくれて、さらに二人が住むことを知って村の知名度はあがって入居希望者が後を絶たないらしい。ほんとに凄い二人なんだな師匠と先生は……
森の最深部にダンジョンがあることを突き止めたのは俺が10歳になる3日前だった。
「未踏破ダンジョンの発見とか……ここに来て本当に良かった……」
「ええ、本当に……」
師匠と先生は、その事実を知ると直ぐに街に知らせをやった。
それから村は大騒ぎだ。冒険者ギルドの支部が作られることになり、治療院、商店、教会、訪れた商売のチャンスに多くの人が村を中心に集まっていく。
ダンジョンにはそれだけの価値がある。
「いいか、ダンジョンは意思を持っている。
宝で人間を釣って、魔物を生み出して魔力の活性化を狙っているんだ。
危険も多い、だが、それ以上に計り知れないほどのロマンがある」
「あれだけ深い森の中で、長い時間を経たダンジョン、すごいお宝もあるわね……」
「若いダンジョンは直ぐに攻略されちゃうんだよね?」
「そう、最深部のコアは莫大な価値があるわ。でも、それを抜かれるとただの洞窟になっちゃうの」
「だったらコアを取らずに何度も利用すれば……」
「ダンジョンの成長にはそれこそ何百年っていう時間がかかる。
ある程度熟成したダンジョンでなければ、簡単にコアを奪われる。
餌も大したものがない、それでもコアは莫大な利益になる。
だから若いダンジョンは狩られるんだ」
「でも、今回見つけたダンジョンは違うわ、少なくとも50階層はある門構えをしてる。
もしかしたら、マグレナ山の大ダンジョンくらいの規模があるかも……」
「そんなダンジョンの発見者……カイトとノアは俺の幸運の青い鳥だぜ!」
「ダンジョンを最初に発見すると、そのダンジョンから出た利益の10%を受け取れるの、ダンジョン管理は冒険者ギルドが行うし、盗掘は死罪。私達は何もしなくてもあの大ダンジョンから得られる富の10%を得続けられるの!」
「えー……師匠、先生……ダンジョン攻略しないんですか!?」
「ぐっ……」
「うっ……」
「せっかくダンジョンがあったら、攻略したいじゃないですか!」
「し、しかしだなカイト、冒険者登録はどんなに早くても12歳からと決まっているから……」
「あれ発見したの……ノアですよね」
「うっ……ええ、そうね。そして従魔が見つけた場合その権利は契約者、つまりカイトに権利があるわ……」
「俺は冒険者じゃないので、パーティも組めません、よって、俺一人で発見したってことですよね」
「そ、そうなんだけど、一応保護者として俺たちもついていたわけだし」
「いえ、別に利益を独占したいんじゃありません。
お二人が、挑戦者じゃなくなったことが哀しいんです」
「がーん」
「がーん」
「冒険者に復帰すると目を輝かせていた二人が、お金が手に入るとわかると緩みきって……
ああ……、哀しい、な、ノア?」
「にゃーーーん……」
ノアもがっかり、と全身で表現する。
「あああああ……カイト、俺をぶん殴れ!!」
「はい!」
肉体強化をかけて思いっきりぶん殴ってみた。
きりもみしながら師匠は飛んでいった。
「……そうよね、いけないわ……
私達は誇り高き冒険者、目の前にダンジョンが有れば最深部を見たくなる。
そういう生き物だったわ!」
お金に濁ったマルア先生の目に炎が灯ってくれた。
この出来事のおかげで一つの卒業課題が生まれることになる。
目標:12歳の冒険者登録後、最年少ダンジョン制覇者となる!
次は明日17時に投稿します