プロローグ
あなたになら…あなただから私は打ち明けられた。
小さい頃から心奥底に隠していた不安や心の痛みを。
知らない言葉、知らない感情をあなたは私に教えてくれた。
初めてのものに触れていく度にあなたの声が胸の奥で響いていた。
あなたの手が
「もう大丈夫だよ」
と、言いながらそっと私の髪を優しく撫でてくれた。
そして、
「一人で抱え込まないで」
と、強く抱きしめてくれた。
あなたとなら私は何処へにでも迷わず行けた。
あなたに何度も助けられ、何度も励まさせれ、そして…何度も笑いかけられるたびに私はあなたを………。
誰からも愛されず、誰にも必要とされない。
私という存在に意味がないのなら私はなぜここにいるの…と涙に暮れる日々。
あなたに出会った頃の私は死ぬことが救いだと思っていた。
だけど臆病な私はその救いの手を取ることすらも躊躇っていた。
人形だった私をあなたはただの1人の女の子にしてくれた。
瞼をそっと下ろすと…甘い口づけ。
そして瞼をそっと上げたときに交わる視線…。
きっと私はこの頃から気付き始めていたのだと思う。
似てるけど違う私達の感情に。
だけどもう…後には戻れなくなってしまった私。
だって、あなたの温もりを失いたくない…そう願うようになってしまったから。
今にも溢れ出してしまいそうなこの気持ち。
弱音を話してくれた時は…頼ってくれたことが凄く嬉しかった。
だけど…あのときの私は思っていることを上手く言葉に出来なくてあなたの力になれなかった。
あなたならきっとどんなことでもこの先を乗り越えていける。
と、伝えたかったのに…。
もう直接伝えることは出来ないけど、こんな私の想いがあなたに届いていたらいいな…。
隠され続けた真実を知ったときは私は忘れるはずだった…そう、全部あなたとの記憶を全て忘れるはずだった…なのに私は忘れることが出来なかった。
そして…初めて触れ合ってしまった瞬間…。
より理解してしまった真実。
あなたの心の中にはたった一人の特別な人がいるという…真実。
ずっと考えないようにしていた。
だって…知ってしまうことが怖かったから。
それを知ったらあなたと過ごす幸せな日々が終わってしまうということを私は予感していたから…。
この時の私はあなたを失いたくない。
そう思ってしまっていたから…だから気づき始めていた真実を気付かないふりをしていた。
この時の私に伝えたい。
この気持ちに気づいてしまう前の私に…。
あなただから私は全てを捧げられた。
だけど一線を越えてしまうことでもっと苦しむことになってしまうのだということを…。
そして芽生えた決意。
これが最後だから…もう二度と会うことは出来ないから…あなたに言いたかったのに…伝えたかったのに…言葉を語ることは出来なくて…心の奥でつのるばかり…。
この感情は少し怖くて、だけどとても愛おしい。
上手く伝えられないけど確実なこと。
だけどもう…終わりにしなければいけない。
それに…私がどんなに努力してもこの隠されていた真実が変わることはないから…。
あなたには…あなただから私は幸せになってほしいと心から願うから…。
あのとき…消えない傷がいつか癒えたとしても繋いだこの手を離さないと偽りの言葉だとしても告げて欲しかったな…。
さようなら………。
月並みの言葉かもしれないけど…あなたに出逢えてよかった。