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第15話



「って、遅いですよぉ。グロムさん、3日間も何やってたんですか?」


 結界の外に出てくると、イリスがそのような声を上げる。


「少しばかり、休息をしていた」

「ふ~ん、少しばかりの休息ですかぁ。まあ、グロムさんには休息だったのかもしれませんねぇ」


 フラフラと後ろをついてくるオフィーリアに視線をやりながら、イリスは意味深な目を向ける。そして、


「あ、ひょっとして、それが武器ですか?」

「ああ、『王殺し』というらしい」


 手に入れた斧槍を見せる。

 イリスは蝙蝠翼を羽ばたかせながら、興味深そうに観察する。


「なるほど、外宇宙の神性を取り込んだわけですかぁ。名状しがたい異形なる神々の力を借りなければならないほどに追い込まれたと思えば、同情したくもなりますねぇ」

「神性? これは大海魔クラーケンだろう?」

「ん~、水属性ってところはあっていますけどぉ~、ん~、なんだか説明するのがめんどくさいので、クラーケンでいいと思います。実際、グロムさんが出会うことはないでしょうしね」


 何やら小馬鹿にされた感じだが、まあ3日も放置したからな。

 多少の軽口は受け流すことにしよう。


「それにしても、食事とかは?」

「ああ、結界の中にはゴーレムがいてな。食事を持ってくるように命じたら、色々と持ってきてくれた。料理されていたのは残念だったが、腹は膨れる分量が用意されていた。水や酒なども十分あった。おそらく避難区画の1つだったんだろう」

「なるほど、こちらの方はコボルドたちの動きが戻った感じですねぇ。グロムさんたちはどこかに逃げたか、人知れず罠に引っかかって死んだものと思われているようです」


 よし、計算通りだ。

 いやもちろん、嘘ではない。休息を行いつつ、敵の油断を誘い、攻撃する。優秀な戦士であれば当然の嗜みだ。


「本当ですかぁ~?」

「当たり前だ」


 心の中で「嘘ではない」と念押しをしたにも関わらず、イリスは疑うような目を向ける。まあ悪魔という連中は性格がネジ曲がっているのだから仕方がないといえば、仕方がないことかもしれない。


「い~え、そんな事はありませんよぉ~。っと、暇だったんでコボルドの情報収集をしていたんですが。他の冒険者パーティーの内、『希望の運び手』はこの城塞から見事に脱出したみたいですねぇ。一方、『黒狼』は2人を除いて捕まり、『掃除人』はパーティーの名前と同じように掃除されてしまったみたいです」

「そうか」


 逃げた奴らはまた再び出会うことがあるかもしれんが、殺された奴らはそれで終わりだ。自分の知らないところで、知らない間に物事が進行しているのは、仕方ないことではあるのだが、残念なことでもある。今回のことは休息をとった俺の行動の結果なので、素直に受け入れるしかない。

 どんな生き物も時間を巻き戻してやり直すことなどできないのだ。

 世の中、ままならないものである。


「でも朗報がありますよぉ。『黒狼』の逃亡者のどちらかは女で間違いありません。それに、エドネアさんと同じく脱出を試みた女囚にも未だに逃げ続けている人たちがいます」

「良い情報だ。感謝する」

「いえいえ、お気になさらずにぃ。わたしとしても、後2、3人は捕虜がいてもいいかな~。なんて思っているのでぇ」


 女悪魔は良い笑顔ゲスがおで答えた。


「2、3人と言わず、その2倍でも3倍でも欲しいがな」


 俺も同じような顔で応じる。


 物事は考え方次第だ。

 確かに数が減ったのは残念だが、残っている奴らは活きが良い女たちなのだろう。

 デーモン・プリンスのルベルと出会うまで、可能な限り捕虜にしていきたい。


「盛り上がっているみたいだな」


 見えざる欲望の炎を感じたのか、最後に現れた結界から出てきたエドネアがそんなことを言った。


「なに、今後の楽しみをな」

「ルベル(デーモン・プリンス)の居場所でもわかったのか?」

「ん、いや違う」

「なるほど、そちらか。まあ、それも大事だが。本来の目的を見失うな」


 もちろんだとも、俺らの集落に舐めた真似をしてくれた礼はきっちりと返してやる。

 だが、居場所に関してはそれほど心配していなかった。

 前とは違い、こちらには奴を傷つける武器がある。今度はより多くのコボルドが集まる場所で暴れれば、奴も姿を現さざる得ないだろう。



  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 鍛冶場の罠は再設置されておらず、移動はだいぶ楽であった。

 これはコボルドの不手際というよりも、単純に人手不足なのだろう。何しろ、俺がだいぶん殺したからな。どの罠が使用済みであり、誰が再配置するのか、これだけ場所が広大だと、数日程度ではすぐに修繕とはいかない。


 その考えは当たっていたが、俺の読みよりもコボルドの方が一枚上手であった。


「何だあれは?」


 楽々と進む俺たちが、少しばかり広い場所に出ると、そこには3体のゴーレムが立ちはだかっていた。


 結界の中にいた間抜け面なゴーレムではなく、逞しい人間の戦士を模して作られている。俺よりも遥かに大きい。全身は年月を得た青銅色だが、材質はおそらく「青銅」とは別のより硬い合金だろう。彼らが手にした剣と盾も同じく、より硬度なものに違いない。


「あれはタロスですねぇ。上古の時代、ドワーフが戦闘員の不足を補うために生み出した戦闘兵器ですよ」

「そいつは面白そうだな」


 新しく手に入れた武器の練習相手には不足ない。


「エドネア、お前もやるか?」

「ああ」

「ならお前は左側のやつを狙え、俺は残り2体を相手にする。先に倒してしまっても、手助けはいらんからな」


 従属者は了解したとでも言うように、モーニングスターを手にして、タロスに向かう。

 それでいい。

 今のエドネアは女ではなく戦士だ。


 俺もエドネアの後に続く。


 先手はこちらがとった!

 タロスが攻撃するよりも前に「王殺し」の穂先を相手の胸に突きつける。

 衝撃を予想したが、槍先部分は意外なほどにあっさりと青銅色の肌を貫く。まさか外見通りに青銅で作られているわけじゃないだろうな? だとしたら拍子抜けだ。

 そんな俺の失望を打ち消すように、タロスが吠えた。

 穴を開けられた胸の部分から、まるで血のように真っ赤な液体が溢れ出る。その「血」の一部が俺に降りかかり、焼け付くような痛みを与える。

 こいつは血じゃない! 熱された鉄だ。


 どういう原理かわからんが、このタロスとかいう奴の体内には、血の代わりに熱された鉄が循環しているらしい。

 俺は慌てて斧槍を引き抜くと、タロスの傷口はみるみる消えていく。

 失血死させるつもりだったんだが、ダメか。


 傷つけられたタロスは俺を標的と定めたみたいだし、もう1体もこちらに向かってくる。 1対2の状況を作り出すことには成功したが、さて思ったよりも手強そうだ。

 とはいえ、引き下がるつもりもない。

 再生能力があるのならば、再生能力が失われるまで攻撃を続ける。トロールの俺が言うのだから、間違いない。問題は傷つけると熱された「血」が飛んでくることだが、そこはまあ、我慢だな。


 タロスは剣を巧みに使い、正確な斬撃や刺突を行う。


 とはいえ、その動きは機械的だ。

 何度か見れば目が慣れてくる。2体同時でも十分にさばくことができるようになってきた。後はひたすらに切り裂いて、燃料である「血」をすべて失わせてやる。

 武器を手に入れて良かったと思ったのは、こいつらの体に少しだけ触れたときだ。「血」ほどではないが、それでもタロスの全身は火傷するほどに熱い!


「おもしろいじゃねぇか!」


 俺はそう意気込むと、何度も何度も斧槍で切り裂き、突いた。

 そのたびに「血」が吹き出て、俺の身体を焼く。

 とはいえ、なるべくかぶらないように回避はしているし、我慢すれば耐えられないわけでもない。


「ウォらぁああああーーー!!!」


 何十回目の攻撃で、ようやく1体が崩れ落ちる。


「侵入者だ!」

「トロールだ、まだ生きていやがった」

「援軍を呼べ、あいつは化物だぞ!」


 ようやく騒ぎに気づいたのか、コボルドたちの声がする。

 このまま暴れ続けてもいいが、できれば何度か準備運動がしたい。俺はそう考えると、攻撃の速度を上げる。

 1体を倒したことで、より短い時間でタロスを撃破することに成功した。


 エドネアの方を見てみれば、そちらもすでにタロスを撃破している。

 モーニングスターの連撃により、青銅の魔導兵はゴミクズのような姿になっていた。


「別の場所に移動するぞ」

「わかった」


 コボルドの援軍が来るよりも前に、俺たちはその場を後にする。

 より強い強敵を求めて、奥深くに進んでいく。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ゴーレム。

 討伐難易度:☆☆☆☆☆☆

 種類により大きく変動するが、戦闘用の場合は上記の難易度であることが多い。

 ゴーレムは主人の命令には忠実であるし、疲れることも、眠ることもなく、与えられた目的を効率的に遂行する。上古の時代、エルフやドワーフはゴーレムを大量に製作して、様々な仕事に従事させていた。その中には、戦争などに使われたゴーレムも少なくない。

 当然ながらゴーレムは非常に強力な魔導兵器だ。

 デーモン・ロードの率いる悪魔の軍勢と戦った巨人兵のおとぎ話を1度くらいは聞いたことがあるだろう。実際に冒険者が出会うゴーレムは、伝説に歌われる巨人兵ほどは強くないが、それでも強敵なのは間違いない。彼らの多くは古の命令を忘れておらず、その命令の大半は侵入者の排除などであり、戦いは避けられないだろう。

 ゴーレムの一撃一撃は重く、強力で、疲れによる動きの低下などもない。長期戦は極めて不利なので、なるべく素早く勝負を決めることをお勧めする。魔法や奇跡による援護は攻撃よりも、戦士たちの支援を優先したほうがいいだろう。ゴーレムの多くは精神系統の攻撃を無効化して、他の属性魔法も大きな効果をもたらさない。純粋なエネルギー系の攻撃ならば多少は有効だが、下手に注意をひくことにもなりかねない。だが、ゴーレムの材質次第では有効な手が見つかることもある。状況に合わせて、臨機応変に対応して欲しい。

 また仲間の中にエルフやドワーフがいるのならば、命令してみるのも1つの手だ。運が良ければ、ゴーレムを従えることができるかもしれない。高位の錬金術師であれば「命令解除」などの魔法を使い、ゴーレムの命令を取り消させることも可能だろう。

 ゴーレム自身に善悪は存在しない。

 命令者次第で、最高の守護神にもなれば最悪の破壊者にもなるのだ。


P.S.

 万が一にも起動前のゴーレムを発見した場合、速やかに最寄りの冒険者ギルドか、賢者学院に報告して欲しい。その情報を適正な金額で買い取らせてもらう。


                   ―― 冒険者ギルドの掲示板 ――




―――――――――――――――――――――――――――――――――――




 タロス。

 上古の時代、ドワーフの鍛冶職人が作り出した青銅の戦闘兵器。

 精悍な人間の男戦士を模しており、その大きさは6メートル(2階建ての建物くらい)の高さだ。

 全身にはドロドロに溶けた鉄が血のように巡っており、触れた相手を容赦なく焼き殺す。その細工をする際、青銅を大量に使っており、身体の硬度はゴーレムの中では低く傷つきやすい。しかしそれは弱点ではなく、武器として使われることが多い。何故なら、攻撃を受けた部分からは「血」が吹き出るような細工がしてあるからだ。

 そして周囲にダメージを与えた後、混ぜられたリヴィング・メタルによる再生能力で、あっという間に傷が修復する。

 この無敵とも思える青銅兵士を倒すには「イコル」と呼ばれる心臓を潰さねばならない。これが灼熱の血を循環させるモノであり、タロスにとっての唯一の弱点なのである。



                   ―― ゴーレム全書(非売品) ――




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