8話
「そして、大祝は滅亡したのじゃ
腰かけた初老の男、宗貞はそう言葉を締めくくった。
それを聞いて不満げな顔をする幹千代。
「爺様はその戦には出てないの?」
「あぁ。隆実殿を討ち取って精一杯だったからな」
空を眺め、昔を思い出す老人に枝千代は尋ねた。
「それで、大祝の軍勢はいかがなったのでございますか?」
その問いに宗貞はふっと笑うと「兄上の手によって完膚なく叩きのめされた」と答えた。
「戦ぶりはまさに獅子奮迅の如く。当主、安舎は兄上に一歩手前まで追いすがったそうだ」
ごくりと、息をのむ枝千代と幹千代。
「よいか。戦で大事なことを今から言う」
振り返った宗貞は二人の肩に手をポンと置くと言葉をつづけた。
「それは――」
「村上将吉。この度の武勲を認め三島城城主とする」
戦後の論功行賞にて武吉はまず最初にそう切り出した。
彼の言葉にその場にいた全員が沸き立った。
「又、配下に守役である飯田道兼を付ける」
武吉はそう言って将吉の隣にいた道兼へと視線を向けた。
目元に涙を浮かべながら平伏した彼を武吉は一瞥するともう一人の人物へと視線を向けた。
「大間時隆。お主を将吉の配下へ付ける。よく弟を支えてくれ」
目線を向けられた時隆は「ありがたき幸せ」と答え平伏した。
彼の言葉に、感情は一切こもっていなかった。
その後も数々の武勲が読み上げられそれと同時に褒賞が発表されていったが、将吉ほどの褒賞を得たものはいなかった。
「よいのですかな?」
鶴の間にて武吉と隆重は向かい合っていた。
「これであ奴の真意もわかるさ」
そういって武吉は筆を走らせる。
村上家は規模こそ小さいが書類仕事は意外にも多い。
特に艦船に関する報告があまりにも多いのだ。
「それにしても大間時隆まで……」
隆重は呆れるように言った。
時隆が片腕を失うこととなった要因は先の家督争いでの戦なのだ。
「いかに功労頭とはいえ、今使えねばそれは重しでしかない」
武吉は隆重の言葉をそう切り捨てた。
数年前の時隆は今と違い活発に戦場を動き回りいくつもの大将首を上げたものであった。
しかし、今となっては衰えが隠せなくなってしまっている。
「さて、将吉よ何をする?」
武吉はそう不敵に笑った。
「大間時隆にございまする」
将吉の前で時隆は平伏した。
その場には道兼もおり、時隆の行動に将吉は慌てた。
「お顔をお上げください」
将吉の言葉に時隆は素直に従うとこう言葉をつづけた。
「拙者の兵、小早10艘と関船2艘を殿にお預け致しまする」
総勢で400ほどであった。
これに道兼の配下にある小早3艘と関船1艘が加われば700ほどの兵が集まる。
「なんとも心強い。感謝いたす」
時隆に対し、将吉は頭を垂れた。
その姿を見て慌てた時隆は道兼に救いを求めたが、道兼は首を振ってこたえた。
若はこういった方なのだ。と。
「時隆殿。若輩者ではあるが、これからよろしくお願いいたす」
将吉の言葉に時隆は慌てて平伏すると「こちらこそお願い致しまする」と答え、平伏した。
「ようやく、俺の土地が手に入った」
将吉は心の中でそう笑っていた。
「まずは石高を高めるぞ」
三島城に移った将吉はそう命ずるといくつかの農具の試作を鍛冶屋に命じた。
「さらには戦で傷ついた者どもの慰撫をせねばならん」
そういい、今度は城に蓄えていた兵糧を半数放出し、各地で炊き出しをさせた。
将吉の行動に道兼は眉を顰め諫めようとした。
「若、兵がなければ戦えませんよ」
道兼の言葉に将吉はうんざりしたような顔を向けると、「解ってる」と端的に答えた。
「だがな」と続けると彼は持論を語り始めた。
「民が飢えていては満足に年貢も納められぬではないか」
首をかしげる道兼を見かねた将吉は「解らないならいい。だが、必ず成果はでる」と断言した。
そう自信を持って断言されては道兼もこれ以上言葉をつづける気にはなれず、「承知仕りました」と答えると下がっていった。
彼は立ち上がると側付きの者に「少しばかり見物をしてまいる」というと、屋敷を出ていった。
向かう先は城下町。
目深に管傘を被ると馬に跨り城下町へと繰り出した。
そこは、見るも無残なものであった。
家々は荒れ果て、民は飢えている。
そこらかしらで炊き出しの煙が上がってはいるがとても間に合ってはいない。
将吉は、道路の隅で怯える民を馬上から見下ろしながら唇を噛みしめた。
かならず、豊かな町にしてみせる。
心の中でそう誓った将吉であった。
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