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7話

「ただいま戻ってまいりました!」

 将吉が配下の船を纏めている間、1隻の小早が先行し、武吉の元へと戦勝を伝えに戻った。

 戻ってきた兵が傷だらけであるのを見た武吉は最初、負け戦であったか、と誤解した。

「将吉様の獅子奮迅のご活躍あり、お味方の大勝でございます!」

 その言葉は表情の間にいたほかの家臣たちを驚かせた。

 初陣にして獅子奮迅の働きとは。

「仔細を話せ」

 どよめく家臣とは対照的に武吉はそう冷えた声で言った。

 兵は「はっ!」と平伏し、大まかな戦の流れを話し始めた。

「こちらは関船3艘、小早5艘ながら敵は関船10艘を我等を迎え撃ちました。しかしながら将吉様はそれに恐れることなく潮の変わり目を利用し吶喊。見事大将首討ち取りまして二ございます!」

 兵の言葉を聞いて「おぉっ!」と沸き立つ家臣たち。

 その中の一人が「して、誰が討ち取ったのだ!」と尋ねた。

 兵はそれに、声を張り上げて応えた。


「将吉様にございまする!!」 


 その瞬間、武吉の頬が歪んだことに気が付いた家臣は誰一人として、居なかった。



「役目ご苦労であった。後ほど皆には褒美を取らす故今は休め」

 武吉はそう言って兵を下げさせると「失礼いたしまする」と兵は答え下がっていった。

 彼がいなくなったことを確認した武吉は家臣たちを端から端へ見渡すと口を開いた。

「弟が勝った。さすれば何をすればよいか皆は分かっているな?」

 その問いに答える家臣はいなかった。

 言葉を発せずともわかっている。

「これより大祝を攻め落とす! 関船20艘、小早50艘を持って攻撃する! この度は俺自らが指揮を採ろう!」

「おぉっ!」と色めく家臣たち。

 関船20、小早50艘。

 兵と水夫全て合わせて3000にも達する。

 これほどまでの戦力を能島村上家が出すのは久しぶりのことであった。

「能島の守りは大間時隆に任ず」

 そういって、武吉は大間時隆と呼ばれた初老の男を見た。

 彼はすでに右腕を失い戦場では足手まといにすらなりうる。

 この采配は一種の戦力外通告ともいえた。

「……承知仕りました」

 その老兵は、震えた声で平伏する。

 武吉はそれを一瞥すると他の将へ配置を伝えた。

 大間はその様子を唇をかみしめながら眺めていることしかできなかった。



「……隆実は、討ち取られたか」

 三島城にて安舎は戦の報告を聞いていた。

 這う這うの体で逃げ帰ってきた兵が言うには隆実が敵の大将に討ち取られたらしい。

「和議じゃ」

 安舎は震える声でそう呟いた。

 その言葉を聞きその場にいた全員が眉をひそめた。

 なんと、臆病な。

 皆がそう心の中で安舎を罵っていた。

「殿! 恐れながら、申し上げまする。我等、決死の覚悟にございまする。今一度、能島と戦を!」

 越智隆実が嫡男、盛実がそう声を発した。

 他の者どもも「拙者もでございまする」と続けた。

 しかし、安舎はそれを「黙れぇぃ!」とねじ伏せた。

「わが命と引き換えにうぬらの所領を安堵せよと能島に交渉すると言っているのがわからんのか!」

 普段、温厚な安舎が発した言葉だと誰が信じられようか。

 だが、確かにこの大祝安舎はそう言ったのであった。

「儂が命を代償とし! うぬらが能島で戦働きできるようにすると言っておるのじゃ! 偶には、儂の采配を受けてくれてもよいじゃろうに……」

 安舎は徐々に声を小さくしていった。

 しぃんと静まり返る評定の間。

 皆が安舎のことを侮っていた。

「……殿」

 盛実は小さく声を発した。

 そして、「おそれながら」と続けるとさらに口を開いた。

「我等、大祝家臣団。愚鈍なものばかり故、殿がおられなければ右も左もわかりませぬ」

「…………」

 安舎はその言葉を静かに聞いていた。

「殿が命を絶たれるのならば我等もお供致す次第にて」

 若き武者の立派な心構えにその場にいたすべての者が感嘆した。

「隆実殿はよきご嫡男を育てられた」皆が、そう思っていた。

「我が家は殿と共にございまする」

「当家もでござる!」

「ここで逃げては末代までの恥でござる!!」

 盛実の言葉に触発された者どもがそう声を上げた。

 それを、安舎は目を閉じてゆっくりと聞いていた。

「大馬鹿者どもが」

 安舎はそう言うと、立ち上がり刀に手を添えた。

「よかろう。しかし言ったからには最後まで来てもらうぞ」

 安舎の言葉に皆が目を見開いた。

 今まで頼りないと思っていた主君が、今この場で武士となったのだ。

「我等、冥府までお供致します」

 誰かがそう答えた。

 それを聞いた安舎はニヤリと笑うと声を張り上げた。

「出陣じゃ!!」

 安舎の声に皆が「応!」と答えた。

 大祝氏最後の戦が幕を開けようとしていた。


 庭先で鶴が鳴いた。

みなさま、昨日ぶりでございます。

まずご報告申し上げたいことが1点ございます。

なんとこの度、本作。


ジャンル別日刊ランキング(歴史)にて4位となることができました!!


誠にありがとうございます!

これもひとえに皆様のおかげ。

今後とも、ぜひよろしくお願い致します。


また、ブックマークも気が付けば150に到達しておりました。

重ねて感謝申し上げます。

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