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5話

「殿も大胆なものだな」

 三島城を出陣した隆実は船上でそう笑っていた。

 彼が率いる10艘の関船はまさに大祝氏が誇る主力であった。

 櫂も1艘で70ほどあり、兵は40人が乗り込んでいる。

 1艘で総勢110人。それが10艘もあればその規模は1100まで膨れ上がる。

「殿、潮の流れが変わりもうした」

 彼の部下はそう報告した。

 今まで動いていた潮がピタリと止んだ。

「錨を落としなおせ、流されるぞ」

 潮が止まるということは今度は反対側に向かって流れるという兆候である。

 潮の流れが変わったのにもかかわらず同じ位置で錨を下ろせば錨は緩み、船が衝突する恐れがある。

 隆実の命令に関船が各々の位置へと向かい錨を落としなおした。


 直後、最も端にいた関船から炎が上がった。



「小早は火矢にて撃ちかけよ!!」

 将吉は潮の流れが止むと同時に船を走らせた。

 5艘の小早が先頭を切り、進んでいく。

「放てぇ!」

 将吉がそう叫ぶと斜め後ろで構えていた兵が法螺貝を吹き鳴らした。

 同時に小早から火矢が放たれる。

「下がれ!」

 それを確認した将吉は矢継ぎ早に命令を下す。

 将吉の言葉に呼応するように兵が太鼓を3度鳴らす。

 後退、その命令であった。

「関船、前進せよ」

 将吉はそう言って采配を振り下ろした。

 彼の命令と同時に3艘の関船が前進を開始する。

 敵は10艘もいるが、大したことはないと皆が思っていた。

 潮の流れが極端に停止している今、地の利はほとんど作用しない。

 この合戦で必要とされるのは速力と小回りが利くことであった。

 正面に隆実率いる10艘の関船を捕らえた将吉はある程度の距離に近づくと采配を右へと振った。

 それに応じ、太鼓が鳴らされる。

「焙烙構え!」

 船体が大祝軍の関船に対し側面を向けたところでそう将吉は叫んだ。

 焙烙、それは火薬の玉であった。

 それを敵船に向かって投げ込むことで爆発を起こさせ船を破壊する。

「放て!」

 将吉の命令と同時に10名の兵士が焙烙を大祝軍の関船へと投げつけた。

 甲板が爆炎に包まれる。

「矢を射かけよ!」

 将吉は素早く反対側の舷へと移動し後方の小早に向かって命じた。

 それと同時に彼らの頭上を無数の矢が通り越し、関船に突き刺さる。

 他の村上軍の関船も同じようにして2隻の関船を葬っている。

「もはや敵にあらず! 捨ておけ!」

 将吉はそう命じるとすぐさま次の敵を探した。

 混乱に包まれる大祝軍の中でただ1隻だけが混乱から立ち直り、反撃に転じようとしている関船があった。

 

「我等は大将を狩りに行く! 道兼! 他は任せたぞ!」


 道兼が指揮する船の横を通り過ぎた時、将吉はそう叫んだ。

 彼は呆然としていたがすぐに「ご武運を!」と叫んだ。

 


「隆実様! 早くお逃げになられてください!」

 部下の兵がそう叫んだ。

 だが、隆実は心の中で彼を嘲わらうとこういい返した。

「今背を向ければあ奴らはどうなる!」

 海の男として、武士として、今なお戦う味方を捨て置き自らのみ逃げ延びるなどできるはずがなかった。

「負け戦、か」

 しかしながら周囲で炎上する関船をみてそう呟かざるを得なくなった。

「儂と共に瀬戸内に沈むものは残れ! 残りは泳ぐなり何なりせよ!」

 事実上の降伏宣言であった。

 死を覚悟した武士がそこにはいた。

「何言ってやがるんですか。あっしら、これしかありませんぜ!」

 そういって隆実の側近は刀を抜き放った。

「水練なんぞ、身に覚えがございませぬ!」

 他の者たちも続いた。

 それは兵だけではなく、水夫たちもであった。

「馬鹿者が……」

 そんな彼らを見て隆実は目に涙を浮かべた。

「うぬらの命、今一度儂が預かる!」

 そう声高に宣言した隆実に部下たちは「応!」と右手を振り上げた。

 

「必ずや、首を討ち取ってみせん」


 彼らを眺めながら、隆実はつぶやいた。



「将吉様! 敵が向かってまいります!!」

 船首に立った兵が叫んだ。

 将吉は立ち向かってくる敵を見てやはり、とほくそ笑んでいた。

 船というのは一見すべて同じでも操るものが違えばまるで別の生き物かのように動き方を変える。

「あれは敵の大将だ」

 将吉はそう呟いた。

 よほどの大器を持っているらしい。

 櫂の一つ一つが一糸乱れずに動いている。

「正成、我が死すらば退け」

 将吉は正成に対し、そう命じた。

 突然の言葉に呆然とする正成だったが、すぐにその意図を解し「はっ」と答えた。

「できれば痛いのは御免なんだがな」

 そういって将吉は正成へ笑った。

「武士の言葉とは思えませぬな」

 正成は将吉の言葉を聞いて笑った。

 将吉はその言葉に「そうだな」と同意すると、広い大海原を見つめた。

「俺は船乗りとして生きたい。武士なんぞ辞めてしまいたいくらいだ」

「殿が聞けば馬鹿にされまずぞ」

 正成の言葉に将吉は「違いない」と笑った。

 そして、彼は思考を切り替え目の色を変えた。

 

「戯け話もこれまでだ。今は戦のことを考えるぞ」

 

 そう言った将吉の視線はすでに敵の大将、越智隆実へとむけられていた。

どうも皆さま昨日ぶりです。

気が付けばブックマークも50を超え、すでに60になっておりました。

誠にありがとうございます。


今後とも毎日投稿をできる限り続けていきたいと思っておりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


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