25話
10月8日
今日は乗船日。
お父様が船長をしているらしいから大丈夫だと思うけど初めての船旅は少し不安。
10月10日
今日は風が強くてデッキに出れないからこうして船室でご飯を食べます。
お父様は船橋で忙しいらしいからいないけどお母様と二人で楽しいランチタイムを過ごした。
明後日にはシンガポールに着岸するらしい楽しみだな。
10月11日
嵐に見舞われ船が沈んだ。
私は今濡れた手で必死にこの手記を書いてる。
最初は死ぬかと思ったけど、私を助けるために一人の航海士さんが身代わりになってくれた。
あの人は大丈夫かな。
10月12日
この救命艇には30人くらい乗ってる。
食料は一杯あるみたいだけど、場所がわからない。
水も蒸留器があるから大丈夫らしいけど、いつまで燃料が持つのかな。
10月15日
気が付いたら半分以上の人がいなくなっていた。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
なんでいなくなったの?
仲が良かった親子もいなくなった、優しくしてくれたおばあちゃんもいなくなった。
どうして。
10月18日
私達はついに残り5人にまで減った。
朝起きるのが怖い。
夜眠るのが怖い。
みんな顔が死んでる。
私達はここで死ぬのかな。
10月20日
遂に私一人になった。
もう何も怖くない。
明日起きれば私も消えているんだと思う。
おやすみなさい。
さようなら、この世界。
10月21日
無事、朝を迎えた。
なんで生きているのかはわからないけど、頑張って生きてみようと思う。
気分転換にハッチを開けて外を眺めていたら、何やら一つの箱が流れてきた。
試しに中を開けるとそこには、旋盤用のビットがあった。
何かの運命かもしれないから大事に取っておく。
「……これは」
将吉はそこまで読んだところで手記を閉じた。
かねてから疑問だった。
どうやってライフリングを刻んだのか。
それが一気に解決されたような気がした。
「見つかっちゃった」
背後から少女の声が聞こえた。
「説明してもらおうか、小春」
ゆっくりと振り返った将吉の前には小春が立っていた。
「説明も何も、そこに書いてある通り」
そうやって微笑む小春に将吉は詰め寄る。
「この旋盤は?」
「最初からついていた」
将吉の問いに小春は臆することなく毅然と答える。
場慣れしている。
そう将吉は感じた。
「ライフリングはこれで刻んだのか?」
将吉のといに小春はニコリと笑い、「そう」と答えた。
どおりでハッチがさび付いていないわけだ。
恐らく何度もここを出入りしていたのだろう。
「……出身校はどこなんだ」
最後に、将吉はそう尋ねた。
目の前の少女は女子高校生である。
それは間違いないと思う。
だが、普通科高校の生徒ではないのは確かだ。
どこか工業系の高校――。
「ただの工業高専。お父様に憧れて船に乗ろうとしたけど、ダメだった」
そう言ってはかなげに笑う小春に将吉は同情した。
女子が船に乗るのは並大抵のことではない。
現在では多くの女性が船乗りとして活躍しているが、それでも少数派なことには間違いない。
「私が作って貴男がそれを使う。そういう関係でしょ?」
小春は将吉に歩み寄りそう笑った。
二人は表面上、夫婦だがその実態はない。
「……わかった。これは返す」
将吉はそう言って手帳を投げて渡した。
それを受け取った小春はニコリと笑うと「じゃぁ私の番だね」と笑った。
将吉は静かにうなずき、海に向かって歩く小春を見つめていた。
彼女は夕日を背に振り返るとこう尋ねた。
「名前を教えて」
村上将吉。そう答えそうになった。
だが、小春はそれを求めているわけではないと察した将吉は複雑そうな表情を浮かべた。
「……言わなきゃダメか?」
そう尋ねた将吉に、小春は彼の瞳をじっと見つめてこう答えた。
「私が隠していたように、貴男もいろんなことを隠してる。それはアンフェアだと思わない?」
小春の答えを聞いた将吉はうっと言葉を詰まらせた。
勝手に彼女の手記を見て、彼女の秘密を暴いたのは事実だ。
確かにそれは公平じゃない。
それに、彼女は現代での名前を使っているのに対し、将吉がはこの時代での名を使っている。
アンフェアだと言われればそうかもしれない。
「――――」
将吉の言葉はさざ波の音でかき消された。
だが、小春の耳には届いたようだった。
「いい名前だね」
一瞬驚いたような顔をした小春だったが、微笑むとそう言った。
その日から、将吉と小春の間にあった小さな溝はより一層小さくなった。
どうも皆さまこんにちは雪楽党です。
2話続けて少し単調な話になってしまったかもしれませんがお許しください。
以後も数話にかけて内政回が続きますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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