24話
「安宅船はどうだ」
安宅船の建造が許されてから1年。
1550年を迎えていた。
「建造は8割ほど完了いたしました。残るはわずかな艤装のみでございまする」
造船所に訪れた将吉の問いに道兼はそう答えた。
「新たな試みが多い故、致し方ないかと思われまする」
当初、半年で完成するとみられていたのこの船。
全長25メートル程の大型船であり、武吉の持つ物よりは少しばかり小さいが、将吉の持つ知識をもとに船体構造を改良している。
「構わぬ。何日経ってもよい。必ず造り上げろ」
現代の艦船に見られるような強度部材を多数使用したこの船は恐らく全国でもっとも堅牢な船となるだろう。
船首部を頑強に補強し、海中に沈む部分には衝角とよばれる敵の船に穴をあける武器を装備。
船内には無数の梁を巡らせる。
「しかしこれほどまでに堅牢な船を造る価値はあるのでしょうか?」
道兼はそう尋ねた。
通常の関船や安宅船の構造でも瀬戸内で使うのなら問題はない。
「何があっても決して沈まぬ船というのは士気を上げるものだ」
何があってもこの船は沈まない。
そう思うことで仕事に集中できるというものだ。
「それで、鉄砲の増産はどうなってる?」
小春が新型の鉄砲を開発してからこの三島城下に鍛冶屋を多く招き入れた。
その多くがもともと刀鍛冶であったが、何とか説得して今は鉄砲を作ってくれている。
しかしながら、小春の作り上げた鉄砲を作れるだけの技術がある鍛冶は多くない。
「総じて10丁でございまする」
この1年で僅か10丁しか生産できていない。
担当するのは2軒の腕の良い鍛冶屋。
「普通の物はどうだ」
「総じて40丁でございまする」
道兼の返答を聞いた将吉は唸った。
4件の鍛冶屋が今通常の鉄砲を生産しているが、それでも40丁であった。
「やはりネジか?」
将吉がそう尋ねると道兼は驚いた顔をしながら将吉を見た。
一体どこでその情報を知ったのかと顔で言っていた。
事実、鉄砲の生産自体は順調に進んでいる。
しかしながら銃身とそれを取り付ける木製部分はあっても銃身の最後尾を閉めるネジが無くてはどうしようもない。
これが解決されれば、鉄砲の生産速度は随分と上がるだろう。
「……懐かしいな」
将吉は森の中を抜けていった先にある小さな砂浜でそう呟いた。
周囲は崖と森に囲まれており、人が入った気配はない。
そんな静かな砂浜の中にポツンとオレンジ色の小さな船が擱座している。
小春が乗って漂流していた救命艇だ。
「何かあるといいんだが」
将吉はそう言ってハッチに手をかけた。
さび付いているかと思ったが、案外すんなりと開いた。
「……これは」
まず、中を見た時にふと疑問を抱いた。
「他にいたはずの人間は何処に行った?」
このボートは船が沈んだ瞬間には満員だったはずだ。
しかし、将吉が発見した時には小春しか乗っていなかった。
「どういうことだ?」
そう呟いても、答える者はいない。
「後で小春に聞くか」そう諦めた将吉は救命艇の内部に乗り込んだ。
確か中には通信機なんかもあったはずだった。
将吉は時間を忘れて夢中に中を探し回ったのであった。
「見つかったのはこれだけだったか」
日が暮れる頃。
将吉は救命艇からはいずり出て、見つけたものを砂浜に並べていた。
内訳は日本近海の大き目な海図一つと、太平洋の海図。
小型のVHF通信機と手持ち用のマグネットコンパス。
天測歴に潮汐表。六分儀なんかもあった。
それに船内にはなぜか小型の旋盤が設置されていた。
まず将吉は無線機を手に取り、通信を試みる。
幸いにしてバッテリーとアンテナは健在であるようで、発信することはできない。
短距離用無線機であるから仕方ないとしても、もしかすれば小春のように救命艇で漂流しているものがいるかもしれない。
そして将吉はひとしきりすべての物を確認した。
旋盤、海図。
特に旋盤には鉄粉が付着しており、使用された形跡がある。
漂流の最中に何か使ったのだろうか。
海図については全く何も記されておらず未使用の状態だった。
六分儀と天測歴、潮汐表も同様で多少使われた痕跡はあってもそんなに使ってはいないようだった。
残るは――
「日記、か?」
革製の高そうな手帳が1冊。
恐らくは誰かの日記であろう。
恐る恐る将吉はその手帳を開き、事故前後の日を開いた。
こんばんわ雪楽党です。
少々短いですが、お許しください。
次話は連続してこのシーンが続きます。
今後はこの救命艇の謎を解明しつつ、どんどんお話が進んでいきます。
どうぞ、ご期待ください。
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