22話
「領地が見てみたい」
小春は、将吉が執務を執っている部屋に訪れるとそう申し出た。
「うーん」
小春の申し出に将吉は唸った。
この三島城下は随分と復興が進み、治安が良くなったとはいえ、小春がひとりで出歩くのには少しばかり不安が残る。
「危ないぞ?」
将吉はそう言って小春に尋ねた。
しかし、小春はその問いニコッと笑うと、「その時は助けてね」と言われてしまった。
結局、小春の頼みを無碍に断ることができなかった将吉は小春を連れ立って城下を訪れることにしたのであった。
「みんな、楽しそう」
城下町を見ながら、小春はそう将吉に笑った。
今二人は一頭の馬に二人で跨っており、小春を後ろから将吉が抱えるような形で歩いている。
「そうだろう。自慢の街だ」
将吉は小春にそう自慢げに笑った。
「さすがに東京よりは、静かだけどね」
そう言った小春に将吉は噴き出した。
あまりにも面白くて肩を震わせていると不機嫌そうに小春は「笑わないでよ」と怒った。
「なぁ。いくつか聞いてもいいか?」
将吉の問いに小春は「いいよ」と笑って答えた。
「生まれは?」
「広島」
小春の答えに将吉は驚いた。
「へぇ。東京じゃないのか」
「うん。お父さんが日本人の船乗りでね。よく広島乗船になってたから」
どこかでそんな家族を聞いた気がする。
もしかして――
「君は船長の娘さんじゃないのか」そう言葉にしかけた。
だが、すんでのところで将吉はその言葉を呑み込んだ。
それを行ってしまえば自身が乗組員であったことを自白するようなもの。
将吉にそんな勇気はなかった。
「趣味とかは?」
「……菓子作りかなぁ」
聞けば前食べた羊羹は小春の手作りだったらしい。
しかし、答えるまでに間があったような……。
「あぁ。あの羊羹は美味しかった」
将吉の言葉に小春はくすりと笑うと「また作る?」と尋ねた。
小春の問いに将吉は「頼む」と答えた。
そんな話を続けていると城下町を抜け、港へとでた。
「わぁ……綺麗」
目の前に広がった港をみて声を上げる小春。
現代日本の港に比べれば随分と小規模なそれだが、関船が十数艘並ぶ姿はまさに壮観だ。
「帆船とかって作らないの?」
小春の問いに将吉は「速度が遅いんだ」と答えた。
そもそも村上家の戦船は通行料を徴収するために建造された物がほとんどで、逃げようとする貨物船を追跡するために高速性が求められている。
小春にそれを伝えると「なるほど……」と何か感心していた。
「ねぇ。戦列艦って知ってる?」
小春の問いに将吉は首を傾げた。
そして、彼女が語り始めたものは将吉にとって、未知のことであった。
「つまり、数千トンの木造帆船の両舷に50~100の大砲を並べるってことか」
「そういうこと」
とりあえず感じたのはそんな話は嘘だろうということ。
だが、どうやら実在するらしい。
「……ダメだな」
しばらく思案した後に将吉はそう結論を下した。
「台風がよく来るこの日本でそんな不安定な船は作れない」
多分、小春の言った戦列艦は重心がすごく上にあるトップヘビー状態だ。
ヨーロッパとかの比較的安定した海域ならまだしも、この瀬戸内で使うには少々不安がある。
「それに、鉄砲も大砲もないしねぇ……」
海を見ながらそう笑った小春に将吉は驚いた。
武吉が当たり前のように鉄砲を使うものだからこの時代に鉄砲があるのは当たり前だと思っていた。
「鉄砲、あるぞ」
「え?」
将吉の言葉に小春は間抜けな声を上げ、そして真剣な顔つきになると
「ちょっと見せて」と、将吉に迫ったのであった。
「構え。放てぇぃ!」
道兼がそう命じると二人の兵が鉄砲の引き金を引いた。
それと同時にあたりに爆音が響き渡る。
「どうですかな?」
道兼が自慢げに小春に尋ねると彼女は満面の笑みで「大変すばらしいです」と答えた。
「して、突然いかがしたのでしょうか」
将吉に道兼はそう尋ねた。
どうやら、将吉に目的があると思っているらしい。
将吉はその問いに首を振ると小春に「何がしたかったんだ?」と尋ねた。
「ちょっと的の鎧を持ってきてもらえる?」
小春は将吉の問いに答えず、そう兵に伝えると、兵は標的にしていた鎧を持ってきた。
それを見た将吉は言葉を失った。
「1発も当たっておらぬではないか」
道兼を責めるようにそう言った将吉。
「そう、この時代の鉄砲は相手を煙と音で脅すのが目的、当てるのはあくまで副次的目的」
小春の言葉に将吉は「なるほど」と唸った。
そして小春は兵から鉄砲を受け取ると微笑んでこういった。
「ではこれを私が改良し、見事あの的に当てれるようにしてみせましょう」
こんばんは。
雪楽党です。
前回に引き続き、血なまぐさい話から少々遠ざかっていきます。
もしかしたら冗長な話になってしまうかもしれませんがどうぞお付き合いください。




