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1話

 村上宗貞。

 いや、幼名でこの場は語ろう。

 当時は船丸と彼は呼ばれていた。

 目を覚ました時彼はまず自分が何者かを下すことができなかった。

 夢、そう。彼はおよそ20年にもわたる夢を見ていた。

 記憶の節々は欠損しているが、それでも最期の瞬間は鮮明に覚えていた。

 とある客船の乗組員だった自分はある日自分の船が沈んだ。

 僅かしか発進することのできなかった救命艇に何とか乗りこんだものの水面で暴れる一人の少女をその眼に捕らえてしまった。

 迷うことなく彼は凍えるような寒さの海に飛び込み、彼女を救命艇に乗せた。

 だが、彼はそこで気が付いてしまった。

「もう、救命艇に乗る場所はない」

 そう気づいた彼は気丈に笑うと「自分なら大丈夫です」と答え、救命艇のエンジンをつけるように部下へと命令した。

 どんどんと離れていく救命艇を薄れていく視界で捉えながら彼は意識を手放した。

 最後まで、彼が救った少女は彼に対し泣き叫んでいたような気がした。



「さて、ここはどこだろうか」

 目を覚ました船丸はそう呟くと夜具から身をもぞもぞと出ると周囲を見渡した。

 まずは自らの手を見つめ、ぎょっとした。

 明らかに記憶のそれとは似ても似つかない丸っこい手がそこにはあったのだ。

「10歳くらいか?」

 そう呟きながら彼は周囲に視線を戻す。

 驚くほどに脳は冷静だった。

「若!」

 外からそう呼ぶ男の声が聞こえた。

「……誰だ」

 恐らくあっているであろう言葉遣いで船丸は外の人物へと尋ねた。

 外の人物は一瞬言葉を詰まらせたがすぐに名乗った。

「若様が守役、飯田道兼にございます」

 聞いたことがない名であった。

「我が名は?」

「村上義忠様が次男、船丸様でございます」

 船丸の問いに道兼はそう次々に答えていった。

「いまだ、具合は優れませぬか?」

 道兼はそう心配そうに尋ねてきた。

 だが、船丸の思考はそこにはなかった。

 飯田道兼、船丸。

 いずれも彼は聞いたことがなかった。

 いや、そもそも村上義忠というのがなんとも聞いたことがない。

 一体ここはどこだ?

「能島城にございます」

 もしやそれは村上水軍の本拠地ではないか。

 船丸は一つの推論にたどり着いた。

「兄上は今どこにいる?」

 次男ということは兄がいるはずだと船丸は道兼に尋ねた。

「武吉様は今、この能島城にて政務を果たしてられます」

 船丸はようやく自身の位置を理解した。

 兄の名は村上武吉。

 後の世で村上水軍衆の長として名を馳せる英雄だ。

「今しばらく寝ようと思う。大丈夫か?」

 一旦思考を落ち着かせるために船丸はそう言って寝具の中に潜り込んだ。

「いまは英気を養われませ」

 そういって道兼はどこかへ去っていった。

 彼の足音を確認した船丸は溜息を吐いて、状況を整理しようとした。

 だが、それよりも早く眠気が彼を襲い抗うことができずに睡眠という泥沼へと沈んでいった。



 さて、数日もしてくると状況を把握してきた。

 恐らく現在は1545年頃。

 話によれば2年ほど前に大内軍が攻めより、大祝氏と共に何とかそれを撃退したという話を聞いた。

「兄上も参陣なされたのか?」

 船丸は飯田道兼からその話を聞きながらそう尋ねた。

 今の兄は齢12程。

 従兄との家督争いに勝利し、今は我が家の当主となっている。

 もうすでに戦を経験していてもおかしくはなかった。

「はは、ご家老様が陣頭指揮を執られ、その後詰めを指揮しておられました」

 初陣にしては堅実な布陣に船丸は驚いた。

「敵が強大でした故、万が一があってはなりませぬ」

 道兼はそう補足する。

 納得する船丸。

 確かに海の上で何があるかわからない以上、若い当主は後方に置くべきである。

「何の話だ?」

 部屋の中で道兼と話していると外から青年がやってきた。

「殿!」

 突然平伏する道兼を見て、船丸はこの目の前にいるのが兄なのだと気が付いた。

 兄、つまりは村上武吉は船丸をジッと見つめるとこう尋ねた。

「我が名は?」

「村上武吉でございまする。長らく病に伏してしまい申し訳ございませぬ」

 そういい、床に頭をつけた。

 道兼の話によるとどうやら10日ほど前から高熱が続いていたらしい。

 そんなことは一切覚えていないが。

「構わん。して、今は大丈夫か?」

「万全でございます」

 武吉はそれにニコッと笑うとこう、船丸へ告げた。

「では船丸よ。元服の後に初陣を経験してもらう」

 それは、目を覚まして数日の人間に伝える言葉ではなかった。

 呆然とする道兼をよそに、船丸は笑顔を張り付けるとこう口を開いた。


「それはまことに楽しみでございまするな」


 前世ではただの船乗りだった男が戦人となるのは無理がある。

 その時、船丸は心の中で叫んでいた。

雪楽党でございます。

プロローグでありながら多数のブックマーク誠にありがとうございます。

今後ともご愛読よろしくお願いいたします。


さて、私戦国時代は好きなのですが当時の習慣などは全くの専門外でございます。

何か間違いがございましたらご遠慮なさらずにご指摘いただけると大変うれしゅうございます。

ぜひ、よろしくお願いいたします。


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