17話
「道興は今頃、来島を落としているだろうか」
能島城へ北上する房実はそう呟いた。
道興は決して愚鈍な男ではない。
理論派の人間で、容赦ない城攻めを行う。
彼らならこの短時間で来島城を落とすことも。
そう房実は甘い期待を胸に抱いていたが、それは打ち砕かれることとなる。
「和田道興様、討ち死に! 後備部隊潰走!」
来島の方向からボロボロの関船からそんな声が聞こえた時房実はその耳を疑った。
だが、それを伝えた兵の形相をみてそれが事実だと思わざるを得なかった。
同時に房実は悩んだ。
今、潮は能島から外側へと流れている。
つまり退くなら今なのだ。
これより前進して潮の流れが変わったとき、恐らくこの地域に慣れている村上軍の追撃を振り切ることは不可能に近い。
「殿、ここで退くのは道宣様がお許しになられませぬ……」
そう耳打ちしたのは忠直、先の戦いで討ち死にした右近の兄である。
彼とてここで退きたいのだろう。
しかし、それができないと理解しているのだ。
「退きはせぬ。だが、三島に使いを送れ」
「将吉は裏切るのですか?」
房実の言葉に忠直はそう問い返した。
「しらん」
房実はそう投げやりに答えた。
彼の答えに眉をひそめた彼は怪訝そうな顔をした。
「だが、逆の立場なら裏切る。兄にないがしろにされ、御家存亡の危機にあっても戦に参加できない。これで裏切らねばよっぽどの聖人君子だろう」
忠直はなるほどとうなずいた。
そしてすぐさま小早を呼び寄せ、三島城へと向かわせた。
河野からの使いが来た。
将吉はその報告を聞き慌てた。
何があったのか。
もうすでに戦は始まっているのか?
何も将吉は知らなかった。
そしてやってきた使者を評定の間に通すと道兼、時隆と共に迎えた。
使者は評定の間に訪れると額を床に付けた。
慌てたのは道兼であった。
仮にも河野家の使者。
それに対して頭を下げさせるほど将吉の家格は高くない。
むしろ同列と言ってよかった。
「ご加勢、お頼み申しまする」
そう言った使者に時隆は眉をひそめながら尋ねた。
「我等は一門衆であると解ってのことか?」
今にもこの使者を切り伏せんとさっきを発する時隆に、使者は冷や汗をかく。
だが、それでも毅然と答え続けた。
「ご加勢の暁には、村上家の所領をすべて安堵した後に将吉殿に家督を継いでいただきまする」
予想外の好条件に将吉は驚いた。
だが、すぐに合点が行った。
どうやら来島攻めは失敗して、相当切羽詰まっているようだ。
「ではこうしよう。われらはどちらにも加勢しない。代わりに何があってもこの三島の所領と兵は安堵していただきたい」
将吉の言葉に他の全員が驚いた。
使者は「そんなのでいいのか」と疑問の目を向けている。
この三島城にいる兵が加勢しない限り兵数で言えば河野が上回っている。
「承知仕りました」
そういって使者は涙を流しながら平伏した。
「よろしかったのですか?」
時隆に使者を送らさせ、評定の間には道兼と将吉が残っていた。
「別に加勢はしないと言っただけだ」 将吉はそう言ってニヤリと笑った。
「敵にならない、とは。言っていない。」
そういって評定の間から見える海を見つめる将吉の横顔は、ひどく不気味なものであった。
「そうか。三島城はどちらにも加勢しないか」
船上で報告を聞いた房実はそう零した。
「数の利は我等にある!」
房実はそう叫ぶと、采配を振り上げた。
彼の眼前には能島城が広がっている。
その手前には2艘の安宅船と10艘の関船、そして20艘の小早。
対する河野軍は関船20艘と小早50艘。
それぞれ1500と3000ほどの兵であった。
ただ、河野軍の後方には来島防衛に成功した隆重率いる軍勢がおり、これが合流すれば兵数はほぼ同等となる。
「かかれぇぃ!」
房実はそう咆哮を上げると采配を振り下ろした。
少しばかり短いですがご容赦ください。
この戦、少々長くなります。
冗長に感じることもあるかもしれませんが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
また、もう少しでブックマーク1000に到達いたしますので、何か記念の番外編でもと思っています。
どうぞご期待ください。




