14話
さて、少しばかり時を遡ろう。
「……どうしたものか」
将吉は自室で頭を抱えていた。
傍には小春がおり「どうしたの?」と尋ねてきた。
「小早、という船があるのです」
「知ってる」
小春の返答に将吉は目を見開いた。
「知ってるんですか?」
「うん。戦国時代は好きなんだよね」
少し照れくさそうにいう小春の肩を将吉はガシッと掴んだ。
「きゃっ」と驚きの声を上げる小春を無視して将吉は言葉をつづけた。
「小回りも聞いて使い勝手もよいのですが、何分食料が……」
「あー。長期間の作戦には向かないんだね」
将吉の悩みを先回りして小春は見事いい当ててみせた。
どうやら小春は随分と軍事や歴史に造詣が深いらしい
小早に限らず城から離れて行動できる時間が短いというのは関船でもいえるが、多少はマシだ。
小早は食料や水の関係から持って一晩である。
それを超えると一度城に戻って補給を受けなければならない。
「一つ案があるんだけどさ」
ただ、この小春はその悩みを解決する策を持っているといったのだ。
将吉は目にもとまらぬ速さで床に額を擦り付けると。
「ご教授願いたく」と答えた。
すると小春はニヤリと笑うと条件を提示してきた。
「じゃぁ、敬語禁止ね!」
最初、その提案を拒否しようかと将吉は考えた。
それは自らの矜持からであった。
自らの行いでこの世界に招いてしまった目の前の少女にはできる限り平穏に暮らしてほしい。
そう思っていたのだ。
だが、自らの矜持を踏みにじり彼女の知識を総動員すれば数百の将兵、いや数千、数万にも及ぶかもしれない命が救えると気が付いてしまった。
「……わかった」
一人の少女と一人の男の矜持を犠牲にして数万の命が救えるのなら安いものだ。
結局彼はそう思ってしまったのだ。
「よろしい」
将吉が敬語を辞めたのを見て小春はニコリと笑った。
「それでね。小早の作戦期間が短いなら、補給艦のようなものを作ればいいと思うの」
「補給艦?」
あいにく将吉は軍事というものの知識は乏しかった。
補給艦というのだから補給する船なのだろう。
「そう、クレーンとかホースを戦闘艦につないで食料、水、燃料をやり取りするの」
「瀬取りみたいなことか」
将吉のことばに「そーいうこと」と笑った。
だが、クレーンか。
何かいい方法は……。
「方法は、わかんない」
そういって笑った小春に将吉は溜息と共にあきれ顔で応えたのであった。
「なんとかできたな」
1月をかけてすでに有していた関船の一つを大幅に改装して補給船が出来上がった。
左右両舷にロープホイストとよばれる動滑車と静滑車を利用したクレーンのようなものが取り付けられそれぞれロープの端にウィンチが取り付けられている。
これで、わずかな力を持って荷物の上げ下げが可能となる。
「ほんとにできちゃった」
出来上がった船を見て呆然とする小春に政吉は微笑んだ。
知識だけ提供しておいて実現できるとは思っていなかったのかと。
「ほう。何を作ってんだ?」
「小早に兵糧を渡すための荷船……ん?」
どこからともなく尋ねられて、将吉は反射的にそう返してしまった。
はっと思いそちらを見るとそこには武吉の姿があった。
「説明しろ」
荷船を見ながらそう言った武吉に将吉は頭を垂れて「かしこまりました」という他なかった。
「如何でしたかな?」
三島城から帰ってきた武吉に隆重はそう尋ねた。
すると武吉はニヤリと笑い、こう答えた。
「奴は謀反などせんな」
ただどこか、将吉に失望しているようでもあった。
「あ奴が作っておったのは小早を外海でも使えるようにするものだ。今、奴の目は外へ向いている。そんな奴が謀反をすると思うか?」
その問いに隆重はただ頷くばかりであった。
謀反を本気で起こすなら河野と内通して、小早なり関船を大量に建造するのが手っ取り早い。
しかし、将吉はそうせずに小早を遠隔地でも使えるようにする船を造った。
これは大きな意味を持っていた。
「しかし、それが殿をだますための罠と思えまする」
隆重の言葉に武吉はうなずいた。
そして、こう呟いた。
「来島の兵1000を甘崎に入れろ」
「かしこまりました」
甘崎、それは将吉のいる三島城のちょうど反対側にある大三島の城であった。
三島城は西岸にあり、甘崎城は東岸にある。
三島城から武吉のいる能島城へ向かうには必ず甘崎城の前を通らねばならず、ここに1000もの兵を置いておけば将吉は不用意に動くことができない。
「将吉があの場で死んでくれればよかったものを」
思わずそう呟いた武吉に隆重は眉を顰めるだけで何も答えはしなかった。
こんばんは雪楽党です。
最近誤字報告機能なるものが追加されて、たくさんご報告いただいているのですが……
いやぁ、便利ですね。
ご報告ありがとうございます。
それにしても自分の誤字の多さには辟易しますね。
今後とも励んでいきますのでどうぞよろしくお願いいたします。




