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13話

「こちら養父となる道兼殿でございます」

 小春と道兼はこの時初めて対面した。

 場所は奥で行われ、道兼の妻である藤もその場に臨席していた。

「小春と申します」

 小春はその年ににつかわぬ礼儀正しさで平伏した。

 おや、と感心する道兼を見て将吉は内心ほくそ笑んだ。

 実は数日前から小春と将吉は二人でこの時代における礼儀作法を練習していたのだ。

「飯田道兼でござる。この度は小春殿との養子縁組と相成り申した」

「よろしくお願いいたしまする」

 道兼の言葉に小春は平伏したまま答えた。

 それに道兼は呆れるように笑うと「なるほど、若にお似合いだ」と笑った。

「何があったのかは詳しくは聞きませぬ。が、我等のことを本当の親だと思って接してくだされ」

 道兼の言葉に小春は体を上げると表情を綻ばせた。

「こちらは妻の藤。何かあれば頼るとよい」

 道兼がそういうと藤はニコリと微笑んだ。

 小春はそれに「母上とお呼びいたしても?」と尋ねた。

 藤は少し驚いたような顔をしたが、すぐに「もちろんです」と答えた。

 こうして小春は無事、道兼の養子となったのであった。



 そうして、1週間とせぬうちに婚姻が結ばれることと相成った。

 婚儀は盛大に、かつ厳かに行われた。

 家臣も多忙な者たちを除いて主だったものが参列し、新参ではあるが旧来島家家臣たちの姿もあった。

「とてもお美しい」

 白い着物に身を包み薄く化粧を施した小春に将吉はそう思わず呟いた。

「将吉様も恰好良いですよ」

 そういって微笑んむ小春。

 彼女にとってこの婚姻は決して望むものではなかったのかもしれない。

 でも、将吉にとってこれは罪滅ぼしでもあった。

 自らが招いてしまったこの事態、せめて城主の妻として優雅な暮らしをさせてやりたい。

 そう思ってのことだった。


 こうして、将吉と小春は無事結ばれたのであった。



 しかし、時は戦国。 

 そんな平穏もほんのつかの間出来事であった。



 湯築城。

「通康め! 右近を見殺しにしたどころか寝返りおって!!」

 河野家当主、河野道宣は荒れていた。

 彼にとって来島家というのは北の抑えであり、ある程度重用してきたつもりだった。

 だが、その来島に裏切られた。

「殿、ここは能島成敗と致しましょう」

 静観していた家臣の中から一人がそう声を上げた。

 彼の名は平岡房実。

「如何するのじゃ!」

 キッと房実を睨みつけた道宣に房実は恐れることなく答えた。

「三島城城主、将吉を調略致しまする」

「なんと」

 顔を真っ赤にして激高していた道宣の顔が急に冷静なものとなり、房実の言葉に耳を傾けている。

「今や三島城の将吉は能島の軍勢のうち2割を占めるほどになっておりまする。ここが寝返れば能島如き容易く潰れましょう」

 房実の言葉に家臣は「おぉ」と歓声を上げた。

 確かにそれが成功すれば、能島を攻め落とせるかもしれない。

「しかし、あの兄弟は仲が良いと聞いておるが」

 問題はそれであった。

 将吉と武吉が不仲であるという噂はない。

 故にそれは不可能ではないかと道宣は尋ねたのだった。

「根も葉もない噂であろうと、噂が立てば武吉は将吉を警戒せざるを得ませぬ。こちらに向けれるのはせいぜい3000ほどでしょう」

 今現在、能島はおよそ6000ほどの戦力があると目されている。

 うち1800が来島によるもので、3000が能島。

 のこりの1200が将吉。

 もちろん誤差はあるが概ねこの通りだろう。

 当然、謀反の疑いがある将吉はこないとして、同程度の備えは必要だ。

 恐らくこれに新参者である来島1800を充てるであろう。

 だとすれば――

「わずか3000か」

 道宣はそう言ってニヤリと笑った。

「3月後に出陣致す! 兵は5000集めよ! 総大将は平岡房実、副将に和田道興じゃ!」

 道宣の宣言に家臣たちは「はっ」と言い、平伏した。

 


「将吉に謀反の疑いあり、か」

 武吉はそう言って眉をひそめた。

 その情報を持ってきたのは真壁正成。

「当の本人にそのつもりはないようですが……。得体が知れませぬ故、ご警戒なされた方がよいかと」

 正成が珍しく弱気な発言をしていることに武吉はおやと思った。

「火のないところに煙は立たぬ、か?」

「はい。どうやら最近、新たな船の研究をしているだとか」

 武吉の問いを肯定すると正成はそう続けた。

 新たな船。武吉はその単語に興味を抱いた。

「拙者も荷船としか」

 正成の言葉に武吉はニヤリと笑うとこうつぶやいた。


「では、見に行くとしようか」


 村上武吉の三島城訪問が決まったのはその時であった。

こんばんわ雪楽党です。


最近は皆さまに感謝してばかりで、味気ないものになってはおりませんでしょうか……

少々不安です。


ただ、本当に感想やブックマークを頂けるのは本当にうれしいので、今後ともぜひよろしくお願いいたします。


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