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11話

「殿、あの者が目を覚ましましてございまする」

 救命艇を回収した将吉は武吉への報告を時隆と道兼に任せ、自らは一足先に三島城へと帰還した。

 すぐさま救命艇を隠蔽し、中にいた少女を屋敷へと連れ帰った。

 そして、その少女が今しがた目を覚ましたらしい。

 はやる気持ちを抑えつつ、将吉は足早に少女を寝かせている部屋へと向かった。

 そこは奥と呼ばれる本来は城主の妻たちが住まう場所なのだが、今は家臣たちの妻たちが棲んでいる。

「拙者はここまでしか」

 奥へと続く廊下は途中で途切れ、1本の小さな橋が架かっている。

 これより先は許された者しか行くことができない。

「うむ、ご苦労」

 将吉はそう返すと、奥へと進んでいった。

 表と違い、奥は非常に静かで、厳かな雰囲気に包まれていた。

 障子の一枚一枚が丁寧に手入れされ、廊下は磨かれていた。

「ここか」

 将吉は少女が寝る部屋の前にたどり着くとふすまに手をかけた。

「失礼いたします」

 将吉は久しぶりに武吉以外に敬語を使った。

 目の前にいるのは前世で客として船に乗っていた相手。

 そして不運にも海難に遭わせてしまい、こうしてこの戦国に飛ばされてしまった少女。

 誠心誠意、対応しなければならない。

 将吉はそう言って中の少女に声をかけた。

 中から「ひゃぃっ?!」と素っ頓狂な声が返ってきて、将吉は頬を緩めた。

「村上将吉と申します」

 将吉はふすまを開けると中の少女にそう挨拶した。

 中には平成の世で確かに自らの命と引き換えに救った少女がいた。

 だが、その頬はやせこけ、顔色も悪い。

「気分はいかがですか?」

 将吉の問いに少女は「なんとか、立てそうです」と笑った。

「ところで、ここは何処ですか?」

 少女は思い出したかのように尋ねた。

 そして、疑問を次々に投げてきた。

「着物を着た人たちばっかりで……ここも病院とかじゃなくてお屋敷みたいで――」

 そういって言葉を続けていく少女に将吉は歩み寄ると肩に手をポンと置いた。

「動転せずに聞いていただけますか」

 ぐいっと顔を近づけた将吉に少女は顔を赤らめた。

 そして、将吉は彼女にとって絶望に近い宣告をするのであった。

「ここは1547年の大三島という瀬戸内海に浮かぶ島でございます」

「大三島……」

 少女は将吉の言葉を復唱した。

 そして、どこか安堵したような表情を浮かべた。

 おそらくとりあえず日本であることが確実になって安心したのだろう。

「1547年?!」

 しかし、すぐにもう一つの事実を受け驚いた声を上げた。

「はい、1547年のようです」と将吉は答えると、少女を見つめて尋ねた。

「失礼ですが、名前は何と申されるのですか?」

 将吉の問いに少女は「小春」と答えた。

「失礼ながらおいくつですか?」

「16」

 なんと、まだ高校1年生だったのか。

 驚く将吉に小春は「貴男は?」と尋ねた。

「村上将吉。今年で13になります」

「将吉……。よろしくね!」

 ニコッと笑う小春はとても美しく見えた。


 その後、将吉は小春に事実をありのまま伝えた。

 自分が、最後に小春を救った男であるは伏せて。

 その場にいた乗客の一人だということにした。

 彼女の笑顔を見てしまった今、自分があの時の航海士であったなどと言えるはずがなかった。



「殿、あの女子いかがなさるのです?」

 全ての事情を話し終わったころには日が暮れていた。

 そのままそこにいるのはよくないと思った将吉が表に戻るとそこには道兼が待っていた。

「武吉様への報告を後にしてまで保護するほどのお方なのですか?」

 守役としての役目を道兼ははただまっすぐにこなしているだけであった。

 報告など将吉が行く必要はなかった。

 それこそ道兼や時隆に任せ自身は軍の再編をするというのなら道理は通る。

 だが、女子の世話をしていたとなると話は別であった。

「うむ」

「誰ですか?」

 道兼はそう言って将吉の瞳を見つめた。

「今は言えぬ」

 将吉はそう言って道兼の横を通り過ぎていこうとした。

 しかし、道兼は将吉の肩を掴んで離さなかった。

「無礼だぞ!」

 将吉はそう言ってその手を振り払う。

「無礼で構いませぬ。しかしながら、若に降りかからんとする火の粉を払うのが拙者の役目にて」

 道兼はそう言ってジッと将吉を見つめた。

 溜息を吐くと、将吉は道兼にこういった。

「解った。あの者は妻だ」

「どちらの家の奥方ですかな?」

 とっさに思い付いた言い訳に、道兼は即座にそう返した。

 流石は、守役に任じられるだけはある。

 しばし思い悩んだ将吉であったが、ある案を思いついた。

「大祝家家老、越智殿の忘れ形見である。家格も問題ないと思うが」

 死者に口無しとはこのことだ。

 いくら近くても、それほど親密な仲になかった家の娘をすべて覚えている奇特な人間はこの村上家にはいない。

「……そういうことにしておきましょう」

 何かを諦めたように道兼は言った。

「あぁ。何れ、真意を話す」

「楽しみにしております」

 嘘だと解っているようだが、なんとかそれで話を通せると判断したのだろうか。

 道兼はそう言って去っていった。

 

 やはり、道兼には勝てないなと思ったのであった。

どうも皆さまこんばんは。

雪楽党です。


ブックマーク700行きました。

ありがとうございます。


また、感想も15件目をいただき、「救国の英雄」を大きく超え大変うれしく思います。

今後とも日々精進してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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