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9話

 それから、2年が立った。

 平穏の訪れた大三島では将吉の元、急速に復興が進んでいた。

 荒れ果てていた家屋は区画整理と共に立て直され、農村もいまだ貧しいものの、収穫量は元に戻りつつある。

 船乗りとして、未来の記憶を持つ将吉ではあるものの農家についての知識など全くなく、これ以上の発達は難しかった。

 しかしながら、多少有していた農機具などの知識をもとに試行錯誤した結果、能島村上家における石高の約3割をこの大三島で賄うほどにまで成長したのであった。

「して、殿。いかがなさるので」

 見事に実った畑を見下ろしながら道兼は将吉へと尋ねた。

「座を廃止され誰でも市に参加できるようになされた。まさに楽市楽座ですかな?」

 道兼の問いに時隆はそう続けた。

 十数年後に信長がするであろう楽市楽座を導入したこの大三島は大経済都市となりつつあった。

「そうだな。そろそろ軍備に手を付けるとしようか」

 この2年間、能島村上家は3度の戦をしていた。

 そのすべてが来島村上家によるものであった。

 しかし将吉はそのすべてにおいて参陣はせず、全て大内、因島へのにらみを効かせる役目に徹した。

「今、船は何艘になった」

 将吉は確認するように道兼に尋ねた。

「関船10艘と小早15艘にございまする」

 この2年間、将吉は復興と並行して公共事業としての造船を進めてきた。

 結果、最初は3艘しかいなかった関船は10艘となり、小早も15艘へ増えた。

 総兵力約1200。

 僅か2年で500もの兵を増やした。

「そろそろ戦が始まるだろうさ」

 将吉はそう笑った。



「いまだ、攻めきれず。か」

 来島城にて村上通康はそう呟いた。

 過去3度、20艘前後の戦船を用いて能島へ攻撃を仕掛けたが巧みな操船によって撃退されている。

「来島殿はやる気が足りぬのでは?」

 それを聞いていた真壁右近はそう苦言を呈した。

 彼は河野家より来島村上家へ送られた監視役であった。

「とは言いましても、能島は我等と同じ水軍衆でしてな。部下の士気も上がりませぬ」

 通康はそういっておどけた。

 見るからに、河野家を下に見ていた。

 というのも分家であるはずの大祝を見捨て、さらには自身で出馬せずに部下にそのすべてを任せようという河野家当主、河野道宣がどうしても気に入らなかったからだ。

 まっすぐな気質の通康にとって今回の能島攻めは当主自らが出てこそ、意味があるものだと思っていた。

「主家は宇都宮、大友。一条など多くの敵を抱えておるのじゃ! 能島如きさっさと成敗せぬか」

 右近が本性を現した。

 それを聞いてにやりと笑う通康。

「ならば和議を結んでくださらぬか」

「我等河野が能島如きに頭を垂れろというのか!」

 激高する右近。

(愚か者が)

 右近をみて通康は嘲わらった。

 すぐに感情的になる。

 無能の典型例であった。



「来島を攻める」

 評定の間にて、武吉は能島城にいた部下を集めるとそう宣言した。

 突然のことにどよめく配下の武将たち。

「よろしいので?」

 正成は武吉に尋ねた。

「能島、来島、因島は遠くはありますが、同じ村上。いざとなればお味方になる存在ですぞ」

 正成の言葉に武吉はニヤリと笑った。

 そして、こう言葉をつづけた。

「来島は攻める。しかし、攻め落としはせん」

「はて」

 そういって首をかしげる正成。

「来島を攻め、来島と河野の間に楔を打つ」

 おぉ、と感嘆の声を上げる諸将。

「今や河野は一条、宇都宮との戦に明け暮れておる。ゆえに来島に援軍は出せぬ」

 皆が武吉の言葉を聞いていた。

 そして武吉は悪戯っぽく正成へ尋ねた。

「そうなったとき、来島はどうすると思う?」

「……我らに降ります」

「そうだ」と武吉は答えると大きくうなずいた。

 そして立ち上がると諸将を見下ろしながら叫んだ。


「これより来島城を攻める! 各々兵を集めよ!」



「そうか、攻め戦か」

 将吉の元にも、武吉からの命令が届いた。

 それを受け取った将吉は静かにうなずくと、目を閉じた。

「時隆、出陣だ。関船5艘を任せる」

 将吉は静かにそう言った。

 時隆は彼に言葉に平伏する。

「道兼は小早15艘すべて」

 平伏する道兼。

「では、出陣じゃ」

 城主、村上将吉としての新たな船出であった。



「なんともまぁ」

 能島城沖に集められた軍勢をみて将吉は驚嘆の声を上げていた。

 関船が30艘以上連なり、小早は50を超えている。

 そしてひと際大きな船。

 安宅船がそこにはあった。

 能島村上家で安宅船を有するのは僅かに二人である。

 1隻で櫂は100を超え、兵は70にも達する。

 安宅船1隻でまさに要塞と言えるほどの船であった。

「久しいな、将吉」

「兄上!」

 久々に見た武吉の姿に将吉は感動を覚えた。

「大三島はどうだ」

 武吉の問いに将吉は誇らしげに笑った。

 不思議そうな顔をする武吉に将吉はこう答えた。

「関船10艘と小早15艘を連れてまいりました」

「なんだと!」

 嬉しそうに顔を綻ばせる武吉。

 そして何かを思いついたようにニヤリと笑うとこう将吉に告げた。


「ではお主に河野への備えを命ずる」

おはようございます。

こんにちは。

こんばんは。



日刊ランキング1位二日目となりました。

真にありがとうございます。

感謝してもしきれません。


また、レビュー2件。

そして感想7件もいただき日々の励みになっております。

お時間がおありでしたらぜひ、よろしくお願いいたします。


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