プロローグ
「幹千代様!」
屋敷の中を駆ける二人の少年を一人の女中が必死になって追っていた。
「若様! いかがなさるおつもりですか!」
少年の少し背の高いほうが必死の形相で尋ねる。
彼の名は枝丸。
当主の側近である筆頭家老の嫡男で幹である幹千代を枝として支えるようにと名付けられたのであった。
低いほうの少年、幹千代はそれに笑いながら答えた。
「しるか!」
「ほほ元気よのう」
畳の上に腰を下ろして手を唇に当て小さく笑う着物に身を包んだ女性。
「常は怪我をしないか不安です」
彼女の後ろで心配そうに眉を顰める少女。
「そんなことでは戦時に気をやんでしまいますよ」
そういって少女を諫める女性は常という少女と幹千代という背の小さい少年の母であった。
名は梅の方。
当主、正忠のただ一人の奥方であった。
「戦など、この前無くなったばかりではないですか」
つい1年程前、この世に天下泰平が訪れた。
「何の話をしている?」
そこに響く、若くも年季の入った声。
梅の方がそちらへ視線を向けると初老の男がいた。
声に似合わぬそのその声は間違いなく既に隠居した当主の父のものであった。
「爺様!」
幹千代は男の姿を視界に入れるとそう叫んだ。
「おわっとと、元気だのう」
どこか若々しく感じるかんれも突然の来襲には老いを感じさせた。
「爺様! 戦話をしてほしゅうございます!」
すると男は困ったように梅へと視線を向けた。
呆れるように彼女は笑うと「お話をしてくださいませ」といった。
男は観念したように笑うと縁側に座った。
幹千代と枝丸はそれに駆け寄ると一歩下がって縁側に腰かけた。
しかし男は微笑んで手招きすると少年たちは顔を見合わせる。
すぐにパッと笑顔になって嬉しそうに男の両隣へと座った。
「まずは昔この家であった内乱の話でもしようか」
男は少し間を置くとそういった。
彼の視線はどこか遠くを見つめていた。
そして彼は少しずつ語り始めた。
村上宗貞の一生を。
どうも皆さま初めまして。
雪楽党と申します。
もしかしたら、もう1作のほうを見たことがあるという方もいるかもしれませんがこちらもよろしくお願いします。
また、はじめましての方もよろしくお願いします。