嫁とサンドイッチ
結婚してしばらく経ったくらい、お腹に子供ができる前です。
アイリーンと結婚した後、俺は王都に屋敷を購入した。
侯爵家としては小さい屋敷ではあるが、俺とアイリーンと数人の使用人で暮らすには充分な広さだ。
この屋敷を買う一番のポイントになったのは広々とした庭だ。王都とは思えないほど広い庭は美しい草花で彩られ、俺とアイリーンのお気に入りのスポットである。
まあこの広い庭があるから屋敷が小さいんだがな。
「アイリーン。寒くはないか?」
「ええ、大丈夫ですわ。」
今日は久しぶりに休みが取れたのでアイリーンとゆっくり庭を散歩する。
だいぶ暖かくなって来たとはいえ時々肌寒さを感じる。
「奥様、旦那様、ランチのご用意が整いました。」
そう言ったのは空色の髪を持つ侍女、アズーラだ。
元々フュルスト家でアイリーンの世話をしていたメイドで、俺達が結婚して王都に来た時に一緒に付いてきてくれたのだ。
用意してもらった昼食を食べるために東屋に入る。
「ジル様、今日のお昼は私もお手伝いしましたの。どれを作ったのか当ててくださいませ。」
そう言ってアイリーンがいたずらっぽい笑顔を浮かべる。
結婚してからアイリーンは時々こういう表情を浮かべるようになった。多分学園にいた時はいつもどこかでゲームのことを考えていたのだろう、そしてそれから開放された今心の底から俺を信頼してくれているのだと思う。そういうちょっとした変化が俺に幸福感を与えてくれる。
用意された昼食はサンドイッチだった。ん?サンドイッチに具を挟むのを手伝ったのか?それともサンドイッチの具材を作るのを手伝ったのか……?
ちらっとアイリーンを見るとしてやりましたわ、と言わんばかりの表情でこちらを見てくる。
「当ててくださいませ。」
もう1度そう言ってニッコリと笑う。
「……とりあえず、食べてみてもいいか?」
「もちろんですわ。」
よほど自信があるのかいつかの日に見せてくれたドヤ顔をするアイリーン。可愛い。
アズーラがサンドイッチを取り分け、カトラリーと共に俺の前に並べる。
「……もしかして全部手作りか?」
そう言うと一瞬驚いてすぐ不機嫌な顔になる。
「どうしてわかりましたの……?」
つんと唇を尖らし、ジトっとした目でこちらを見てくる。
子どもっぽい表情が可愛くて、つい尖らした唇にキスをする。
「な!?ご、誤魔化さないでくださいませっ!!」
「すまない。可愛かったからつい、な。」
そう言うと余計顔を赤くさせて怒る。
「ずるいですわ!」
ぽこぽこ俺の体を叩いてくるのでそのまま抱きしめる。
「アズーラがサンドイッチと一緒にカトラリーを出したからわかったんだ。」
「へ?」
アイリーンが俺の胸に置いた腕に力を込めこちらを見上げてくる。
「サンドイッチは手で食べるものだって知ってるのはこの屋敷で俺とアイリーンだけだからな。どうせサンドイッチを詰めたバスケットをアズーラに渡したんだろう?屋敷のコックが作ったのなら知識欲旺盛なうちの使用人たちが食べ方を知らないなんて事ないからな。」
こちらをじっと見つめるアイリーンにもう1度キスをする。そしてそのまま何度も啄んでやると腕を胸からどけ俺の背中に回してくる。アズーラはいつの間にか近くに居なくなっていた。本当にできるメイドだ。
「参ったな、アイリーンの作ったサンドイッチよりアイリーンが食べたい。」
「ばか……っ!」
「そんな顔で睨んでも俺を煽るだけだぞ。」
そう言ってもう1度アイリーンの唇を食んだ。
アイリーン自身は今日の夕食後のお楽しみだな。