屍の上に立つ
俺はウエスト。旅人だ。
そんでもってこいつがマックス。俺の相棒だ。
「あ! あのおじちゃんエビもってる!」
「しっ! 指差しちゃいけません!」
「…………」
世間の奴らは俺のことを頭のおかしいやつだと思っているが、それは否。断じて否だ。
俺こそが世界を救う勇者になりうる素質を秘めた選ばれし者だってことを、今に思い知らせてやる。
手始めに俺は最初の町を出て西へ向かった。
「あ! あのおじちゃんエビ連れて歩いてる!」
「おほほほ!ごめんなさいね~! こら! 見ちゃいけません!」
「……………………」
西へ進むにつれて人家は少なくなり、ついには峠道に突入した。
「マックス。大丈夫か」
「」
水槽の中のマックスは俺を一瞥もせずに前を睨むばかりだ。へへ……恥ずかしいところを見せちまったな相棒。俺とおまえの間にゃとびっきりの信頼関係が存在してるんだ。ものを言わずともわかりあえるさ!
マックスが足を小刻みに動かして応えた。相棒……!
峠道をひとつ越えて安心していた俺たちだったが、その後もいくつも峠が続いた。
もう太陽も沈んだ。そろそろキャンプを張らねばなるまい。
俺は河川敷に下りてテントを張った。
「じゃあ相棒、飯を調達してくる」
一言声をかけて俺は土手を登っていった。
しかし……。
「」
「マックス……」
俺は力なくマックスの横に腰を下ろす。
「なんてこった……この辺のコンビニって24時間営業じゃないんだって……」
「」
とんだ誤算だった。考えが甘かった。
ぐぅ~。
そして腹が減った。
今日一日食べなくても体はなんとかなるが、これからもまだまだ峠は続くかもしれず、栄養を取らない事は死を招く事に等しい。
「マックスよ……」
「」
わかってる。言わなくていい。お前の言いたい事はわかってる。
夜が明けた。もう初夏だというのに河川敷で迎える朝は寒い。
俺はそそくさとキャンプを撤収して身支度を済ませた。
そして忘れちゃいけねぇ。水槽をひょいと持ち上げ、中の水を入れ替えてやる。
しかしその中にマックスの姿は無い。
「……俺は、忘れねぇぞ」
マックスよ……お前がその身を犠牲にしてくれた事、絶対に忘れねぇからな!
俺はウエスト。旅人だ。
そんでもってこいつがマルコ。俺の相棒だ。
「あ! あのおじちゃん伊勢海老もってる!」
「しっ! 指差しちゃいけません!」
旅は長く険しい。
それでも俺は旅を続けられる。何故か。
それは他ならない、相棒の存在があるからだ。
相棒が俺に勇気と希望を与えてくれるのだ。
「さ、行くか」
「」
水槽の向こうの相棒は何も言わない。でもそれが俺たちの流儀。俺たちの友情なんだ。
そうだな……。とりあえず今日はバターと醤油を買って、夜に備えたいと思う。
「!」
某所で投稿した即興小説をちょっと直したものです。
割と気に入っています。
実際のところ、あの辺のコンビニは24時間営業だと思われます。
作中表現であることを補足致します。