1-6 迷宮探索Ⅲ
「お、帰ってきたか! どうだったか、外は」
俺は師匠の元気な声を無視して、第三区へ向かった。
「おっ、おいって!」
師匠が俺の肩を掴む。俺は師匠の方へ振り返る。
もう泣きそうだった。いや、もう涙がこぼれ落ちていただろう。頬を熱い何かが伝っていた。途端、師匠は驚いた顔をして、掴んた力を緩めた。
俺は師匠の手を振りほどいて、拠点へ戻る道を歩いた。
師匠の便利技能、【建築】で創られた、家は迷宮内にあるとは、思えないほど、立派だ。日本の技術までは届かないが、中世のヨーロッパの基準で考えると、立派なのだろう。しかも、師匠は中の家具もある程度、揃えてくれた。寝具やテーブルなどなどが配置されていた。
もう、ふかふかのベッドに入って、寝たい。
俺は部屋に入るなり、ベッドに倒れ込んだ。思って以上に体が疲れていたらしい。多分、四時間ぐらいだと思う。時計なんてないので、正確な時間はわからないが……そのぐらいは眠っていただろう。
平和な世界が懐かしい。こんな、一時的に平和な結界の中じゃなくて、地球に住んでいた、あの頃。
こんな、血で血を洗う、血に塗れた世界じゃなくて、あの笑って、毎日を過ごせる世界が……
母さんや父さんは元気にしてるだろうか? 俺が居無くって、悲しんでいるだろうか。
本当に、
――帰りたい。
多分、願っても無理なんだろうけど……それでも願わずに、いられなかった。
異世界でチート無双? そんなの嘘だ。 幸せにハーレムを築く? そんなのは、存在しない。
異世界ファンタジーの小説なんてそんな物だ。幻想だ。現実は違う。
こんな苛烈な異世界で、迷宮で、俺はただ、純粋に強くなりたい。と思った。シンプルだが、こんな世界を生き抜くには、そうするしか無かった。
今日出会った、女の子にすら、負けていた。多分、肉弾戦でも負けてしまうだろう。
――もっと、強くなりたい。
――こんな苛烈な異世界で生きていけるだけの強さがほしい。
そう思った。
だから、俺は短剣を取り、師匠の居る第二区へと向かった。
しかし、そこには、あり得ない光景が広がっていた。