苛烈な異世界
カンッ、カンッと金属がぶつかり合う音だけが、迷宮内に響いている。
この迷宮には、俺とこいつしかいない。現在、特訓中。一瞬でも気を緩めた瞬間、俺は死ぬ。
今日の目標は三テンポ(三分)の生存。現在は一テンポ(一分)。
俺は必死で剣を振るう。袈裟、薙ぎ、そのまま続けての払いにくい突き。ここまでしても剣は届かない。タンッ、タンッと踊りを踊るダンサーのように、ステップを踏んで避けられる。
――絶望的な実力差。
それを今日も経験する。
俺は術式を編む。目くらまし用の【閃光】を使う。光属性の簡単な魔術だ。ピカッと途轍もなく眩い光が辺りを覆う。
俺は一旦、距離を取る。
しかし、彼は【縮地】という特殊な稀技能を使い、一気に間を詰めてきた。どうやら、もう仕留める気になってしまったようだ。
そして、彼が放った細剣の鋭い一撃が俺の腹を刺す。痛みで一瞬意識が飛ぶ。体が一瞬、動きを止める。
この鬼畜野郎が、そんな隙を見逃してくれるはずが無く、細剣の技能、【五連突き】で滅多刺しにされる。
五ヶ所の刺された部分が猛烈に熱い。痛みを熱と認識しているのだろう。急いで、体内の魔力が俺を修復し始める。まだ、ギリギリ動ける。
せめてもの攻撃と、俺は投擲用のナイフを投げる。が、華麗なステップで避けられて、また、刺された。
遂に、意識が朦朧とし始める。閉ざされていく感覚が、彼が言った声を拾う。
「早く戻ってこいよ。特訓はまだ残ってる」
だめだ。もう意識が持たない。俺は意識を手放した。一瞬だが、楽な気分になる。体の痛みは感じられず、痛いという感覚は消える。そして、天に昇るような心地になる。多分、実際に天に昇っているのだろう。死に向かっているのだから。
【耐性系技能:刺突耐性 を習得しました】
そんな【理之声】が聞こえて、俺は死んだ。
【肉体の死を確認……特殊技能【無限復活】を発動……【無限復活】の使用回数が三十回目に到達……到達報酬:復活時間短縮化……肉体の再構築……意識を覚醒……個体情報を引き継ぎます】