サフィア -2-
夢を見た。
女神さまがお出ましになる夢を。
女神さまのお顔は拝見できなかったけど、とても暖かい手をされていた。
夢の中で女神さまは私の事を娘と呼んでくれた。その先にも何か話されようとしてた矢先に母さんの起こす声で夢は中断された。
今日の私の心は暖かい。
今日は月に一度のお城で行なわれる行商の日。
普段は父さんがお城に行ってそこで働く人たちを相手にいろいろ商売してくるんだけど、あいにく風邪を引いみたいで代わりに私が行く事になった。
「またお会いできるかな、黄金の髪をした王子さまに」
先日、町で夕飯の材料を買っている時に王子さまがいらしていたようで周りにいた女性達がキャーキャー騒いでいた。
何の騒ぎだろうとそちらを見やれば人だかりの中心あたりに太陽の光に反射してきらめいていた黄金の髪が見えた。
またカッコイイ人でもいるのかなー。なんてなんとなくそちらを眺めていたらふと、人だかりの間から黄金の髪の主と目が合った。
蒼い爬虫類めいた瞳と。
瞬間、この国の主だと知った。
龍の血を引く一族が治めている事は周知の事実だけれど、龍の瞳孔になる事までは知られていない。
それでも私は知った。
理由は分からないけど。
後で母さんに聞いたら、黄金の髪の主さまは、第一王子だと言っていた。
ただ、近いうちに現国王が存命退位をされて第一王子が国王さまに御成りになるとの専らのうわさだ。
一生に一度お会いできるか分からないような方にお会いでき、更には目まで合ってしまった。
2度とないような僥倖に私の心は浮き足立った。
ああいう雲の上の存在ってどんな方とご結婚されるのかしら。
きらびやかなお城にきらびやかな衣装を纏った人々、その中心にいるのは今日お会いした黄金の王子さま。そしてその隣には一際きらびやかなお妃さま。
お妃さまの顔が自分になっている事は夢見がちな少女のご愛嬌。
貴人の生活が想像つかないサフィアの妄想はこれ以上進まない。
少し大人びた表情をさせて、朝食ができたと声をかけてきた母さんに返事をして食卓へ向かった。
〜•〜•〜
「すごい人だかりだぁ」
父さんから沢山の人々が集まると聞いていたが、まさかここまでになるとは想像もしていなかった。
ようやくスペースを見つけ、絨毯を広げ両親から預かってきた品物を並べ始める。
「ありがとうございましたー。」
大分商品も売れたのでそろそろ帰宅の準備でも始めようかと思ったところへ
「また会ったね」
王子さまが目線を合わせて膝立ちになりこちらを見ている。
「お、王子さま」
なぜ目の前にいるのか分からず動揺する私に、にっこりと微笑む黄金の王子さま。
「時間的にそろそろ店じまいかと思って来てみたんだけど、正解だったみたいだね。」
片付けが終わったら少しその辺を見て廻らないかと誘いをかける王子さま。
真っ赤になりながらもなんとか頷く。
その後はどう片付けをしてどうやってここまで2人で歩いてきたのか記憶になかったが、今2人並んで行商の日終盤の店を見て廻っている。
私の商売道具を王子さまの肩にぶら下げて。
あれ、そういえば、今日は誰も寄ってこない。
小首を傾げる私に王子さまは、
「今日は気配を消しているからね。私を見ている人は私と認識しているが、それだけなんだ。
だから誰も寄ってこないんだよ。」
苦笑しながらそう話す王子さま。
先日はキミに見つけて欲しくて何も小細工しなかったんだ。
と事なげなく話す。
話しの内容はよく分からないが、理解はした。
理由は分からないけど。
王子さまはいろいろなお店の店主と話しをしていた。
開いている店もほとんどなくなり、満足もしたのか
「私オススメの店があるんだけどよかったら夕飯を食べていかないかい?」
大衆居酒屋のようなお店でいろいろご馳走になった。
1番気に入ったのはスープかな。
お肉料理も美味しかったけど魚も捨てがたいなー。
そんな話しをしながら私の家の方向に歩き出す。
「あそこのスープは絶品なんだよ。味も時々変わるから、また今度行こう。」
王子さまも満足そうな表情で話している。
あっという間に家に着いてしまった。
ちょっと寂しいと思ったのが伝わったのか
「馬に乗った事はある?今度遠乗りに行こう。また近いうちに迎えにくるよ。」
そう言い残して帰っていく。
私の顔はこれ以上ないくらいに真っ赤だと思う。
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