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ママがお腹に隠したもの

作者: 寛 忠

(1・2)

 最近、ママがお腹を気にするようになった。

何やら、お腹に手を当てている。

「ママ、お腹痛いの?」

「ううん。何でもないわよ」

 ママがお腹を押さえる時は、なぜか知らないけれど嬉しそうな顔をしている。でも、どうしてママが嬉しそうなのか、僕には分からなかった。


(3・4)

 ママはお腹を気にするようになってから、だんだんお腹が大きくなってきた。

ママは太ってきている。それでも、ママは大きくなったお腹に手を当てて、嬉しそうな顔をしていた。

 ママは僕には“太ったら困るよ!”と言って、おやつの食べすぎを注意してくる。ママが太っていくのを気にしないのだろうか。


(5・6)

 ママが太ったことを喜んでいるのはママだけじゃない。パパも、ママの大きくなったお腹に手を当てて嬉しそうだ。

「ああ、早く会えるのが楽しみだなぁ」

「もう。昨日も言ってたじゃない」

 パパはどうして、ママに太ったことを注意しないんだろう。ひょっとして、パパがママを太らせてるのかなぁ。困ったパパだ。


(7・8)

 ママが太ったことを喜んでいるのはパパだけじゃない。おじいちゃんもおばあちゃんも、お盆やお正月に来るおじさんもおばさんも、みんなママの大きくなったお腹を見て喜んでいる。

「早く孫の顔が見たいもんだ」

「また家の中が賑やかになるわねぇ」

 誰か、ママに痩せるように言ってよぉ!


(9・10)

僕がママのお腹をじっと見つめた。

「あら、あなたも気になってるの?」

 すると、ママは服をめくってお腹を見せた。ママのお腹は、まるで空気がいっぱい入った風船みたいに大きくなっていて気持ち悪い。

(ママはこんなひどいお腹になって、嫌じゃないのかなぁ…)

 

(11・12)

「ほら、ここに耳を当ててごらん」

 ママは突然、大きなお腹に耳を当てるように言ってきた。

「えっ?嫌だよぉ」

 僕はママのお腹に耳を当てるのを嫌がった。

「そんなこと言わないの。ほら、こっちに来なさい」

「わ、分かったよぉ…」

僕は、ママの大きなお腹に耳を当てた。


(13・14)

“ドクン、ドクン…”

 ママのお腹から、不気味な音が聞こえてきた。

「うわぁっ!」

僕は驚いて、ママのお腹から耳を離した。

「あら。あなたのことが分かってるかも知れないわね」

 ママは僕に微笑みながら話した。


(15・16)

 僕はママがお腹に何を隠しているかが分かった。

(もしかして、ママのお腹には“悪魔”を隠しているんじゃないかなぁ…)

 僕はママの大きいお腹に向かって叫んだ。

「やい!“悪魔”め。今すぐママのお腹から出て行くんだ!」

 僕はママのお腹を必死になって叩いた。


(17・18)

「こら!なんてことをするの?ダメでしょ?」

 ママは僕の体を掴んで、ママのお腹から離した。

「“悪魔”だなんて、悪いお兄ちゃんだねぇ」

僕はママのお腹に居着いた“悪魔”を追い出そうとしただけなのに、どうして怒られたのか分からなかった。

「ママなんか、大嫌いだ!」

 

(19・20)

 僕は部屋のベッドの上で、頭から毛布を被った。すると、ママが部屋に入ってきて、僕の前に立つのが分かった。

「あら、こんな所にいたの?」

 僕はムスッとした顔でママを見た。

「ごめんね。あなたには分からないかなと思って黙っていたの。だから、本当のことを教えてあげるね。実は、ママのお腹にはね…」


(21・22)

「ううっ!いたた…」

 ママが話そうとしたその時、ママは急にお腹を押さえて苦しみ出した。パパも部屋へ駆け込んで、ママに寄り添った。

「お、おい!どうした?大丈夫か?」

「あなた…来たみたい」

 ママが苦しみ出してから、家の中が何だか騒がしくなった。


(23・24)

 パパは苦しむママを車に乗せて、病院に向かって走らせた。僕も後ろの席に座る。

(もしかして、ママのお腹の“悪魔”が暴れてるのかなぁ…)

 僕は病院でママのお腹にいる“悪魔”を取り出すと思った。なんで早く“悪魔”を取り出さなかったんだろう。

 苦しむママを乗せた車は病院に着いた。


(25・26)

 ママは病院の部屋に入っていった。僕とパパは扉の前にあるイスに座った。

「パパ、ママはどうなっちゃうの?」

「大丈夫だ。ママは今、一生懸命頑張ってるんだよ。一緒に、頑張れって応援しよう」

 僕はママのお腹にいる“悪魔”が出て行くように願った。

(ママ、死んじゃ嫌だよぉ…)


(27・28)

 病院の部屋の向こうから、ママの叫び声が聞こえてきた。

「ううーっ!痛い痛い痛い痛ぁい…」

 ママのお腹にいる“悪魔”は、外に出たくないと嫌がっているのかもしれない。ママは苦しそうだ。

 パパは席を立ち上がって、あっちへウロウロ、こっちへウロウロと歩き回っていた。


(29・30)

 僕とパパは、ママがいる病院の部屋の前で座り続けた。

「ううーっ!はぁはぁ…ううーっ…」

部屋の向こうからはママが苦しむ声が聞こえてくる。

 僕はだんだん眠たくなり、パパのヒザの上に倒れた。

(うう~ん。そんなに食べられないよぉ…)


(31・32)

 僕が夢の中にいると、どこからか叫び声が聞こえた。

「オギャア!オギャア…」

「うわぁっ!な、何だ!?」

 僕はびっくりして体を起こした。叫び声が聞こえてくるのは、ママがいる病院の部屋からだった。もしかしたら、ママのお腹にいた“悪魔”が出てきたのだろうか。


(33・34)

「おお。う、産まれたか!?」

 パパはイスから立ち上がって、両手で握り拳を作って喜んだ。どうして“悪魔”が出てきたことに喜んでいるのか、僕には分からなかった。

 ママから出てきた“悪魔”が、これからどんな悪さをするのだろうか。 僕は考えただけでも怖くなった。


(35・36)

 ママは別の部屋へ移り、ベッドで横になっていた。ママは疲れているようだ。

「ママ、大丈夫?」

「ええ、もう終わったから大丈夫よ。心配してくれたんだね。ありがとう」

 ママは僕の頭を撫でた。ママが死ななかったのは嬉しかったけど、僕はママの隣で何かがモゾモゾと動いているのが気になった。


(37・38)

 ママの隣には、ママのお腹から出てきた“悪魔”がスヤスヤと眠っていた。でも、僕が知っている悪魔とはどこか違う。

「ママ。これが“悪魔”なの?」

「こらっ!悪魔じゃないでしょ?あなたの弟なのよ」

 なるほど。だから、ツノもシッポも生えてなかったんだね。


(39・40)

「ほら、抱っこしてごらん」

 ママは悪魔…じゃなかった、赤ちゃんを抱いて僕に渡した。僕は赤ちゃんを落とさないようにしっかりと腕に抱えた。

「ウフフ…アハハ…」

すると、赤ちゃんは僕の顔を見て笑い出した。

「ほら、お兄ちゃんだって分かってるのよ」


(41・42)

 僕は、赤ちゃんが僕の顔を見て笑っているのが嬉しくなった。そして、赤ちゃんとママに謝った。

「赤ちゃん。悪魔だと思ってママに悪さしてるって決め付けて、ごめんなさい…」

 すると、ママは僕の頭を撫でて謝った。

「ママも、お腹に赤ちゃんができたと言わなくて、ごめんなさい」


(43・44)

「オギャア!オギャア…」

 突然、赤ちゃんが泣き出した。

「ママ、赤ちゃんが泣いちゃったよぉ。どうしよう」

僕は何か悪いことでもしたのだろうかと思い、戸惑った。でも、ママは慌てなかった。

「あら、お腹が空いたのかしら?ほら、ママに赤ちゃんを渡してちょうだい」


(43・44)

 僕は赤ちゃんをママに戻した。ママはパジャマを脱いでおっぱいを出すと、赤ちゃんの口に近付けた。

「ほら、飲んでいいよ」

すると、赤ちゃんは泣き止んで、ママのおっぱいを吸い始めたのだ。

「あなたもママから産まれて、こうしておっぱいを飲んで大きくなったのよ」


(45・46)

 ママは赤ちゃんにおっぱいをあげている間、目を閉じて嬉しそうな顔をしていた。僕はママのおっぱいを飲んでいる赤ちゃんの顔をじっと見つめ続けた。

「ひょっとして、あなたもおっぱい飲みたいって思わなかった?ダメよ。あなたはもうお兄ちゃんなんだから、もうあげません」

 僕はがっかりした。はぁ、残念…。


(47・48)

 ママは一週間後に帰ってきた。もちろん、ママが産んだ弟も一緒だ。

 家にはお盆や正月でもないのに、親戚が集まってきた。それは弟を見るためだ。

「ほぉ、こりゃあかわいいなぁ」

 みんな、弟を抱いて喜んでいる。でも、僕には誰も声を掛けてくれないのが寂しかった。弟が羨ましいなぁ…。


(49・50)

 弟はどんな時でも泣きわめく。その度に、ママは弟に駆け寄って落ち着きがなかった。

「赤ちゃんって、本当はママを困らせる“悪魔”じゃないのかなぁ…」

 すると、ママは僕にこう言った。

「あら。あなただって、今もママを困らせてる“悪魔”じゃないのかしら?」

 僕はママのその一言に、ゾッとした。


(51・52)

 ママのお腹が大きくなったのは、食べ過ぎて太ったからではなく、悪魔が住み着いたからでもなく、赤ちゃんができたからだった。だから、ママは嬉しかったんだと思う。

「あなたがママのお腹に来た時も、すごく嬉しかったのよ。二人とも、大好きよ」

 ママは弟を抱きながら、僕の頭を撫でた。

「僕も大好きだよ。ママ…」


(53・54)

 僕は、小さなベッドで寝ている弟に手を近付けた。

“ギュウッ!”

 すると、弟は僕の指を握り、笑顔を見せた。僕は弟が僕を見て喜ぶのが嬉しかった。

「ほら、お兄ちゃんと仲良くしようね!」

 僕は弟が大きくなったら、一緒に遊んであげようと思った。


(終)

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