フォネティックメンバーズ 4-2
そこは室内だった。
シマドリが対戦チームの代表者であるウィスキーと簡易メッセージで段取りを決めて、そして、タワーのバトルサーバーから、カイ達五人が転送された先は、汚れた屋内だった。
いや、汚れたなんて言い方ですら控え目であるほどの、露骨に言うなら、廃墟だった。
窓枠には一枚の例外もなく窓ガラスが嵌っておらず、薄いベニヤ板を何枚か重ねたような頼りない壁や床は、体当たりをすれば簡単に突き破れそうである。天上から垂れている裸電球の明かりが、辛うじて文明の匂いを漂わせていた。
「え、えっと……何ここ?」
皐月はその惨状を目の当たりにし、そして、また異常事態に巻き込まれてしまったのだろうか、と小さな恐慌を漏した。
「安心しろ。ここはキルハウスだ」カイは心なしかつまらなそうに言う。「CQBの訓練施設、そういう体の普通のマップだ」
その遣り取りを聞いて、シマドリは不思議そうに皐月を見た。
「なんや、嬢ちゃん。そんな事も知らんのか? マジもんの初心者なんやな」
「え? ええ、すいません。つい最近始めたばっかりで、その、バトル? ですか? それも初めてなんですよ」
「そかそか、まぁ気楽にしといてええで。こっちには四人も異名持ちがおるさかい、たぶん足手纏いにはならんやろ」
「はぁ」と、皐月は不安げに頷く。
ちなみに、今はウォームアップの時間だった。
複数人対複数人のバトルに参戦した場合、他の全てのプレイヤーの読み込み完了を待つために、数十秒、もしくは数分の自由時間が与えられるのだ。その間は何をしても自由だが、その後のバトルには一切反映されない空白の時間。
カイはスコアボードを表示して今回のバトルの詳細を確認、皐月のために説明する。
「ルールはチームデスマッチだ。レッドとブルー、二つのチームに分かれて殺し合い、先に全滅した方が負け。俺達はレッドチームだ。簡単だろ?」
「……わかり易いけど、それって簡単なのかな」
「このマップは、まぁマップ画面開けばわかる通り、四階建てだ。長い廊下の北と南にそれぞれ螺旋階段があって、各階に小部屋が幾つかあるだけの単純構造。学校の校舎だと思えばいい。で、俺達の居るここは一階の北側階段付近。敵は一番上の階、四階の南側に居る」
「え? 最初から敵が上に居るの? よくわからないけど、それってこっちが不利じゃない?」
皐月は戦争映画か何かで聞き齧った、浅はかな知識を口にした。
「普通はそうだが、今回は一概にそうとも言えない。このバトルは少数対少数だ。そうなりゃ全員でまとまって動くのが基本になる。敵も同じだ。バラバラに待ち伏せしてる可能性は低いだろう」
「なるほどね……」と言いつつ、実はよくわかっていない皐月だった。
「いや、それはどうやろうな」シマドリがカイを見て、嫌らしく笑う。「やっこさん、お前を連れて行く言うたら、えらい張り切っとったで。たぶん定石の戦法は取らんやろ」
「ふん、ウィスキーかい……」カイは呟く。「それはともかく、連中どんな面子で来るんだ? その、俺達が抜ける前からいた元来のメンバーも参戦するのか?」
「さてな、わしも詳しくは知らん。ズールの姉御の一件で、半分以上は抜けたからのう」
小首を傾げながらハンヴィが言う。
「わかりませんけど、たぶん最強メンバーで来るんじゃないですかあ?」
「最強メンバーって事は、つまり全員顔見知りの古参兵ってわけか……」
カイは不敵に、それでいてどこか懐かしそうに微笑した。
カイ達が居る一階の北側階段付近から、ちょうど対角線上の、直線距離にして数十メートルも離れていない四階の南側階段付近。
そこに四人のプレイヤーがいた。
その中の一人、灰色と黒色で斑に彩られたデジタルパターンの戦闘服を着て、顔に大きな黒い十字のフェイスペイントを施した壮年の男は、俯きながら腕を束ねて固まっていた。外界からの一切の情報を遮断するように、精神を研ぎ澄ますように、停止していた。
彼が現在のフォネティックメンバーのクランマスター、ウィスキーである。
「遅い! 遅すぎるわ!」
と、そんな彼の隣りから怒声が響いた。
派手なワインレッドのスーツに身を包んだ、線の細いボブカットの女は、ウィスキーの態度と反比例するかのような落ち着かない様子で続ける。
「あの変態クソ野郎、フォックストロットはまだなの!?」
ウィスキーは顔を起こしもせずに、ゆっくりと口を開く。
「……奴の家のネット回線の速度は著しく鈍足、しかもパソコンのマシンスペックも最低動作環境を辛うじてキープしているに過ぎない。転送が遅れるのは道理だ。少しは落ち着け」
「は、はい、そうですね。すいません……マスター」途端、女は恐縮したように項垂れた。
彼女はウィスキーの秘書的なポジションに居る、と自称している。フォネティックメンバーのサブマスターにして“V”のナンバーを持つ、ビクターであった。
ビクターは八つ当たりするかのようなきつい視線を、階段ではしゃいでいる二人のプレイヤーに向ける。
その二人はそれぞれお揃いのオーバーオールタイプの青い戦闘服を着ているが、しかし服を着ているというよりも、服に着られているという揶揄がぴったりな感じの、共に幼い少年と少女だった。双子のようにとてもよく似ている。
小学生の頃なら誰しもが遊んだであろう、階段の手摺にぶり下がり、服の摩擦で下まで滑り降りるという遊びをしていた。
「あんたらっ、マスターが立案した最高の作戦は覚えているの!?」
ビクターがそう訊ねると、
「待ち伏せしといて」と少年が言って、
「ぶっ殺すー」と少女が続いた。
そして二人は顔を見合わせ、ころころ笑う。
少年は“K”のナンバーを持つ、キロ。
少女は“L”のナンバーを持つ、リマ。
彼らも立派なフォネティックメンバーの一員だった。
ほどなくして、ウィスキーの前方に青い光の輪が現れ、その光の中から一人の男が出現した。
白一色の雪上迷彩の戦闘服を着込み、顔には目の部分だけがくり貫かれた鉄仮面。更にその鉄仮面には白と赤で狐のフェイスペイントが施されていて、まるで地方のお祭で使われるような不気味な狐のお面のようになっていた。
「ふひゅぅー、ようやく入れた感じですなー。いやはや、毎回ひやひやモンですよ。五回に一回は回線不良でキックされちゃいますからにぃー。もっとも、そのひやひや感がわたくし的にはたまらんわけですよ」
その狐面の男は“F”のナンバー、フォックストロット。
「遅いよー。クソ狐のクソ野朗」とキロとリマが声をハモらせると、
「ごめんねー。クソ双子のクソガキども」とフォックストロットが返す。
見ただけで呪われそうな外見とは相反して、饒舌で陽気な口調だった。
ビクターも、遅い! と一喝入れたかったが、ウィスキーの手前、喧しい事は言えずに、
「こんなに長い間転送に時間とられて、作戦は忘れちゃいないでしょうね?」
と精一杯の皮肉を込めて、確認するだけに止めた。
「ええ、ええ、そりゃもう、ええ」フォックストロットは言う。「ばっちりぱっちりがっちりと、記憶しちゃってますですよ、はい」
その時、
一瞬視界が暗転し、そして『キルハウス:チームデスマッチ』というテキストが表示され、バトルの開始を告げるBGMが流れ始めた。
固まっていたウィスキーは、まるで蘇ったかのように小さな息を吐き出して、徐に顔を起こした。
「もう一度確認する。向こうには元シエラと元ホテル、そして何より、元エクスレイが居る。現フォネティックメンバーの名に懸けて、無様な敗北は断じて許さない」
――――それでは、“策戦”を開始する。
「始まったようやな」
シマドリは全員の顔を見渡すようにした。
「で、どうするんや? 作戦は?」
沈黙する一同、その視線が自然とカイに注がれた。
「……なぜ俺を見る?」
忌々しそうに顔を顰めるカイだったが、頭を掻きながら嘆息。
「ま、とにかく動くか。全員纏まって最上階を目指そう。そうすりゃ敵とかち遭うだろ」
「随分適当な作戦やのう。力量でごり押しかいな」
「練習試合なんだろ? 別に負けても困らないからな」
言って、カイは吊り下げていたM4A1カービンを携え、伸縮式のストックを引き伸ばす。
「ポイントマンは俺がする。栞とハンヴィでシンガリを、皐月は真ん中で……って、お前武器持ってねえじゃねえか!」
皐月は目を丸くし、小首を傾げる。
その身体には、銃器は勿論、ナイフすら携行していなかった。完膚なきまでの丸腰だ。
シマドリとハンヴィはそれを見て、爆笑した。
「ひゃはははははははは! バトルに丸腰で参戦する奴は初めて見たで。嬢ちゃん、徒手空拳の使い手かいな!」
「あははぁー。皐月さん、もしかしてFalse Huntだけじゃなくてゲーム自体が初めてなんじゃないですかぁ?」
「え? あ、いや、だって私本当に初心者なんだもん。教えてくれなきゃわからないよ……」
恥ずかしそうに俯く皐月に、カイは小さく舌打ちをして、背負っていたコンバット・ショットガンと、数十発のショットシェルが織り込まれたベルトを差し出す。
「これ持っとけ」
「え、いいよ。そんなの」
「いいよじゃねえよ」カイは語気を強めて言う。「もしかしたらって事もあるだろうが。手前の身ぐらい手前で守れ」
「あっ、ご、ごめん……」
皐月はカイの気迫に怯み、同時に、その“もしかしたら”がスペシャルクエストの発生を意味している事を理解し、俯きながらそれを受け取った。
「おい、黒いの」シマドリが不快そうに唇を尖らせる。「そないな言い方せんでもええやろ」
「うるせえ。……とっとと行くぞ」
カイは他の四人に背を向けるように階段の方へと向き直り、そして後ろ手に追従のハンドシグナルを示し、駆け出した。
肩幅を小さくするようにM4A1カービンをコンパクトに構え、銃口を常に警戒すべき前方に向けながら、階段を駆け上がるカイ。その後方、約二メートルの間隔でシマドリが続き、中央に皐月、そしてハンヴィと栞が後方を警戒しながら追従する。
一階から二階、二階から三階へと、中ほどに小さな踊り場がある角張った螺旋階段を駆け上がり、そして三階から最上階である四階への踊り場を折り返した。
その時、
「――――ッ」
カイは、四階フロアの天井に、こちらを向けて設置された深緑色の箱型の物体を発見し、
「戻れえぇっ!」
すぐ後ろに続いていたシマドリを押し退けるように、三階側の踊り場に身を翻した。
途端、
激しい爆音が轟き、無数の破片の嵐が、ついさっきカイが立っていた空間を蹂躙する。
クレイモアだ。
大剣の名を持つそれは、後部のプラスチック爆薬の炸裂より、前部に詰った約七百個のベアリングの、その一粒ひとつぶを散弾級の暴力に代え扇状に放出し、前方に在る対象をズタズタに切り裂く対人指向性地雷。
クレイモアの無数の破片によって、四階に面した踊り場の壁は、まるで防音処置が施された壁のように、一面に無数の風穴が穿たれた。
「くそっ、トラップかい。しかしこの配置は……?」
立ち込める粉塵の中、カイは呟く。
こちらを殺したいのなら、あんな見つかり易い位置にクレイモアを仕掛けずに、擬装するなり、死角に敷くなり、他にいくらでも上手い配置があったはずだ。
そんな風に思考し始めた。すると、
「やっほー! エクスレイのお兄ちゃーん。僕のこと覚えてるー?」
上階から、少年の声が響いてきた。
ややあって、カイは応じる。
「お前は……キロか! するとリマも一緒なのか!?」
「あははー、正解正解、大正解だよ。嬉しいなぁー。じゃあプレゼントをあげるねー!」
その言葉と同時に、上階の角から、ショルダーバッグのような物が投擲された。
「!」
それはサッチェルチャージ、局所破壊用の爆薬であった。
しかし、そのサッチェルチャージは、カイ達が居る踊り場には届かず、螺旋階段の中央の吹き抜けに落下していった。
「はっ、なんや。ビビらせよってからに」シマドリは嘲笑う。「よお、クソがき! プレゼントとやらが届かへんぞぉ! 残念やった――――」
だが、シマドリの台詞は途中で轟音に遮られた。
吹き抜けを落下していたサッチェルチャージが、ちょうどカイ達の真下、二階の階段付近で爆発したのだ。
最後尾に居た栞とハンヴィは、直撃ではないにしろ、その衝撃波に中てられ、三階の廊下に吹き飛ばされ、皐月も悲鳴を上げて、階段の途中で転倒してしまった。爆風とオレンジ色の爆炎が上昇気流のように吹き抜けから駆け上がり、四階の天井を焦がす。
更に少し遅れて、ズズンと、何かが落ちるような振動が響いた。
「――――まさか」
カイとシマドリは同時に階段を駆け下り、そして二階を見て、共に嘆息した。
「やられた……。そういう事かい」
「やれやれ、まいったのう」
二階の階段は消失していた。
もともと強固な造りではない、木材を適当に組んで作ったような脆い階段だった。先の爆発で、完全に崩れ落ちてしまったのだ。
つまり退路を断たれた。
そうなれば、次に何が来るのかは、火を見るよりも明らかで、
カイは三階の廊下で朦朧としていた栞の、シマドリは栞と同じような状態になっていたハンヴィの、それぞれの首根っこを掴まえ、階段の壁側へと引っ張った。
すると、間髪を容れずに、三階廊下の奥、南側から、無数の銃弾が飛来し、そしてまったく同じタイミングで、カイ達のすぐ頭上、四階からも、三階の踊り場に向けて、銃撃が浴びせられる。その双方からの弾丸は、一瞬も絶えること無く、壁や床に弾痕を形成し続けている。おそらく軽機関銃による牽制射撃だ。
粉塵と破片が舞い、銃声と着弾音が反響する壮絶な喧しさの中、カイは舌を打つ。
「……開始十秒で追い詰められたか。まったく見事な手際だな」
まずクレイモアで牽制し、次にサッチェルチャージで退路を断ち、そして銃火で釘付けにする。
つまり現在カイ達は、下の階への退路を断たれ、更に進路である三階廊下と四階へ続くの階段を銃弾で塞がれている状態だった。即ち三階階段の僅かなスペースに閉じ込められてしまった。八方塞がりだ。
こうなってしまったら、後は距離を詰められ、なぶり殺しである。
「だから言うたやろ。力量のごり押しなんて、“策士”のウィスキーに通用するかい。きっとウィスキーの野朗、わしらがどう攻めるか全部予想済みだったんやろうな」
面倒臭そうに言うシマドリだったが、ここで一転、「でもなあ」と、不敵に微笑する。
「まだまだ詰めが甘いのう。こっちのチームにわしがおること、忘れてもらっちゃ困るで」
そしてシマドリは、階段の途中で仰向けに寝転がり、三階の天井に向けて、即ち四階の床の裏に向けて、巨大なライフルの銃口を持ち上げた。
その意味不明な挙動を見て、皐月と栞は目を丸くし、
「おい? なにやって――――」
代表してカイが疑問を呈そうとすると、ハンヴィに手で制された。
「エクスレイ先輩、シマドリさんの二つ名、忘れちゃったんですか?」
ハンヴィのガスマスク越しの目は、自分の事ではないにも関わらず自慢げに、こんな状況にも関わらず嬉しげに、笑っていた。
「………」
カイは思い出す。
シマドリが嘗てシエラと名乗っていた頃、その特異な技術を評され、ケルト神話に登場するある武器の名で呼ばれていた事を。
それは、『必ず勝利をもたらす』や『稲妻となって敵を死に至らしめる』だとか『放たれたら必ず敵に命中する』といった、様々な逸話を持った伝説の槍。
『貫くもの』の意。
“魔槍”。
「銃声の位置から判断するに、この辺やろうな」
言って、シマドリは銃口の向きを微調整し、引き金を落とした。
凄まじい、まるで鼓膜を破壊するために発せられたかのような鋭い空気の振動、もしかしたら先のサッチェルチャージの爆発音よりも更に強烈な大音響が、轟いた。
放たれた20ミリの銃弾、否、砲弾は、正に巨大な一本の槍と化し、天上に大穴を穿ち、しかしそれでも止まらずに、その進路上に在る全てを根こそぎ突貫した。さながら天に伸びる強大な雷だ。
同時に、四階からの牽制射撃がぴたりと収まり、ほどなくして、ミシミシと、砲弾によって穿たれた天上の大穴から、一人の子供が落下してきた。
「ひぃ」
皐月は小さな悲鳴を漏らす。だがその反応は当然、いや、嘔吐しなかっただけ立派と言えよう。
なぜならば、落下してきた子供は、もはや人間らしい形をしておらず、上半身と下半身が皮一枚で辛うじて繋がっている状態だった。即死の瞬間に固められた笑顔と、手にしっかりと握られたままの軽機関銃が恐ろしいほどに生々しい。
「こいつはキロだな……。すると上にリマも居るな」
カイはその無残な死体の青い戦闘服を見て、過去の記憶を思い起こしながら言った。そして、「やはー、クソがきのどてっぱらに命中。南無南無」と嘯きながら立ち上がっているシマドリに視線を移す。
「しっかし、なるほどな。お前はその銃をそういう風に使うわけかい」
常軌ならば接近戦が主となる室内戦闘において、遠距離射撃を目的とした狙撃銃を携行するのは圧倒的に不利だ。しかし、規格外の口径、20ミリの徹甲砲弾ならば木製の障害物なら紙のように、コンクリートの壁でも粘土のように無き物として無視できる。そんな唯一無二の利点がある。
もっとも、障害物の先に在る目視不能な標的を狙うなんて芸当は、一朝一夕の訓練で体得できるものではないし、ある種の勘が必要になるが、シマドリはそれを可能にしていた。
まさに貫くもの。故に魔槍。最上級プレイヤー特有の一芸である。
「で、どうするんや?」シマドリはライフルのボルトを引いて、空き缶ほどはあろうかという巨大な薬莢を排莢しながら、カイに訊ねる。「これで上の道は開けたようやけど、三階からの銃撃も収まってるとこから察するに、きっと連中、もう第二プランを展開しとるで」
シマドリの言う通り、いつの間にか三階南側からの銃撃も止まっていた。おそらく敵チームはキロの死を察知し、次の作戦を発動させたのだろう。
「第二プランかい……。じゃあ俺達も第二プランだ」
カイはハンヴィは指差す。
「ハンヴィと俺で四階を索敵してくる。残りはこのままここで待機だ。おそらく何か仕掛けてくるだろうから、ま、臨機応変にな」
「そりゃまた、随分な奇策やのう。愚策と言い換えてもいいわい。けど、連中相手にはそんぐらいのシュールさが必要かも知れんな」
シマドリが言い終わるのを合図に、階段を上がり、四階廊下を進んでいくカイとハンヴィ。
二人の姿が見えなくなったのを確認し、シマドリは皐月と栞を交互に見遣った。
「嬢ちゃん達は……」と、いいさすが、しかし、「いや、まぁええわい」
そんな風に意味深に首を振った。
シマドリの言わんとした事が、まったく理解できないはずの皐月と栞であったが、しかし、各々が神妙な面持ちでシマドリの瞳を見詰め、心の中で頷いた。




