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スピードVSトイツ



2トイツに寄せる

 「絞れ・・・絞るには何を寄せれば良いか考えろ」

しつこく追いすがる僕に門倉プロはついに1つの助言をくれた。絞るとは麻雀では右隣の人、高そうな手を作っているだろう他の人に「ポン」「チー」させないために手の内に特定の牌を隠す技術のことを言う。寄せるとは要は集めると同じ意味合いだ。

「自分が壁になることで勢いがある流れを止める。俺の得意なゆっくりで思い流れに持っていくんだ」

言いたいことはなんとなく分かる。自分の得意な戦法が人それぞれにある。確率論で牌を寄せるとトイツ志向の人間では手が追い付かないことが多くなる。彼らは鳴きも得意である。要は相手の捨てた牌を利用するのが得意なわけである。

相手を利用する人間は自力で手を育てるのが苦手である。手もスピード重視な分点数が安い。だから、自分が利用されないように絞れば「ポン」「チー」によるスピードアップを阻止できスピードで対抗できるわけだ。

「でもそれでは自分が不自由では?」僕が疑問をぶつけると

「・・・それはおまえがトイツ手に寄せる頭になってないからだ」

???

僕はそれなりに彼の打ち筋を研究しているつもりだ。その僕がトイツ手のことを見過ごしていることはないと思うのだが・・・


門倉プロと別れた僕は雀荘に顔を出した。

現在の麻雀をすることのできる場は明るくサービスも充実している。過去の麻雀をする場は高い賭け金に怖い雰囲気・ヤクザの存在が大きくクローズアップされ実際に怖かった。賭け事=悪という常識が日本に根強かったが、いまでは雀荘はもちろんカジノも日本に存在する。

「いらっしゃいませ~!」という明るい声も聞こえなかったろうなあ。とぼんやり考えていると女性店員がおしぼりを持ってきてくれる。男の世界のイメージが強い鉄火場にも西洋のカジノのような明るさが灯った気がする。

「すぐに席をご用意できますが・・・」

「うん、おねがい」

「1名様入りま~す!」

門倉プロの言葉にもやもやしながら「よろしくおねがいします」と卓上の3人にあいさつする。

ここで対面の人物に気が付いた。「あ、どうも」

「「あ」じゃないじゃろう」

「ちょっと考え事してまして」

対面の人物は安永銀蔵。古めかしい名前だが気安い人柄で人望の厚い髭坊主(笑)だ。

門倉プロと同期で、僕が門倉プロに振られ続けていることを気にして一緒に頭を下げてくれた。

「まあた、門倉に断られとるんか?」

「いえ・・・それが門倉さんにアドバイスもらいまして」と話をしながらゲームを始める。

「トイツ作りの話じゃろう?このスピード重視のご時世に・・・お?ツモったわい!500・1000」

「速いですねえ」

「これでも昔は風神と呼ばれた男よ!」と年甲斐もなく胸を張る。

僕は手の内から最初に切った字牌を思い出していた。門倉プロなら序盤にこんな切り方をしない。いつも字牌は切らずに端の数字の牌を切っていた気がする。それなら鳴きも入りづらいはずだ。字牌を切らずに貯めこんで使える手役は・・・

そう考えながら局を進行させていった。周りは流行に乗ったスピード打法で僕を翻弄していく。3900点2700点2000点・・・あっという間に終盤戦(南場の最後、最終回)になり僕は1人取り残された。

・・・ん?この状況は・・・あの大会と同じ状況じゃないか!

1人取り残されて高い手をあがろうにもあがれない状況。僕はどうすればこの状況を打破できるのか?

手の内はこれだ。

12468(マンズ)56889(ピンズ)南白発(字牌)

ベテランプロも混ざったこの卓でこの手の内は苦しい。

麻雀は手役だ。この手牌では字牌をトイツ・アンコ(同じ種類の牌3つを自分で集める)にしても数字の並びが良くない。普通の手役では間に合わない。そう普通の手役では。あがるのだけ考えてると足元を掬われる。だから受け身の構えで行かなければならない。

この時点でようやく七対子という役が見えてきた。その名の通り7つのトイツで手牌を構成する特殊な手役である。ツモの流れを見切って相手を制してこの手役になれば。

昔の格言に「不ヅキの時には牌がかぶる(トイツになる)」というものがある。「ツモ(引いてくる牌)に法則性がある」という言葉もある。今まで聞いてきた体験してきた全てを総動員する。

まずはツモ。ツモ牌はピンズの6。ツモの流れは縦(重なること)だ。それにピンズを集めれば手が高くなる。字牌を鳴かれてスピード勝負に持ち込ませない。手を重く(高く)して逆転を狙う。自分で相手の手役を決定させない。

欲張りな考えも押し通す!打牌はマンズの1。誰からも発声は聞こえない。とりあえずは成功だ。

いままで、こんなに頭を使ったことがあっただろうか?プロでもいちいちこんなことは考えない。まだまだ一人前には程遠い。

「いい顔じゃ」銀さんが声をかけてくる。

「こんなに考えたの初めてですよ」と緊張で固いままの表情で僕は応じる。

「第一打でここまで考えるプロはそうそうおらん」

「すいません・・・」

「だからこそいいんじゃよ。それでこそ手役を見落とさんし、逆転の1手を作れる。」

「あ、ありがとうございます」

たかが麻雀と思ったこともある。けれど、銀さんの言葉がプロ棋士としての自分の矜持を思い出させてくれた。この手は絶対成就させる。プロ棋士の意地にかけて!

 次順のツモはマンズの2。またもや縦のツモだがピンズに集中できない手になった。ツモの流れを縦と読んだ以上、この重なりは落とせない。次はどこが重なるか?第一打が3人共マンズの9だった。ならば789のシュンツを作る人間はいない。自分の持っているマンズの8が重なるかもしれない。そう考えるとマンズの2468という並びがトイツになるという法則も使える。

 「事前に引く牌が分かるわけない」と確率論者・デジタル派は言う。その通りかもしれない。でもこの並びを抑えることで。流れは変わる。

 ツイている。そう感じるのは自分の考え・読みが正に当たった時だと思う。

次順のツモマンズの8!ならばこのマンズの形は落とさない。ならばピンズだ。赤入りのルールでこれを手放すのは惜しいが・・・ピンズの5切り。ピンズなら9を切れば絞れるのでは?と考える人もいるだろう。ここで僕は七対子で完全に攻める姿勢に出たのだ。端の牌がみんなから出ている状況で同じく端を切っていては必要な牌を奪い合う形になる。今の3対1の状況で運量のない自分が皆と同じ牌を集められるはずがない。それに自分の手の内にピンズの8がトイツである。789のシュンツがまたも作りづらいのは僕自身明白だ。

完全に目が覚めた。門倉プロの「トイツ手に寄せる」と言った意味が分かった気がした。この後字牌の「中」「発」を鳴かれはしたものの、ツモは順調に伸びを見せ・・・

224488(マンズ)8899(ピンズ)南南白という形で七対子の形になった。1000点棒を卓上に突き付け「リーチ」と宣言する。待ちは白の1点。それを1発で引いてきた。点数はリーチ・一発ツモ・チートイ・ドラ二枚で3000.6000(12000)のあがり。逆転トップである。

「あ~あ、そこにダブ南があったか~」「ラス牌の白だよそれ」と脇の2人が手を広げる。最初から彼らの手には南と白のトイツがあり、不用意に最初から切っていたら鳴きが入って勝負は決着していたのである。


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