桜舞い散る
柔らかな風が吹き、ふさふさと揺れ桜の花びらが舞い散る。開けたままにした窓からヒラリと降ってくる。ついこの間まで寒いと感じていたのに、今はもう桜が満開になるほどの暖かさだ。
「頭に花びらがついてますよ」
そう言って彼、クサナギさんはぼくの頭を軽く撫でる。暖かな日差しに眠気を感じてくる。
「眠たいですか?」
「いえ、…大丈夫です。それに…」
まだ起きていたい、そう言うと笑って僕が横になっているベッドの横へ腰掛けた。
穏やかな空間が僕らをつつむ。ここだけ何処か違う世界へ来てしまったようだ。
「綺麗ですね、桜…いい特等席だ」
「そうですね」
そう言いながら僕の頭を撫でてくる。今日はやたらとスキンシップが激しいようだ。
…いや、今日に始まったことではない。
「そうですね、といいながら…あまり嬉しそうな顔ではありませんね」
僕の言葉に頭を撫でていた手が一瞬止まったが、またゆっくりと動き出す。
「えぇ、キミを連れて行こうとするこの桜がワタシは嫌いです」
そんな事を言ってくる彼に苦笑をもらす。
仕方が無い、仕方ないことなのだ。こればかりはどうしようもない。
「僕は…もう十分に生きましたよ」
「ウヅ君、」
卯月、僕の名前。
桜が咲くこの季節が好きな兄さんがつけた名前だ。
「ウヅ君、キミはまだ24じゃないですか。…まだまだこれからじゃないですか…っ!」
顔をしかめて訴える彼に首を振る。まだまだではない、もう、なのだ。
20歳まで生きるのも難しいとされた僕が4年も長く生きられたのだ。これ以上望むことなんてない。
ーーー、いや。
「僕の後を追って死ぬ、なんてことだけはやめてくださいね」
「ッハハ…ほんとキミはヒドイ子ですね」
泣きそうな顔をして微笑む彼に僕も微笑み、
目を閉じたーーー。
2人の間柄は友人であり相棒であり、恋人。
因みにクサナギ30歳、卯月24歳の6歳差。