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幕間1 黒梓-その1-

黒い梓です。イメージを壊したくない方は撤退をお勧めします。

読まなくても、本編には全く影響有りません。

シノと分かれていた間、王都で何があったか、何をやらかしたかと言うお話です。

 あぁ、ムカつくムカつく。

私は、シノに言われてお姫さんの馬車に乗ってる。何ニコニコしてるんだ?この女。

私を勝手にこんな世界に呼び出して、勝手に勇者だとか、私の華の青春をどうしてくれるつもりなんだ?


「あの、勇者様?」

「何?」


 私は、不機嫌に言葉を返す。見るからに高そうなドレスに身を包んで、金髪縦ロールなんて本物初めて見たよ。

私の機嫌の悪さに、姫さんの隣に座っていた騎士だと言う女が睨み返して来るが、なんの驚異も感じない。

何故か解らないが、負ける気がしない。


「勇者様も、あの様な下賤な者の下で暮らすしかなく、きっとお疲れなのですよ」

「下賤な者って、シノの事?」


 今度は、神官だ。私を助けてくれて、生きる術を教えてくれようとしていたシノに対して、なんと言う言い方だろう。


「左様で御座います。こちらの不手際とは言え、誠に申し訳ないと思っております」

「あの人が居なければ、私は死んでた。その恩人にその態度? 何かお礼したの?」


 この神官は、信用ならない。人を階級で判断する類だ。


「あ、あの、勇者様。お怒りはご尤もだと思います。あの者には後で、過分な報奨を与えさせて頂きます」

「私は、一応あんた達に付いて行くだけ。用事が済んだら、すぐにシノの所に戻るわよ。あんた達しつこそうだからね」


 姫さんは神官の言葉を擁護し、何か言いたそうな騎士を手で制する。


「あんた、そんな態度を取るからには、シノより強いのよね? シノは私に勝ったわよ」

「解りました。では、私と試合をして、私が勝てば大人しく姫様に従って頂けますでしょうか?」


「いいわよ。それだけ言うんだから、私が勝ったら今すぐ戻らせて貰うわ」

「そ、それは困ります」


 私の言葉に姫さんが慌てている。神官の女がニヤリと哂ったのを、私は見逃さなかった。

馬車を止めて、適当な平原で、女騎士と対峙する。女騎士は、力は有っても所詮素人だからとか言っている。遠慮は要らないと言う事ね。


「我が名はイザベラ、いざ、参る!」

「知るか!」


 私は、向かってくる槍をシノが買ってくれた刀で叩き斬る。簡単に叩き折れた槍に呆然としている所、私は刀を刀背打ちに持ち替え滅多打ちに叩き込んだ。

女騎士は折れた槍で辛うじて防御するも、その槍ごと私は叩き込む。参ったなんて口にさせない。そんな余裕与えない。八つ当たりだと解ってる。だけど止まらない。

何度目かの打ち込みで吹き飛んだ女騎士に、神官が慌てて駆け寄って治癒魔法を掛けている。もしかしたらあの二人は仲が良いのかも知れない。


「こんな、遣り過ぎですっ!」

「知らないわよ。人を殺せる武器を向けて来られたのなんて初めてだから、必死になっちゃったわ」


「初めてって、初めてでここまで出来るはず有りません。彼女は王宮の中でも上位なのですよ!」

「知らないって言ってるでしょ。私は、世界でも有数の治安国家から、こんな殺伐とした世界に呼び出されたのよ? 生き物なんて殺した事は無いし、そんなもの日常のどこにも無い平和な世界だったのよ? 武器なんて向けられた事なんて無かったの。お解り?」


 これは本当では無い。シノに体験させられている。

だけど治安国家である日本から、こんな生死が身近に有る場所に呼び出したのがこいつ等だと言うのは事実だ。


「魔法を使わなかったのだから感謝しなさい。じゃぁ、帰るわ」

「お、お待ち下さい!あの者の非礼はお詫び致しますので、何卒、何卒!」


「あんたのせいで私は、全裸でこの世界に放り出されたのよ。あんた、私に謝る気があるなら、全裸で土下座しなさいよ」

「土下座とは、どの様な物でしょうか?」


「地面に座って、頭を地面に擦り付けるのよ」

「わ、解りました」


 姫さんは、その場で着ている物を脱いで行く。この世界の下着も結構お洒落なんだ。あれは絹かな? と私は姫さんが裸になるのを眺めていた。

兵士達は、何を考えているのか近寄って来ない。近寄ってきたら魔法をぶっぱなそうと思っていたのだけど、その機会は無い様だ。

私より胸が大きいのもムカつく。染み一つない透き通る様な白い肌もムカつく。スタイルが良すぎなのがムカつく。


「こ、これで、宜しいでしょうか?」

「こうするのよ」


 私は、姫さんの膝を折り曲げ背中を踏み、髪の毛を掴んで土に付け土下座の姿勢を取らせた。

剣道部に入った一年の時に、私も生意気だと上級生の先輩達に同じ事をされた。あの時は、その後竹刀で何発かお尻や背中を叩かれた。

その後もなんか変な趣味の先輩が、ってあれは黒歴史だ、封印封印。竹刀が無いのが残念だ。


「こ、これでお許し戴けますでしょうか?」

「あんた、羞恥心とか、プライドとか無いの?まぁ、良いわ。そこまでしたんだから、王さんには逢ってあげるわ」


 プルプルと震えて居る姫さんに言葉の刃を投げつける。羞恥心もプライドも無い訳が無い。寧ろ高い方だろう。

この娘はこの娘なりに、私に誠意を見せようとしているのだろうと思えた。だからと言ってそれで許せる物でもないが、ここまでされれば溜飲も少しは下がる。汲んでやるのは吝かではない。


「あ、有難う御座います」

「後、シノにも、その格好で土下座して貰おうかしら」


「勇者様が、それをお望みであれば」

「ふ~ん、まぁ、あんたのこれからの態度次第で考えておくわ」


 女騎士は治癒魔法を掛けても重症で、起き上がる事は出来ないらしい。後ろの馬車の荷台で寝ているそうだ。

あれから神官は、私と目を合わせようとしないが仲良くなりたいわけでもないし、成れるとも思わないので私も無視しておく。




 私達は、それ以後必要以上には何も話さないまま、2日間の旅を経て王都へと着いた。

その間にも色々と有った。嫌な味をする物は食べないで居たら姫さんが食べてくれと言うので、神官に無理矢理食べさせたら神官は眠ってしまった。

それを見た姫さんは驚いた顔をして、料理を持って来た者を問い詰めていたが知ったこっちゃない。私のこいつ等に対する評価は、既に最底辺なのだ。


 王都へ着いた私達は、休む間もなく、諸葛の間とか言う場所に通された。


「武装をお解き下さい」

「断るわ」


「でしたら、ここから先通す訳には参りません」

「別に構わないわよ。私が来たくて来てるんじゃないし」


 本当にイライラする。そんな私を見て姫さんは頷き、その兵士は私を睨み付けて諸葛の間への扉を開く。こいつの顔も覚えた。

部屋の中には、赤い絨毯が伸びている。最奥の何段か上になった所に偉そうに座っているのが、きっと王さんなのだろう。

趣味の悪い王冠を被っている。その横に居るのは、后と王子?年寄りは宰相と言う所か。


 私は、姫さんと一緒に進み姫さんが止まった所で止まる。姫さんが膝を付いて臣下の礼みたいな格好をしているが、同じ格好をする気は無い。

周りに居る者達が、ガヤガヤと小声で話し始めるが知ったこっちゃない。


「静まれ! 其方が、勇者か?」

「そんな者に成った覚えは無いわ」


「む、ミラ」

「間違いなく、私が召喚した勇者様です」


「そうか其方は、我が娘のミラに勇者として召喚されたのだ。我が国の為に働きを期待しておる」

「勝手に召喚しておいて、なに巫山戯た事言ってるのよ。今すぐ還して頂戴!」


「それは出来ん。そうだな確かに勝手に召喚したが、侘びと言う訳では無いがこれを与えよう。勇者の装備だ。それで魔王を倒し我が国を救ってくれたなら、思うままの褒美を与える」

「だから、そんな物は要らないって言ってるでしょ? 今すぐ還しなさいよ!」


 私が反論しているのを無視して、王さんが言った装備が運び込まれて来る。

その装備は煌びやかで、確かに勇者の装備と言っても差し支えないのだろうが、凄く嫌な感じがする。


「まずは、その装備を付けて見てくれんか。勇者が装備すれば絶大なる力を与えてくれると、我が家に伝わる家宝だ」

「断るわ」


 私は、シノから貰った刀で、その装備を斬る。殆ど力も入れていないのに、簡単に刃が通る。

縦横無尽に刀を振るうと、その装備は剣も鎧も粉々に崩れ落ちた。


「なっ!馬鹿な!」

「何これ?こんなのが家宝?私を馬鹿にしているの?」


 召喚されてすぐだったら、私も騙されていたかも知れない。勇者と言う言葉に浮かれて、この装備を嬉々として装備し魔王討伐に行くと宣言していたかも知れない。

でも私は知ってしまった。殺されるかも知れない恐怖を知ってしまった。ここは現実だと知ってしまった。ゲームや漫画やラノベの世界じゃない。

シノが現実を見せてくれた。この境遇が、身勝手な人間の身勝手な行動の結果だと知ってしまった。

もう、逢えないのだ。優しいお母さんやお父さん、厳しい先輩にも可愛い後輩にも。仲の良かった友達にも、好きだったかも知れない人にも。


「魔王なんかの前に、身勝手なお前達を討伐してやろうか?」


 私は、刀で指し王さんを睨み付ける。眼から涙が溢れる。私の青春を、人生を奪った張本人達に対し、憎悪が渦巻く。


「お怒りをお鎮め下さい。勇者様!」


 私の腰に纏わり付く姫さん。彼女も必死な様子だ。なんとなく変な時代劇みたいな物を想像してしまい、私の勢いも削がれてしまった。

刀を鞘に戻し、私は、踵を返す。


「帰る」

「待て!」


 諸葛の間を出ようとする私を、入る時に文句を言っていた兵士が、槍を構えて止める。鬱陶しい。

私は、手をひと振りして、雷の魔法を落とす。死には、しないだろう威力だが、死んでも構わない。

「ぎゃー!」と声を上げて倒れる兵士に、何の感慨も湧かない。ブスブスと所々煙が出ている。


「お待ち下さい、勇者様!」


 追い掛けてくる姫さんの説得により、今日は城に泊まって行く事になった。そう言えばお金も持ってないし、帰る方法も解らない。

シノに逢いたい。誰も信用出来ない。皆、敵に見える。こんな世界の事なんか知らない。還りたい。助けて、シノ。




 案内された部屋は、煌びやかな部屋だった。ベッドには天蓋が有る。どこのラブホテルだと思ったが、部屋の装飾がやけに子供っぽい。

ぬいぐるみや人形なんかも飾られているし、色使いがどう見ても女の子の部屋だ。私の趣味じゃないけど。


「ここは?」

「申し訳有りません。お部屋の用意が出来ておりませんでしたので、ここは私の部屋なのです」


「あんたの?」

「ミラとお呼び下さい」


 なんで顔を赤くするんだろ? 成程、確かに姫さんの部屋だと言われれば納得が行く。


「別に一晩泊まるだけなんだから、何処でも良かったのに」

「その事なのですが…」


 私より年上だと思うのだが、ビクビクしている。あれだけの事をされて、まだ私に係わろうと言うのだから大した物だ。

それだけ、責任感が強いのか、後が無いのか。


「で? この後、勇者お披露目パーティが有って、随行者の選別が有って、決まったら旅に出ろと?」

「はい。申し訳有りませんが、勇者様召喚前に予定は決められておりまして」


 身勝手なのは解っていたが既にスケジュールが決められていて、私は、その随行者の選別に係わらないとならないらしい。

勝手に向こうで決めても良いらしいが、一度は顔を見せてくれと言う事だ。


「私は、行かないわよ。シノの所に帰る。その魔王討伐したいって集まってる連中で行けば良いじゃない」

「勇者様と一緒にと集まっておりますので、それは無理かと」


「誰か一人、勇者に祭り上げれば良いじゃん。私にしたみたいに」

「流石に勇者様程のお力を持つ者は、居りませんので」


「知らないわよ。シノが行くって言うなら行っても良いけど」

「畏まりました。千年に一人と言われた魔法使いであるグランサール家のご息女、ベルニカ=グランサール様が参加を表明しており、迎えに行く事になっております」


「それは迎えに行くんだ。随分偉い人なのね」

「グランサールは、勇者様が居た街の名前です。その時に、そのシノと言う方もお誘いする事が出来るかと」


「シノが行かないなら、行かないわよ? それで良いなら、それまで付き合ってあげるわ」

「畏まりました」


 なんか丸め込まれた気がするが、駄々を捏ねてばかりでも状況は進展しない。少なくともシノの所までは、これで行ける事は確定した。

下手に暴れて、犯罪者扱いされても適わない。私は、暫く姫さんの言葉に乗る事にした。




 勇者お披露目パーティは、中止にさせた。やったなら、諸葛の間で言った事と同じ事を言ってやると言ったら、私が体調不良という事にして中止したらしい。

用意していた食事が無駄になると言うので、城で働いている人達に食べさせてやれば良いだろうと言った為か、侍女達の態度が凄く良くなったのは僥倖だった。


 私は、姫さんの部屋でそのまま滞在する事になり、寝る時も姫さんと一緒だ。お陰で、姫さんから肌触りの良い下着を沢山貰える事になった。

これは、少し嬉しい。街ではスポーツブラみたいなのと、ババパンツみたいなのしか無かったのだ。

ブラのサイズが大きいのは、姫さんの胸を風呂場で、気が済むまで揉んで堪能したから許してやることにした。

「だ、駄目です。勇者様」「良いではないか、良いではないかぁ~」と楽しませて貰った。なんか部活動を思い出してちょっとホロッとする。


「これが集まって来た全員?」

「はい、自薦他薦全てで御座います」


「後は、ベルちゃんだけって事ね」

「それでも、お逢いして断る事も可能です」


 ベルちゃんて言うのは、迎えに行く事になっている娘だが何か凄い訳ありらしい。真偽眼とか言うのを持っていて一族でも外に出して貰えず、ずっと領地の城で暮らして居るそうなのだが、この魔王討伐には参加させたいと言う事らしい。

そんな眼を持ってる娘を私の陣営に入れるって、自分達に疾しい事は無いって言う意思表明かしら。


「なんで、その娘だけ迎えに行く事になっているの?」

「なんでも、今、自領地に魔物が住み着いているらしく、それを討伐してから参加されると言う事で、道すがら拾ってくれと言う事でした」


「ふぅ~ん。ん?」

「如何なされました?」


「あの、槍を持ってる娘と、あの神官? みたいな格好をしている娘に会いたいわ」

「畏まりました。その様に手配致します」


 何かビビビッと来た。その二人だけ、仄かに輝いて見えたのだ。それがどう言う意味か、確認するためだけに会って見るつもりだった。


「リン=アンブレア、王国騎士を務めておりました」

「ターニアです。神官として、聖域で修行しておりました」


 二人共、胸が大きい。なんか自己嫌悪。

片や露出過多なぐらいのビキニアーマーとでも言う奴? 片や、顔しか出てないと言う対照的な二人だが、ここが異世界だから? なんで皆スタイル良いのよ。


「で、二人共、魔王倒しに行きたいの?」


「私は、勇者殿をお護りするのが使命と天啓を受けました」

「私も、勇者様の力となるようにとの天啓を受けました」


「天啓って何?」


「我が種族に伝わる竜神様からの言葉です」

「聖域での修行中に、天からのお言葉を授かりました」


「魔王討伐が目的と言う訳では無いのね?」


「はい、勇者殿の盾となる事、勇者殿が何を成されようと、そこに違いは御座いません。勿論魔王討伐を行なうと言うなら、この身を以てお護り致します」

「私も、同様です」


「それで、見た事も無い私に仕えるの?」


「一目見て確信致しました。勇者殿こそ、我が一生を賭けても仕える方と」

「勇者様からは、並々ならぬ力を感じます。私自身、勇者様のお力になりたいと感じました」


「なんか、照れるわね。それで、二人は何が出来るの?一応見た感じは解るのだけど」

「勇者殿には、お見せしておきましょう、我が力を」


 そう言ってリンは、青い闘気を纏い出した。流石ファンタジーと私は楽観的に見ていたのだが、ミラも神官さんも目を見開いている。

結構珍しい物なのだろうか。闘気が消えた所には、青い甲冑に身を包んだ騎士が居た。何の戦隊物? 特撮かと思った。


「まさか、竜騎士。実在していたのですか」

「これは、私も初めて見ますわ」


 二人は酷く驚いているから、かなりレアって事ね。


「ふ~ん、凄いんだね。で、貴女は」

「私は、エリアヒール以外の治癒魔法を習得済です」


「エリアヒールって難しいの?」

「粗、全能の治癒魔法で、今使える者は存在しないと聞いております」


 ミラが私の質問に答えてくれたが、凄さが解らない。


「エリアヒール以外って、フルヒールが使えると言う事ですか?」

「はい、1日に1回程度なら」


 ミラが更に質問を重ね、その答えに驚いている。貴女お姫さんなんだから、もう少し落ち着きなさいな。


「それって凄いの? ミラ」

「はい、欠損箇所さえ治癒出来る万能魔法です」


「二人共凄いのね。私の目に狂いは無かったってことかな?」

「流石、勇者様です」


「そう、後は、裸の付き合い、寝る時は一緒。これ大丈夫?」


「それは、光栄の至り」

「す、少し恥ずかしいですが、それが条件と言うのであれば、否は有りません」


「解った。ミラ、この二人にする」

「畏まりました」


 これで随行者も決まったので、後はベルちゃんを迎えに行くだけだ。

私の決定に不満が有ったのか、城の中を歩いている時に待ち伏せを食らった。


「なぁ勇者さん、俺お買い得だぜ?」

「貴男、私より強いの?」


「おぉギルドじゃ、結構有名なんだぜ」

「そう」


 取り敢えず、近寄り過ぎるので、股間に膝蹴りを入れておいてやる。「ぐぎゃっ」とかなんとか、意味不明な悲鳴を上げたが、知ったこっちゃない。


「貴男見たいな人、結構居そうね」


 そして、私は、ミラに通達を出して貰う事にした。不満が有る者は、私と戦って、私より強いと知らしめたら、連れて行くと。

そしたら、集まる集まる。男ばっかりだけど。100人は居るかな?見物人は、女の子の方が多い。

あまり顔に興味は無いのだけど、こう言う時ってイケメンが居ないのは、お約束かしら。


「勇者様、これで全員だと思われます」

「そ、じゃぁ、開始の合図を」


「おいおい、俺等全員と相手するつもりか?」

「相手と言うか、お仕置きね。私を護るのに私との対戦を望む自体、本末転倒だと知りなさい」


「はん、勇者様だか何だか知らないが、その鼻っ柱へし折ってやるぜ」

「出来てから言いなさい」


 ミラの開始の合図と共に、私は、静かに「雷電」と呟く。それだけで私に向かってくる全員に雷が落ち、戦闘不能となった。

見物人は唖然としている。心配していた見物席から乱入して来る様な者も居なかったので、私は、その場を後にする。

リンもターニャも唖然としているが、ミラは、そろそろ慣れた様子だ。

シノにも通じるかな? 何となくだけど、シノには防がれる気がする。




 準備が出来るまで、2~3日掛かると言う事だが、それぐらいは構わないだろう。一刻も早く行きたい私は城の中で乗馬をしているのを見掛け、馬の乗り方を教えて貰う事にした。

シノを驚かせてやろうと言うのと、馬を借りて皆を振り切って向かおうと言う、二つの思いからだ。


乗馬は結構楽しかった。普段より高い位置から見下ろす感じが、最初は怖かったけどすぐに慣れ、気持ち良く感じる様になった。

ほんの半日で乗れる様になった私を、教えてくれたジェームズおじさんは驚いていたけど、素質よ素質。

そこで、私は驚愕の事実を知った。馬に乗る時に下着が見える事を恥ずかしがったら、ジェームズおじさんに変な顔をされたのだ。


「だって、下着ってぇのは、女が馬に乗りたいから発明したんじゃぁないか」

「え? そうだったの?」


 そう言えばズロースとかは、その用途で開発されたと聞いた事が有る。しかし、今履いているのは、あんなにズボンみたいな物じゃない。

まぁ、実際、下着が見られたからと言って騒ぐ程の事は無いのだが、そこは恥ずかしがると言う態度が大事と言う物だと思ってる。

羞恥心を失くしたら、それはもう乙女では無く、おばさんだろう。


「ま、どうしても見せたくないなら、ズボンを履けば良いだろ?」

「そこは、可愛い物を着たい乙女心って奴よ」


「俺みたいなおじさんには、解らない感覚だな」

「そう言うのが解るとモテる様になるわよ」


 でも、シノも同じ感覚かも知れないな。確かに私の下着姿じゃ、襲ってこなかったし。でもあの時の下着より今の方が可愛いんだけど、これは作戦を考える必要があるわね。


 乗馬の練習をしている時に、なんかチャラ男みたいなのが寄って来たけど、雷一発落としておいてやった。

最近では、加減を覚えてショックで気絶する程度の力加減と言うのも解って来た。


 ミラの話では、魔王討伐と言っても、魔王の事は何も解っていないらしい。

古の、それも言い伝えレベルで、昔、勇者と呼ばれる者が魔王を倒して、この大陸を人の大陸としたと言う事だ。

大陸の南の方、ここからは西の方に魔界と呼ばれる島が有ってそこに魔族が住んでおり、この大陸の中央の南の端にそこと行き来出来る魔族領が有ると言う事なので、そこを目指すらしい。


 魔族が魔物を使役しているらしく、魔族が居なくなれば魔物も居なくなると信じられているそうな。本当かな?

要は、この大陸から魔物を居なくしたいらしい。だから、魔族領?ってところから魔族を追い出すだけでも良いと言う事だけど、釈然としない。

そもそも魔族って何なのかしら? 猫耳やエルフみたいなのも居るらしいし、どっからが魔族? って聞いたら、人を糧としているのが魔族だと返ってきた。

そのまま人を食べる種族や人の精を食べたり、血を吸ったりするのが居るそうだ。血を吸うって吸血鬼じゃん。


 城に居る間は、良い食事を出してくれているのだろうが、あんまり美味しいとは思わない。どうも大雑把な味付けと言うか、外国で食べて居る感じだ。

醤油が恋しいぜ。スイーツは結構イケてる。特にケーキ関係が豊富だ。チョコが無いのが少し寂しいが、同じくらい甘いのは沢山有る。

モンブランと全く同じケーキも有った。これはお気に入りだ。フルーツパンケーキとかは、私が知っている物より美味しいかも知れない。

きっと知らないフルーツが入っているんだと思う。良い薫りは果実酒かな。うん、甘味は乙女のパワーの源だよね。


 ターニャはターニャって呼ばれるのが嫌みたい。なんでかな、可愛くて良いじゃんね。


「ねぇ、ターニャの事、もっと教えて」

「ターニアです。私の事ですか?面白い話は、ないですよ?」


「ねぇねぇ、ターニャってさ、精霊って使える?」

「精霊ですか?その、エルフは使えると聞いた事が有りますが、私は、使えません」


 やっぱり精霊が使えるってのは、変態なんだ。シノが使える事は、黙っておいた方が良いみたい。

言えば、もっと積極的に誘ってくれるかと思ったけど、シノも秘密って言ってたしね。


「エルフかぁ、耳尖ってるの?」

「はい。それが、エルフの特徴ですね」


 ん? なんだろ? なんかターニャが哀しそうな顔をした気がした。


「やっぱり、普通のエルフは貧乳で、ダークエルフはボインボイン?」

「なんですかそれは、誰の知識ですか。エルフは、総じて美形でスタイルも良いですよ」


「えぇ~、ターニャだってスタイル良いじゃん」

「私なんて、太っているだけです」


「いや、ターニャ、それ世間の女をかなり敵に回すよ?」

「私からすれば、勇者様や姫様のスタイルの方が羨ましいです」


「まぁ、無いもの強請りは、世の女の常だけどね」

「勇者様でも、まだ欲しい物がお有りなのですか?」


「そりゃ、色々有るわよ。胸も欲しいし、細い腰も欲しいし、男も欲しいし」

「男!勇者様!」


「な、何?」

「男なんて、粗野で乱暴で野蛮な人種です」


「ターニャって男嫌い?」

「いえ、そう言われて育ちました」


 平然と言い放つターニャ。面白い、この娘面白過ぎるよ。

当然ながら、リンやターニャとも一緒にお風呂に入って、堪能しましたよ。リンがバコンバコンって感じで、ターニャがタユンタユンって感じ。ミラがプリンプリンって感じかな。

だけど皆、腰が高くて細いんだよ。不公平だよ、理不尽だよ、どうせ私は日本人体型だよ。


 そして寝る前は、ガールズトーク。これだよ、これ。

実は、ミラには好きな人が居たそうだが、当の昔に諦めたそうだ。自分は、政略結婚でどこかの貴族か、隣国に嫁ぐのだろうと思っていたそうだ。

それが嫌で勇者召喚なんてやらかしてくれたらしい。物凄く謝られたけど、なんと言えば良いか傍迷惑な話だが、流石に2週間近く一緒に寝食を共にしていると情も沸くと言う物だ。


 リンは、武道一筋だったと言う事だ。希少種と言う事で、人知れず伝承を護って生きて来たらしい。竜装備と言うあの技は、今では使える者が本当に少数だと言う事だ。

あの状態では、飛躍的に筋力やスピード等が向上すると言う事だった。うん、特撮物そのものだ。


 ターニャは、ずっと聖域に居た為、異性について意識した事は無かったそうだ。神託を聞く事だけを望んでいて、天啓を受けた時は生きていて良かったと思ったらしい。

あまり語らないけど、この娘も何か有るんだろう。そのうち教えてくれるかな。


 なんか、ずっと修学旅行みたいで、楽しんでた。と言うか、そうして自分を誤魔化していたんだ。

そうでもしないと寂しくて、悲しくて、辛くてやってられなかった。


 朝、目覚めるとミラに抱きしめられて居る事が多かった。夜中に魘されて居るらしい。

「その原因は、お前だぁ~っ!」と、朝からミラの胸を揉むのが、結構日課になりつつある。


 今日は、旅立の日だ。漸くシノに逢いに行ける。結局ミラ以外の王族も貴族も、初日以来顔を見せなかった。別に構わないけど、そんな小心者で務まるのかしら。


「ねぇ、ミラ?」

「はい、なんでしょう、勇者様」


「あんたの家族って大丈夫?あれから一回も見てないんだけど」

「そうですよね。父にも困った物です。少々お待ちになって居て下さいませ」


 そう言って、ミラはその場を離れ、私は、ジェームスさんにどれが一番速い馬か聞いていた。

15分程すると、ミラが王さんその他を連れてくる。なんか、后と王子に支えられてるよ、王さん大丈夫か?


「勇者様、父が一言謝罪したいと申しますので、どうかお聞き願えますか?」

「いいけど」


「その、済まなかった、其方の都合を考えなかった事を、謝罪する」

「そう、良かったわね、良い娘を持って。あんたから一言の謝罪もなかったら、この国潰すつもりだったから」


「なっ!」

「まぁ、良いわ、私達の旅に万全の援助を受けれると思って良いのよね?」


「それは、心配要らない」

「裏切ったら許さないわよ」


「わ、解っている」

「いいわ。でも魔王が倒せるなんて期待しないでね。貴方達、何にも情報が無いんだもの」


「それも解っている」

「そ、じゃ、良いわ」


「許して貰えるのかね」

「馬っ鹿じゃないの? 許す訳ないでしょ。精々利用してあげるわ」


「ゆ、勇者様!」

「何?」


 あら? 初めて声を聞くけど結構高い声だ。若かったのかしら? あれ? そう言えばミラって第二王女って、まさか第一王女? 王子じゃなくて?

良かった。唯一のイケメンかと思ってた。


「私からも謝罪させて頂きます。父をお許し下さいとは言いません。ですが、我々は出来る限りの援助はさせて頂きますので、何卒」

「そう、解ったわ」


「ご武運を」

「ご武運を」


 后さんも焦燥してるわね。まぁ蝶よ花よと暮らして来たのでしょう。私も人の事は言えないけど。


「じゃぁ、行くわ。ハイヨッ!」

「ちょ、ちょっとお待ちを。勇者様!私達も急ぎますよ」


「勇者様~っ!」

「勇者殿~っ!」


「飛ばすわよ!付いてらっしゃい!」

「「はいっ!」」


「急いで、追い掛けなさい!」

「姫様~っ!」


 こうして私達は、シノの居る街へと向かった。

私の駆る馬を、リンとターニャが追いかけて来る。2~3日で覚えた私の操馬なんかよりは、遥かに上手だろうから付いて来るのは簡単だろう。

ミラは、馬車に乗って御者の人に急げと言ってる様だ。


 シノ、待ってて。すぐ行くよ。私は、パンツが見えるのも構わず馬を疾走させて行くのだった。


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