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第四話 結局、同行する優柔不断な俺が居る

 今日も、宿屋の借りている部屋に陽が差し込まれ、俺は気怠い朝を迎えたのだが、身体が動かない。と言うか、何だこれ?

俺の身体には、梓とベルが抱きついてるし、ツインのもう一つのベッドには、神官と騎士と姫さんまで寝ている。

しかも、こいつら羞恥心ってものが無いのか殆ど裸、じゃなくて裸同然の下着姿だ。

ルナ、何で起こさなかった? と言うか、態と俺の眠りを深くして起きない様にしやがったな。

理由は、解ってる。「面白いから」これ以外に無い。


 落ち着け俺。ここで慌てたら、男としての威厳が無くなってしまう。

俺は、ゆっくりと深呼吸をして、昨夜の事を思い出す。




 昨夜は、元の部屋では手狭になってしまい、皆を追い出して俺は一人になろうとしたのだが、見逃して貰えなかった。

この宿で最高級の部屋だとマスターが言っていた部屋に、俺は閉じ込められている。

確かに6人が入っても、この部屋なら圧迫感を感じないだけの広さは有る。

広さは有るのだが、俺は全員の視線に圧迫感を感じていた。特に梓の機嫌が悪い。


「望みは、何ですか?」

「平穏な生活」


「そもそも、貴男は冒険者では無いのですか? 平穏な生活を望むなら定職に付くべきですよ」

「根無し草でね。定職以前に定住出来ないんだよ」


「ならば、勇者様と旅を共にしても問題無いのでは、有りませんか?」

「魔王討伐なんて御免だね。そもそも魔王って誰?」


 姫さんとの問答にも飽きてきて、俺は一つ爆弾を落とす事にした。


「魔王は、魔王ですよ」

「なぁベル? お前聞いてたよな?」


「何?」

「ラビアンが魔王が一人、アスモデウスの娘だって」


「聞いた」

「つまり、魔王と呼ばれるのは一人じゃないって事だ」


「「「なんですって!!」」」


 全員でハモリやがった。耳がキーンと鳴っている。あ、ベルも俺と同じで耳を抑えてる。

こう言うのって、言った本人には影響無いのだろうか?


「そんな事も知らないで、魔王討伐とか、情報不足、調査不足、見切り発射も甚だしい。一体何をどうするつもりなんだ?」

「それは、魔界に行って、逐次情報を集めて、臨機応変に対応する予定なのです」


「そんなの、軍でやれよ。どう見てもプロパガンダだろ。数人のパーティ如きで、魔族と全面戦争して勝てると思ってるのか?」

「ま、魔王さえ倒せば、魔族の侵攻はなくなり、魔物も居なくなるのです」


「誰がそんな事言った? そもそも、王様が死んだら国が無くなるのか? 次の王が決まるだけだろ。魔王だって同じじゃないのか? 魔王を倒して、はい御終いじゃないだろ。仮に魔王を倒して終わったとして、その後どうするんだ? 魔王を倒した程強大な力を、お前達は放って置くのか?」

「魔王を倒したら、英雄として、望むままの報奨を与えます」


「他の国は? 戦争が起こったら、今度は人を相手に戦えって言うんだろ?」

「そ、それは………」


「ぐちゃぐちゃと言い訳して、結局魔王が怖いだけの腰抜けだろ!」

「脳筋は黙ってろ!」


「の、脳筋………」

「シノ?」


「何だよ」

「思ったより、頭良かったんだね」


 いや、そこでニッコリ微笑んで、可愛いじゃないか。って、空気読めよ。

今、緊迫してるよね? 俺、良い事言ってるよね? しかも思ったよりって、台無しじゃないかよ。


「それでも………」

「ん?」


「それでも、私は魔王討伐に行かなければ、ならないのです。勇者様を召喚してしまった私には、他に道は無いのです」

「だから、勝手に行けばいいだろ。俺を巻き込むなよ」


「勇者様が」

「は?」


「勇者様が、貴男がパーティに入らないと、行かないと仰るので」

「はい?」


 頭痛がしてきた。普段なら、ここまで暴言を吐く事は無いのだが、ベルの一件で、まだグランサールの爺に対する怒りが収まっていなかったのも手伝って、言いたい事が次々と口から出てしまった。

涙眼になっている姫さんを見て、ちょっとやらかしてしまったかと、後悔が湧き上がって来るが、懐柔、恫喝、泣き落としと、常套手段だな。


「なぁ、梓」

「何かな?」


「何で俺なんだよ」

「えぇ~、そんなのこんな大勢の人前で言うなんて、恥ずかしいよ。なんの羞恥プレイ?」


 久しぶりに、こいつの頭をかち割って中身を見てみたい衝動に駆られた。

両手で頬を抑えてプルプルと、可愛い仕草をしているつもりなのだろうが、セリフが棒読みだ。


「本気で、魔王を倒しに行くのか?」

「それは、解んないよ。魔界には行くけどね。魔王ってのも会ってみないと解らないじゃん」


「会ってくれると思ってるのか」

「それも、行ってみないと解らないじゃん。どっちにしても片方の話だけしか聞いてないからね」


 まぁ、無条件に魔族を滅ぼそうと考えている訳では無いようだ。しかし、二人なら良いんだが、どう考えても他はお荷物にしか思えない。

梓と二人なら、冒険者稼業をのらりくらりと続けるのも吝かでは無いのだが、こいつらが一緒に旅をするって事になると、梓との関係進展も危うく感じる。

このまま勝手に行ってくれれば良かったのに、なまじ逢ってしまったから、俺にも欲望がムクムクと湧いてきて、判断が鈍る。

と言うか、物語でも有るまいし、1パーティが魔王討伐なんて、死にに行く様なもんだ。

奴等にも社会は有るし、軍隊だって持っているのだ。確かに梓なら1国ぐらい滅ぼしそうだが、それは単なる虐殺だ。


「姫さん」

「はい」


「給料は出るのか?」

「は、はい。月金貨1枚で如何でしょう?勿論、魔王討伐後の報奨は別です」


 沈み込んだ顔を、急に明るく希望に満ちた顔に変えて来た姫さん。そんなに嬉しいのか?

月100000。普通に生きていく上なら悪くない稼ぎだが、生活費を考えると俺の場合、冒険者をやっていた方が稼ぎが良い。

それに、魔王討伐なんて物に無理矢理行かせるにしては、少ないぐらいだと感じる。


「旅を続けますので、住む所は保証出来ませんが、食費や衣類、武装についてもこちらで全額持たせて頂きます」


 俺が黙っていたので、足らないと思ったのか、姫さんが他の条件を追加してきた。

元々、そう言う話だったのだろうが、装備に付いても俺の場合、必要無いに等しい。


「討伐部位とか装備品とかは、こっちで勝手に金にして良いのか?」

「それは纏めて買い取らせて頂きます。数が多い戦いになれば、こちらで人を呼んで引き取らせますので、置いてこなければ行けないなんて事もないですよ」


 それは、良いかも知れない。何時も勿体無いとは思いながらも結構捨てて来てるからな。


「ま、良いか、それで手を打とう」

「ほ、本当ですか?」


「但し、付いて行くだけだから、軍行動なんかには参加しないし、魔王討伐なんて無理だと解ったら即引き返すぞ」

「は、はい。それで構いません」


 構わないのかよ。魔王討伐に遠征したと言う事実が必要って事だな。

王家と言うのも大変だ。多分、魔王討伐なんて大義を打ち出さないと、民衆の人気取りも出来ないと言う事だろう。

そんな事しか考えが浮かばない事が問題だと、気付かないのが問題なんだがな。

言いたい事を言ったせいか、俺のテンションも下がってきていて面倒になり、同行することに合意してしまった。


「じゃぁ、俺は、部屋に戻るわ」


 そう言って俺は、その無駄に広い部屋を後にする。リンだっけが未だにブツブツと「脳筋、脳筋」と呟いているが、見なかった事にしよう。

俺は、元の部屋に戻り、剣を枕元に立てかけると、ベッドに寝転がった。疲れた。後の事は、明日考えよう。




 そう思っている内に、寝てしまった事は、思い出した。

つまり、俺は、こいつらの言う荒唐無稽な話に、梓が可愛いからと言う理由だけで乗ったと言う事だ。

いや、もう面倒だから諦めたと言う所も多分にあるのだが、少々自己嫌悪に陥る。

しかし、これをどうするか。こっちは貧乳組、あっちは爆乳組って感じだ。じゃなくって、俺は、ゆっくりと自分の腕から二人の頭を降ろしベッドから抜け出る。

取り敢えず顔でも洗って、朝飯を食べる事にしよう。マスターの豆茶を飲めば、頭も冴えて来るだろう。


「なぁ、シノ? 何か雰囲気が悪いんだが」

「奇遇だな。俺もそう思ってた」


 マスターが俺の横で立っている厳い騎士を見て、嫌そうな顔を隠しもしないのだが、騎士の方もどこ吹く風と平然としている。

俺が部屋を出た所で、この厳い騎士に「何処に行くつもりだ」と止められ、


「いや、朝飯食いに行くだけだけど」

「貴様を逃がすなと言われている」


「ご苦労様。別に逃げ出しやしないよ」

「信用ならん。俺が付いて行く」


 と言う様な遣り取りが有り、今に至るのだが、おれが朝飯を食べている間、ずっと隣に張り付いているのだ。


「あんた飯は?」

「まだだ」


「序でに食べれば?」

「後で交代したなら食べるから心配いらん」


 と言う調子で、周りの泊り客も、なんか居辛そうにしている。


「店に迷惑だろ?」

「貴様が、さっさと食べれば済む事だ」


「なぁ、あんたさ、魔王討伐ってどう思う?」

「我々は、姫様の護衛だ」


「つまり?」

「姫様が何を成され様と、姫様の護衛だと言う事だ」


 主が何をしようと関知しない、自分の仕事は主を護る事。良く言えば忠誠心溢れる家臣、悪く言えば視野狭窄って処か。

俺がゆっくりと豆茶を飲んでいると、ドタドタと騒がしい音を立てて数名が食堂に入って来る。


「ちょっとシノ!起こしてくれても良いんじゃない?マスター!私も朝御飯頂戴!」

「あいよ!」


 マスター、何故普通に接する事が出来る?ちょっと尊敬してしまうよ。


「シノ、おはよう」

「あぁ、おはよう」


 こいつもマイペースだが、まぁ、可愛いから許そう。ベルが俺の横に座り、テーブルの上に有る俺の食事跡を見て居るので、マスターにベルの分も頼んでやる。

神官と騎士と姫さんは、後ろのテーブルに座った様だ。カウンターの俺の周りに座られるよりは良いのだが、後ろから変な視線を感じる。

漸く俺に張り付いてた騎士が、姫さんに何か言われて下がっていく。やっと店の雰囲気が良くなった。いや美女が増えたから華やかになったか。


「で、今日、出発するのか?」

「う~ん、どうしようかなぁ? ベルちゃんちの近くの森の話も気になるんだけど。私が最初居た森ってどうなった?」


「あれから、特に何も聞いてないな」

「じゃぁ、ベルちゃんちの森も心配ないかな?」


「何時までって保証出来る訳じゃないけど、今日明日でどうなるもんでも無いだろ」

「そっか。ねぇミラ? この後ってどうするの?」


 梓は、後ろに振り向き姫さんに確認を取る。って、え?


「おい、まさか旅って姫さんも一緒なのか?」

「そうだよ?」


「おいっ! 貴様っ!」

「てことは、あのムサい護衛も一緒なのか?」


 リンと言う女が何か言って居るが無視する。


「そうだよ?」

「おいっ! 無視するなっ!」


 リンが俺の肩に掴み掛かって来たので、その手を捻り足を引っ掛けて転ばし、腹の上に足を乗せて押さえ付けてやる。


「なんだ? 脳筋」

「私は、脳筋では無いっ! 私と勝負しろっ!」


 俺の足に押さえ付けられてもがいて居る癖に、なんでこんな言葉が出て来るのか。そこが脳筋クオリティーか?


「なんで勝負なんてしなきゃ行けないんだよ?」

「貴様の強さを知っていないと、連携等の時に困るだろ!」


 まぁ、確かにそうかも知れないが、その確認方法が、何故勝負って事になるのかって聞いているのだが、脳筋には他の方法は思いつかないって事か。

だけど、こいつ何で顔が赤くなってるんだ?あぁ、この状態が恥ずかしいのか。俺は、リンの腹の上から足を離してやる。

賺さず立ち上がったリンは身体の汚れを払ったが、まだ顔を赤くして俺を睨んでいる。


「解った、解った。飯食ったら、裏の広場でいいか?」

「それで構わない」


 そう言ってリンは、姫さん達の席に戻って行く。なんか面倒な奴だ。

梓はニヤニヤ笑ってるし、ベルは我関せずで、豆茶じゃなくてリンゴジュースを飲んでいる。

で、姫さん、この後の予定は話してくれないのかよ。




 宿の裏の広場では手狭だと言う事で、俺達は街の門から外へ出ている。

宿の裏だってちょっとした手合わせをするぐらいなら、充分な広さが有ると思うのだが、こいつは一体何がしたいのか。

相変わらず梓がニヤニヤ笑っている処を見ると、ただの脳筋じゃないのだろうが、面倒な事極まりない。


「ここらで良いか?」

「あぁ、これだけ広ければ充分だ」


 リンは、大盾と槍を持っている。大の男でもこの装備は重くて使いこなせる者は少ないのに、華奢な身体付きの癖に力は有る様だ。

不自然なのは、フルアーマーで無い事だ。通常この装備は、部隊の盾役の為、自らもフルアーマーの重装備で、文字通り敵の攻撃を防ぐ役目が主なはずである。

勝負と言っている事から攻撃がし易い様に軽装にしたのかもしれないが、その為に背は高くとも華奢な身体付きが目立つ。

そして確かに宿屋の裏では狭いと言うのが解る程、かなり離れた距離にリンは対峙していた。


「準備は宜しいですか? 勝敗は、どちらか参ったと言うか、気絶するまで。それでは、始め!」


 おいおい姫さん、無制限一本勝負かよ。俺は、溜息を吐きながら剣を抜いたと同時に、リンは俺目掛けて突っ込んで来た。

お前、盾何のために持って来たんだ? 大盾を自分が居た場所に突き刺して、槍だけで突進してくる。

50メートルは離れていたはずなのに、一瞬で間合いに入られた。このために広い場所か。


 俺は、剣でリンの槍を去なすと、身体を半身にして避ける。リンは、そのまま30メートル程突進したところで反転し、再度突っ込んで来る。

確かに槍は突く物だが、軽装の為か速度が半端じゃない。しかもリンの持ってる槍は、ハルバートと呼ばれる先に斧型の刃まで付いている物だ。


 今度は、去なした槍を反転させて叩き込んでくる。それを真面に受けると力勝負になる。それが面倒だった俺は、屈んでそれをやり過ごしリンの懐へ飛び込んだ。

俺の当身を食らい、リンは10メートル程吹っ飛び尻餅を突く。白い物が見えたが、今は鼻の下を伸ばしている場合では無い。

リンが笑っているのだ。こいつは、もしかしたらバトルジャンキーの類かも知れない。


「ふふふ、思った以上だ」


 立ち上がったリンから、青い闘気が滲み出る。青い髪の毛が逆立ち、青い眼に輝きが浮かび上がる。

その闘気はリンの身体を覆う鱗の様にリンに纏わり付いて行く。


「おいおい、マジかよ。俺も初めて見るぜ」


 そこには、濃紺のフルアーマー姿のリンが居た。頭は横が後ろに羽の様に伸びた甲で顔全体を覆っており、リンの瞳だけが見えている。

肩には角の様な物が有り、肘や膝にも尖った角の様な物が付いている。二の腕に沿って有る刃や、踵から伸びている鎌の様な刃。

伝説級の言い伝えでしか聞いた事が無い、竜騎士がそこに居た。


 青い閃光となって突っ込んで来るリン。最初の突進の比では無い鋭さと力強さを感じる。


「仕方無い、ドン、壁だ」


 俺は、土精霊のドンに目の前に壁を作って貰い、後ろに飛び退く。


「そんな物、壁にもならん。グハッ!」


 軽く土の壁を粉砕したリンは、自分が粉砕した壁の塊を頭に受けて、俺の目の前で倒れ伏した。


「やっぱり、脳筋だな」

「えぇ~と、勝負有り? でしょうか」


 ドンの造った壁は、特別製で上の方に重い金属を乗せている。突っ込んで崩したら、その重い金属、鉛なのだが、それが落ちてくると言う物だ。

錬金しか出来ないドンならではの罠を含んだ土壁である。勿論、上手く相手の上に落ちない場合もあるが、そこは、シルフィが上手くやってくれる。

見て居る者には、土魔法で作られた壁を壊して自爆した様に見える事だろう。


 普通の人間なら死んでしまうので使わないのだが、竜騎士の闘装備なら問題ないだろうと使用したが、軽い脳震盪で済んでいる様だから、やはり竜騎士は頑丈だ。

梓を護ると豪語するのも頷ける。鎧装備が解けたリンを担いで、俺達は宿に戻った。




 宿に戻った俺は、強制的に部屋を移動させられていた。昨夜姫さん達と話をした、あの部屋だ。

ベッドの一つにリンは寝かされている。神官のターニアは、かなり優秀らしいが、梓に千年に一人の魔法使いに竜騎士。こいつも何か有りそうだ。

昼飯を食べて部屋に戻って、俺は姫さんに今後の事を訊ねていた。


「で、姫さん、これからの予定は、どうなってるんだ?」

「ミラとお呼び下さい、シノ様。これから大陸を西に向かい、国境付近の中央聖神殿を経て、南の魔族領へ向かいます。そこから魔界へ向かう予定です」


「魔界っつったって、単なる島だろうが」

「島と言うには大きいと思いますが、全容は我々には解っておりません。ただ、魔族領を通らないと行けないと言うだけで」


「まぁ、魔王が何人居るかも知らなかったんだから、そんなもんか」

「シノ様はご存知なのですか?」


「まぁ、聞いた話じゃ7人だな。他にも居るかも知れないし、居ないかも知れない」

「そんなに」


「ところで、何で姫さんまで付いて来るんだ?」

「私が居ないと、国の援助を円滑に受けれないと思いまして」


「いや、あんたが一緒だと、色々行動が面倒だと思うんだが」

「大丈夫です。皆さんの邪魔に成らない様に付いて行くだけですし、私は私で護衛が居ます」


「まぁ、良いけど、どこまで付いてくるつもりだ?」

「どこまでもです」


「魔界は無理じゃないかな?」

「いえ、それが私の使命です」


 これは、また厄介なお姫様だ。周り敵だけのはずの土地で、大丈夫と言い切れる自信は何処から来るのやら。

しかし、聞けば聞く程、無計画過ぎる。魔界と呼ばれる所と交易が無いのだから、仕方無いと言えば仕方無いのだが、そんな状況で何故勇者召喚まで行って魔王討伐なんて考えるのだか。


「で、何で俺まで同じ部屋なんだ?」

「それは、勇者様が」


「またお前か、梓」

「私は、一緒に寝る事が出来ない者と、一緒に旅は出来ないと言っただけだよ」


「俺は男、君達は女。そこんとこ解ってる?」

「うん、ハーレムだね。やったねシノ」


 何がしたいんだ梓は。


「おい」

「別に野営に成れば同じ所に寝る事になるのです。普段から同じ部屋で生活すると言うのも、理に適っていると思います」


「それは、そうかも知れないが、普段の慎みって物も大事だろうが」

「仲間同士で恥ずかしがっていては、いざと言う時に困ります」


 姫さんも尤もらしい事を言って居るが、それでも、お姫様が冒険者と同じって言うのは、おかしいだろ。

それなりに決意が有るって事を意思表示しているって事か、他に何か理由が有るのか。

他の理由って、梓しかないな。と思って、梓を見ると、やっぱり笑ってやがる。


「梓、ハーレムってのは、皆が俺に好意を寄せている場合に成り立つ言葉だぞ」

「私は、シノの事好きだよ?」

「私も」


 何故かベルには懐かれて、今も俺の横に座っているわけだが、少なくとも過半数に達してないだろう。

眠って沈黙しているリンなんて、敵愾心剥き出しだし、神官と姫さんは何考えているのか解らないし。

どっちかって言うと、針のむしろと思っているのは、俺だけか?と俺は、ベルの頭を撫でながら考えていた。


「まぁ、皆の好意を得るのは、シノの努力次第って事で、本当の事を言うとね、ちょっと複雑な事情が有るんだよ」

「複雑な事情?」


「うん、私もミラが一緒なのは反対で、付いて来ても守れないし邪魔だって言ったんだよね」

「正常な判断だな」


「だから、自分の護衛は別で、邪魔に成らない様にするって言うんだけど、寝る時は一人になるじゃんって言ったら、じゃぁ寝る時は一緒に寝るって」

「さっきの話と違わないか?」


「あれは、この娘達の話で、そこにミラも便乗してきたってこと」

「それなら、俺が同じ部屋で有る必要性は無いだろ」


「シノが同じ部屋なら私が安心して眠れるって事」

「お前達が入って来ても気がつかないで寝てた俺だぞ?」


 あれは、ルナの悪戯だろうが、今は利用させて貰う。


「私とベルちゃんは、シノのベッドに入れたんだけど、リンは入れなかったよ?」


 ルナ、何してくれてるんだ。


「それで、あんなに突っ掛って来たのか?」

「それは、別だね。私より強いって言った事を、信用してなかったからかな」


 そう言えば竜騎士だったな。誇き高き竜騎士。伝説級の者が実在していたとは、世界は広い。

防御力も戦闘力も人間に比べると桁違いな種族だが、もしかしたら、結構隠れて入り込んで居るのかも知れないな。

他の奴も知りたいが、それは墓穴を掘る事になるから止めておこう。聞いたなら、聞かれる。これは当たり前の事だ。

そして、聞かれたくないなら聞かない。最低限のルールだろう。一緒に旅をしていたら、そのうち解るだろうしな。


「解った。出発は、明日の予定か?」

「はい、リンさんに支障が無ければ、そのつもりです」


「俺は、街を離れる事をギルドに伝えて来る」

「付いていく」


「ベルちゃん、逃げない様に見張っててね」

「解った」


「畏まりました。お気を付けて行ってらっしゃいませ」


 今回は、梓も姫さんもすんなりと俺を送り出してくれた。




 そして、俺は、ベルを伴ってギルドへ向かっている。

金も大きい物は、預けて置くことにする。ギルドでは、大金を預かっておいてくれるのだ。

そして、その金はギルドであれば、どこでも引き出せる。長い旅をする時などは便利な物だ。


 商人達が運営しているギルドの様な物に、商会と言うのが有る。そちらでは預かった金を運営して、利息と言う物が付くらしいが、ギルドにそのような仕組みは無い。

その代わり手数料も取られないから、俺はギルドを利用している。俺の知る限りでは、商会は結構潰れるのだ。

潰れる事が解った商会には金を引き出しに行けるが、潰れてしまった商会には金を請求出来ない。請求する場所が無くなるのだから仕方無いだろう。

だから、俺達みたいな冒険者が商会に金を預ける事は無い。仮に預けても街を出る時には引き出すから、商会も良い顔をしないのだ。


「ベル、二人で逃げるか?」

「逃避行?梓お姉ちゃん、泣くよ?」


 手を繋いで歩いているベルに冗談で聞いてみたのだが、言葉に詰まる回答を頂いた。


「ベルは良いのか?」

「誰も魔王討伐なんて出来ると思ってない」


「そうなのか?と言うか、そんな事まで解るのか?」

「シノが、言ってた言葉に、皆、同意していた」


「そう言う事か。じゃぁ何でって、それこそ解らないか」

「うん」


「怖くないか?」

「大丈夫。皆、思ってたより優しい」


「それは、良かったな」

「うん」


 この子は気丈だ。母親がどうだったかは、知らないが、父親はあれだ。

さぞかし虐げられた生活をしていたのだろう。虐待とかは無かったかも知れないが、自由の無い生活だったのは想像に難しくない。

父親に限らず世間もそうだったのかも知れない。年相応の感情豊かな表情を見せない。人の真偽が解ってしまうと言うのも辛かっただろうな。

友達も出来なかっただろうし、俺と同じか、それ以上に寂しかっただろう。


「よう、シノ、今日は子連れか?」

「子供じゃない」


 ギルドに入ると、コイルが話掛けて来た。コイルの第一声に、ベルが不機嫌になる、

こいつとも今日限りか。結構持ちつ持たれつで上手く行ってたけど、こう言う無神経さがこいつの駄目な所だろうな。

女の子は、子供って言われると怒る年頃と、喜ぶ年頃が有ると知れ。


「ごめん、ごめん。それで何か用か?」

「あぁ、暫くこの街を離れる事になったから、その報告だ」


「やっぱり、一緒に行くのか?」

「押し切られた」


「まぁ良かったじゃないか。梓ちゃん、可愛いしな」

「相変わらず、何考えてるんだか解らないがな」


「解ったよ。ギルド長には、俺から報告しておくよ」

「あぁ、頼む。じゃぁまたな」


 そう言って俺は、ギルドを後にした。特に、ギルド長に挨拶する程でも無いだろう。

心配なのは、マールだな。何か、買ってご機嫌を取っておくか。俺は、そう考えてベルの手を引き装飾品店へと向かう。


 こう言う物は、値段が大事だ。余り高くなく、さりとて安物でも無く、品の良い物が良い。

ちょっとしたお護りに成る様な魔法具でも無いかと、おれが物色しているとベルが銀の髪飾りを持って来た。


「これ欲しいのか?」

「違う、これ魔除けが掛かってる」


 俺の探している物を選んでくれたらしい。確かに品が良く、魔除けも掛かっている。

銀で蝶を3匹あしらった感じで、赤と碧と緑の三色の石がアクセントになっていて、中々センスも良い感じだ。


「ベル、良いセンスしてるな」

「そんな事ない」


 ちょっと顔を赤くして、照れている様子だ。


「ベルは、何か欲しい物は無いか?お礼に何か買ってやるよ」


 ベルは、小首を傾げて少し考えると、トコトコと歩いて、黒のリボンを持って来た。

銀髪のベルに映えると思われるが、少し地味な気もする。


「それで良いのか?」


 コクンと頷くベルの頭を撫で、それを買ってやる。

ベルは、その場でそのリボンを付けた。ちょっと大きい気もするが、ベルによく似合ってる。


 宿屋に戻って、マールを見つけて、髪飾りを渡す。


「これを私に?」

「ああ、色々世話になったからな」


「戻ってこないの?」

「いや、俺は戻って来るつもりだ」


「待ってて良い?」

「それは止めておけ。冒険者なんて何処で死ぬか解らない者だ」


「そっか、そうだよね。有難う。大事にするね」

「ああ、元気でな」


 これで、この街に残す憂いは、失くなった。

この先どうなるか解らないけど、取り敢えず勇者と呼ばれる者と一緒に旅を始める事になる。

どこか期待している俺と、本気で嫌がっている俺が居るが、冒険者を始めた頃に求めていた物に近い気もする。


 どこかワクワクしながら、どこかビクビクしていて、それでいて何か起こるのじゃないかと言う高揚感。

馬鹿な事をしていると言う自覚と、面白い事が起こると言う予感。

そんな感情を持って、俺は、皆が待つ部屋の扉を開ける。

そこには、笑顔で俺を迎え入れる梓と、感情を出さない神官と姫さんと、目が覚めたのかベッドで起き上がっているリンが待って居た。


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