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第二話 勇者様だと?

第二話 勇者様だと?



「もう駄目ぇ~」


 街に付いた時、梓は馬酔いかぐったりとしていた。

初めて乗った馬であれだけ全力疾走したなら、それも仕方ないだろう。

何せ、休憩もせずぶっ通しで走ったため、馬自体もかなり疲れているようだ。


「よう、シノ、今帰ったのか?」

「あぁ、中々良い馬だったぜ。ほら、梓降りろ。馬を返すぞ」


「えぇ~っ、もう少し乗っていたい」

「梓が金払うなら構わないぞ」


「降ります。今降ります。すぐ降ります。即降ります」

「なんだ、その嬢ちゃんは?」


「森で迷ってたのを拾ってきた」

「おいおい、嘘付くならもう少しましな嘘にしないと、マールにどやされるぞ?」


 馬屋の親父は、ニヤニヤしながら俺に忠告してきた。

確かに無理が有ると思う。まぁそれでもマールには、この方が受けが良いと俺は思っている。

マールは、結構お人好しだ。マールに限らず、この街の人間はお人好しが多い。それが俺のこの街の印象だ。


「ほぇ~っ、これが街? 思ったより小さいんだね」

「おいおい、ここは確かに王都程じゃないけど、それなりに栄えてる方だぞ?」


「で、何処に連れて行ってくれるの?」

「まずは、金策だ。ギルドに行く。それから、お前の服だな」


「あ・ず・さ」

「あぁ、梓の服な。それと、飯だ」


「わぁ~い、お腹空いてたんだよぉ~」


 梓は、俺の腕に纏わり付いて来る。一応膨らみは有る様だと言うか、見たから知ってるのだが、やはり肌で感じると言うのは違う。

俺より頭一つ小さい梓は、こうやって見れば妹にも見えない事もないが、この髪の毛の色じゃ無理が有る。

俺は赤髪で、目も力を込めると紅くなるらしい。こいつも力を込めると色が変わるかも知れないが、今の処その兆候は見ていない。


「おぉ~猫耳に尻尾。やっぱりファンタジー」

「意味不明な言葉を発するのは、止めろ。変人扱いされるぞ」


「そっか、そうだよね」

「まぁ、俺に纏わり付いている時点で、変人扱いされるのは覚悟しておいた方が良いがな」


「シノって変態さんだったんだ」

「俺じゃない、俺に纏わり付くお前がだ」


 取り敢えずギルドに行く事にした。先立つ物が無ければ、何も出来ない。

そもそも宿賃が心許無くなってきたから仕事をしたのだ。俺は、ギルドに入りコイルを探した。

居なければ仕方無いが、依頼をしてきたのは奴の為、一応奴に報告してやろうと思ったのだ。


「おぉ、居た居た。コイル、行ってきたぞ」

「シノか、それで、どうだった? その斧を見るとオーガか?」


 コイルは、俺の後ろの梓を一瞥したが、まずは報告を聞きたい様子だ。


「いや、オークキングだ」

「何だと?ちょっとこっちで話を聞かせてくれ」


 俺は、コイルに連れて奥の個室に連れて行かれる。梓を一人にしておく訳にも行かないので、付いて来させた。


「まぁ、女連れに付いては後で言及するとして、これがオークキングの斧って事で良いんだな?」

「そうだ」


「鑑定に回して良いか?」

「あぁ、ギルドで引き取ってくれて構わない。報酬に足しておいてくれ」


「助かるよ。これ程の物になると皆、直接武器屋に持ち込む方が多いからな。それで森はどうだった?」

「まぁ、一晩しか居なかったから大した報告は無い。感じたところでは、魔物が苛立っていた感じはしたな。オークは群れで朝方に湖に出て来た。俺は湖の畔で夜を明かしたからな。取り敢えず討伐しておいた」


 そう言って、俺は討伐部位をテーブルの上にジャラジャラと放りだす。


「おいおい、お前の腕は知っているつもりだったが、一体何匹居たんだ?」

「最終的には50くらい居たんじゃないか?」


「そのまま放置か?」

「あぁ、馬一頭で行ったからな、持ち帰れないから諦めた」


「探索に出して良いか?」

「構わないぜ。今朝の話だ、早く出した方が良いんじゃないか?」


 オークの斧が一本3,000ゲールとして150,000ゲールを見込めるのだから、良い情報と言えるだろう。


「2割で良いか?」

「あぁ、構わないぜ」


 つまり、30,000ゲールの情報料と言う事だろう。まぁ、取りに行くのも面倒だから、俺は臨時収入として受け取っておく。討伐報酬の方で賄えるはずだ。


「キングオークが1に、オークが50、1、2、53だな。後はゴブリンが13にコボルトが8、間違いないか?」

「そんなもんだろ」


「じゃぁ、討伐報酬が、キングオークが150,000、オークが15,000掛ける53で795,000、ゴブリンが5,000掛ける13で65,000、コボルトが3,000掛ける8で、24,000、斧も引き取りで1,050,000で良いか?」

「あぁ、構わないぜ」


「え?あの斧って16,000しかしないの?」

「ん?それは安いな。最低でも100,000では売れるだろうから、80,000ぐらいだろ? 計算間違えたんじゃないか?」


 割って入ったのは梓だ。計算が合っているのかは解らないが、ここは乗っておくべきだろ。


「俺の計算が間違ってると言うのか?」

「違うよ。斧が16,000かって聞いてるだけだよ?」


「解った、1,100,000出そう」

「それでも、6,6000だけどね。シノってずっとこの人に売ってたの?」


 コイルも簡単に折れたのだが、梓は未だ気に入らない様子だ。


「まぁ、そもそもは調査依頼だったからな、これは余剰収入だ」

「だって、50体のオークの斧も情報だけ売って上げたんでしょ?」


「解った解った。お前は少し黙っておけ。で、コイル、情報量と依頼達成料と、討伐報酬込みで1,500,000でどうだ?」

「あ、あぁ、そんなもんだな」


 面倒なので、俺は妥協案をコイルに提示する。コイルもそれで構わない様子だ。


「悪かったな。それで、オークキングだが、群れを統率していた様に見えたのだが、あの辺りでオークの村なんて聞いた事が有るか?」

「いや、無いな」


「あれで全部なら良いんだが、更に上が居ると厄介だぞ。本格的に調査した方が良いんじゃないか?」

「そ、そうだな、そう報告しておく。ちょっと待っていてくれ」


 コイルは、その場を引き上げた。俺の見立てなら、あのオークキングの斧は200,000は下らない。

コイルも小銭稼ぎは出来るだろう。周りを気遣うのも大変だ。


「ねぇ、あの人信用出来るの?」

「仕方ないんだよ。依頼料と討伐報酬は誤魔化せないからな。こう言う所は、そうやって小銭を稼がないと、甘みが無いって事だ」


「解っていたんだ。ごめん、余計な事言っちゃったね」

「別に良いさ。それよりお前計算速いんだな」


「あんなの小学生の掛け算足し算だよ」

「また、何を言ってるのか解らないが、そう言う教育を受けて来たってことだな」


 そうこうしている内にコイルが、恰幅の良い男とコイルを一回り大きくした、超マッチョを伴って部屋に入って来た。

恰幅の良い方が、マスターの馴染みのガレキルだが、この超マッチョは誰だ?


「君がシノニム君か。私は、ここのギルドを治めているマッカートだ。こいつは知っているな?」

「あぁ、ガレキルさんでしたよね? 俺は、シノで良いですよ」


 ギルド長に対する態度では無いとは思うが、冒険者とはこう言う物だと解っているのか、特に気を悪くした様子は無い。

俺も、別に横柄な態度をこれみよがしに取る気もないが、変にへつらう気もない。


「これが、まず報酬だ。それでオークキングが出たと言う事だが、詳しく聞かせてくれないかね?」


 俺は、差し出された小袋の中身を確認する。そこには金貨20枚が入っていた。俺が提示したのが1,500,000だから、5枚程多い。


「ちょっと多くないか?」

「迷惑料だ」


 そっけなくガレキルが答えた。コイルが気まずそうな顔をしている。

多分、オークキングの話は報告しない訳には行かず、その他諸々の何かが発覚してしまったのだろう。


「詳しくと言っても、俺も一晩居ただけだから、コイルに話た以上の事は、解りませんよ?」

「いや、聞きたいのは、オークが出て来た状況だ。湖に出て来たと聞いたのだが、それは、行軍の様な物だったのか、水浴びの様な物だったのか」


「そうですね。どちらかと言えば水浴びに見えましたが、朝からと言うのが気になりますね」

「そうか、なら行軍途中と言う事も考えられるな」


「それなら、オークキングを倒しても暫く出て来なかったから、大した部隊では無いと思いますけど?」

「いや、少なくともオークキング一体で村を統率出来る事は無い。それが村だとしたら、かなり大規模と考えるべきだろう。オークキングを引率に出せる程だと言う事だ」


「成程、仮に行軍にしても同じ事が言える。俺が、もう少しあの場に居れば、斥候辺りが偵察に来ていた可能性が有ると」

「そうだな、どちらにしても、こちらから出すには、かなり用心すべきと考える」


「放って置くと言う選択肢は、無いですよね」

「あぁ、それ程大掛かりな物を放置しておくわけには行かない。もしかしたら、助力を要請するかも知れないが、その時は宜しく頼む」


「う~ん、俺は冒険者ですからね。あまり集団行動に向いてませんよ?」

「それでも一人でオークを50体以上倒す戦力は、魅力的だ」


 うむ、まずいな。目を付けられた感じがする。だからコイルにコネを付けといたのだが、裏目に出た様だ。

こう言う小銭集めをしている小物は、俺みたいに騙しやすい輩を隠そうとするんだけどな。


「まぁ、その時は報酬次第で」

「あぁ、期待してる」


 俺は、部屋を出る時にコイルに金貨1枚を掴ませてやった。驚いた顔をしているが、ウィンクをして通り過ぎる。

恨みを持たれたくないからね。




 しかし、何故こうなった?

軽い昼食を取った後、梓に一応街娘っぽい服装を買ってやったのだが、丈の短いスカートを欲しがるので、恥ずかしかったが女物の下着も買ってやった。

買ったのは、そこらの娘が着ている服のはずなのに、何故か目立っている。


 あれだ、太腿までのストッキングを何故か折り畳んで、スカートとの間に生の太腿を晒しているからだ。

またそれが太くもなく、健康的な白さで目立つと言うか、男心を唆る。なんだこいつは? やはり淫魔だったのか?


「ねぇねぇ、武器とか防具とかも買ってくれないの?」

「冒険者にでも成るつもりか?」


「他に一人で生きていく方法が有るの?」

「普通に、街で働けば良いだろ? 花屋とか似合いそうだぜ」


「それって、一日で宿代以上に出るの?」

「無理だな」


「買って貰った分も返さねければいけないし」

「その割には、武器防具を強請っているように聞こえるのだが?」


「先行投資って奴よ。後、魔法教えて」

「俺は、魔法は専門じゃないんだよ」


「使ってたじゃん」

「それは内緒だって言っただろ?」


「どうして? あんな強いのに」

「この国には、色々有ってな。闇属性は、禁忌なんだよ。それに人間で精霊が使えるのは、あまり居ないんだ」


「へぇ~やっぱりシノって変態だったんだ」

「何故、そうなる」


 全く、時々頭をかち割って中身を見たく成る様な事を言う。

女は得だ。それでも放り出す気になれないのだから、俺も大概だな。


「あら、何よシノ。アタシってものが有りながら、こんな娘誑かしちゃって」

「色々と突っ込み処ろが満載だが、まず、カルラさん? 旦那居るでしょ?」


 猫耳をピコピコさせながら俺に話掛けて来るのは、武器屋の女将さんのカルラさん。

こう見えても、俺ぐらいなら瞬殺されてしまうぐらいの素早さと腕力を持っている、獣人の元冒険者だ。


「やだ~ん、シノの為なら旦那なんて速攻で捨てちゃうよ?」

「とか言ってますよ? 旦那」


「そいつの淫乱は筋金入りだ。俺も諦めてる」

「あ~ん、その冷たさに痺れる、惚れる、濡れる!」


「昼間っから、何惚気けてるんだか」

「で、今日は何の様だ?」


 この厳い獣人の旦那がここの店主のラークさんだが、この人も現役でまだまだ行けるだろうってぐらいの冒険者である。当然、俺も勝てる気すらしない。

獣人で店を持ってる何て言うのも珍しいが、この二人は鍛冶のドワーフと繋がりが有るため、良い武器や防具を安く売ってくれる優良店だ。


「こいつに適当な防具と武器を見繕ってやって欲しいんだけど………」


 と梓を見ると、何やら刀に見入っている様子だ。


「なんだ、それが良いのか? それは扱いが難しいぞ?」

「大丈夫だと思うよ、私、剣道三段だし」


「何を言ってるか解らないが、剣術を習ってたって事だな?」

「そうそう」


 そう言って、スラッと刀を抜いて構える姿は、確かに様に成っている。様には成っているのだが、綺麗過ぎる。


「ほぅ~、中々なもんだな」

「うん、思ったより重くないし、私これが良い」


 ラークさんも梓の構えに感心しているようだが、あれはどう見ても対人の剣だ。

それも、ルールが有る試合の様な物に使われる物だろう。魔物との戦闘には向いていない。

まぁ、そのうち慣れるか。


「じゃぁ、盾は持てないから、腕当てと脛当て、それに胸当てぐらいを見繕ってやってくれ」

「解った。両手で使うみたいだから、邪魔にならない物が良いな」


 俺の剣も細身だが、ちょっと事情が有って普通の刀とは違う。普通の刀は横からの衝撃に弱く折れ安い癖に、値段が結構な物と成っている。

取り敢えず、本人が良いと言うのだから、護身用には良いだろうと買ってやることにした。


 女性用の防具なんて解らない俺は、カルラさんにお任せしたが少し不安だ。カルラさんの見立てって露出激しいんだよな。

どうも、獣人の人は素肌を出来るだけ出していた方が、色々と都合が良いらしい。肌で感じるとかそう言う奴だそうだ。

だから、防具は本当に急所だけを覆う様な物を選ぶため、下手な娼婦よりエロいと言うのが相場だ。

その為に、獣人の女性をパーティに入れたがる人間も後を絶たないそうだが、見た目に騙されるのは最初だけで、そう言う輩は往々にして痛い目に会う。


 防具を合わせて出て来た梓は、何故か髪の毛も頭の上で纏めている。ポニーテールと言う奴だが、まぁその方が戦闘には邪魔に成らないだろう。

右肩から胸に掛けての胸当ては、左肩には当てが無い。腕当てと脛当てはお揃いで少し赤みが入ったお洒落な感じだが、女の子なのでそう言うのも大事なのだろう。


「どう?」

「あぁ、思ったより様に成っているな」


「えへへぇ~」

「適当に見繕ったけど、結構な額になったよ。全部で62000だけど、シノだから60000に負けておくよ」


「悪いね」

「毎度有り~」


 まぁ見た感じだと100000でも納得だから、かなり安くしてくれたのだろう。良心的で助かる。


「へぇ~、やっぱりオークキングの斧ってすごい高いんだね」

「オークキングの斧が手に入ったのか?」


 梓の言葉にラークさんが反応して来た。確かにオークキングの斧は、欲しがる獣人も多いし、もしかしたらラークさん自身が欲しいのかも知れない。


「あぁ、ギルドに卸したから、そのうち出回るんじゃないか?」

「なんだよ、うちに直接持ってきてくれれば、それなりの値段で買ったのに」


「旦那達から金を取るのは忍びないからな」

「もぅ、またそんな事言って、上手いんだからぁ」


「あぁ、それから多分、近々オークの斧は大量に出回るだろうから、あんまり仕入ない方が良いと思うよ?」

「大量ってどれくらいだ?」


「今朝は50くらい倒してきた。持って帰れないからギルドに情報だけ売ったからね」

「また、規格外な。多分、少し安めで小出しに出して来るだろうな」


「あぁ、これからまだ増える可能性が高いと俺は見たから、慌てて仕入れないようにね」

「その情報は助かる。聞いてなかったら結構買っていただろうな」


 結構な時間が掛かったが、これで梓も人並みには見えるだろう。

まだ夕飯には時間が有るし、昼飯が遅かったので俺は梓の力量を見る事にした。

剣術を習っていたと言うなら、そこそこ戦力になるかも知れない。冒険者に成ると言うのも現実的な話に成るからだ。


「えぇ~っと、木刀とか無いのかな?」

「それで戦うつもりなんだろ?それでやらないでどうする」


「いや、怪我させちゃ悪いかなって」

「俺に怪我を負わせれるくらいなら、安心して冒険者に出来るってもんだ」


「解ったよ。恨まないでよ」

「良いから、さっさと掛かって来い」


 正面に構える梓の刀は、思った通り対人用の物だ。俺の腕や胴、頭や首を狙ってくる。

中々速いその刀裁きは、相手が一人なら問題無いだろうが、いかんせん隙が多すぎる。


「別に、腕や胴以外の処を狙っても良いんだぞ」


 そう言って、俺は、突っ込んできた梓の刀を去なすと、後ろからお尻を蹴ってやる。

刀を持ったまま転ぶ梓の背中を踏みつけ、首筋に刃を当てる。


「ま、参りました」

「いや、そこで反対に転げて、その反動で刀を振るぐらいしろよ」


「う~、そんなの無理だよぉ~」

「まぁ、追々だな。で、魔法だが、ちょっとやってみろ。こうやって、魔力を押し出す感じで、イメージを唱えるんだ。光よ灯れ」


 俺は、目の前に照明魔法を展開してやる。俺に出来る魔法は、この程度の生活魔法ぐらいだからだ。


「魔力って何?」

「そこからかよ。そうだな、身体に流れる力みたいな物だ」


「こうかなぁ?光よ灯れ」

「!!」


 いや、これ昼間じゃなければ大騒ぎになってる規模だ。辺り一体が暫く眩しくて見えなくなってしまった。

誰も居ない処でやっていて良かった。


「ちょっと、炎を投げるつもりでやってみてくれないか?」

「詠唱は?」


「なんでも良い。イメージを言葉にすれば良いんだ。炎よ焼き尽くせとかで構わない」

「解った。う~ん、じゃぁファイアーボール」


 思った通りだ。梓の前方10メートルぐらい先では、爆発が起こったような炎が発生し、土まで抉っている。

はっきり言って、宮廷魔術師でもここまでの威力を簡単には出せないだろう。


「お前、刀より魔法の方が適正有るんじゃないか?」

「そ、そうかな?」


「思いっきり出すんじゃなくて、威力を調整しないと、討伐部位まで燃やし尽くしてしまうぞ」

「へへん、私の凄さが解ったか」


「あぁ、凄いな」

「そんな、普通に返す? シノはツンデレだと思ってたのに」


「また意味不明な言葉を。まぁ今日は帰って、飯にしよう」

「わぁ~ぃ、御飯、御飯」


 それから、俺は宿屋に梓を連れて行った。部屋は別な部屋を用意してやると言ったのに、同じ部屋が良いとか言い出すので割高になるがツインの部屋に変更する。

流石にベッド一つしか無い部屋に、男女二人は息が詰まる。マールがジト目で見るが、これは予想の範疇だ。


「あいつ田舎者で、常識に疎いから、色々教えてやってくれると助かるんだけどな」

「えぇ~? シノが手とり足取り教えてあげれば良いんじゃなぁい」


「冷たい事言うなよ。頼りにしてるんだからさ」

「本当? 私の事頼りにしてる?」


「あぁ、勿論だ」

「解った、どんとお姉さんに任せなさい!」


 いや、俺の方が年上だけどな。あ、梓よりは、お姉さんか。これで第一関門は突破した。

マスターは無駄な事は言わないし、ツインの部屋も格安で貸してくれることに成ったので、差額は大した事は無い。


「ねぇ、お風呂ないのぉ?」

「風呂って、お前は王族か?」


「えぇ~じゃぁ皆どうしてるの?」

「そこに桶があるだろ? そこに湯を入れて湯浴みするんだよ」


「お湯ってどこかれ出るの?」

「魔法で出すんだ」


「おぉ! 成程ぉって、水しか出せないんだけど」

「じゃぁ、軽く火魔法で温めれば良いだろ」


「おぉ、頭良いぃ~」

「お前が何も考えてないだけだ」


「シノ~、石鹸はぁ?」

「そんな高級品ねぇよ」


「シノお金持ちじゃん」

「あんなのは、年に1回あるか無いかだ。普段はオーク2~3匹も狩れれば、儲けた部類だ」


「そうだよね。1匹15000で、斧も高く売れるんだっけ?」

「記憶力も良いんだな。そうだ、オークの斧だと無傷なら一本10000ぐらいで売れる」


「うっひゃ~、やっぱりキングオークの斧って凄いんだ」

「オークキングだ。って服着ろ服!」


 全く、タオル一枚巻いた格好で出てきやがって、誘ってるのか?


「えへへ、結構唆る?」

「あぁ、唆る唆る。だから、何か早く着ろ」


「シノって女嫌い?」

「嫌いじゃないけど、お前、どう見ても処女だろうが」


「うわっ! 露骨だなぁ。やっぱり処女って大事にするもの?」

「何処に嫁に行くにしても価値が変わる。そいつが、貰ってくれると言うまでは大事にすべきだ」


「そんなの偏見だよ」

「偏見でも、何でもこの世界の常識だ。俺には、お前の人生に責任を持つ事なんて出来ないからな」


「持ってくれても良いよ?」

「あんまり、聞き分けないと放り出すぞ」


「はぁ~い」


 それから俺と、梓の生活は一週間程続いた。

時々意味不明な事を言い、俺を従者の如く扱き使うが、それなりに楽しい時間を過ごしていた。

梓は、力も見た目以上に有り、何より魔法の才能が凄い。闇以外の魔法は、軽く国を滅ぼせるんじゃないかと言う程だ。

雷の魔法を使えたのにも驚いた。梓曰く、「電気でしょ?」で終わらされてしまって、意味が解らないだけに文化の違いを感じさせられた。

俺の雷の精霊は、雨雲が無いと出てこないんだけどな。

逆に闇はイメージが出来ないと言っていた。これも魔法学校にでも行けば、速攻で使える様になる気がする。誰か知ってる奴に教えさせるか。


 兎一兎を狩って喜んで居る梓の頭を撫でて、捌き方を教える。「うげぇ~っ」とか言ってるが、これが出来ないと狩っても食べる事が出来ない。


「梓の世界では、動物を食べなかったのか?」

「食べたよ? 切り身が売られていたから、殺す所なんて目にした事ないだけだよ」


「王族の姫様でも、兎くらい殺すぞ?」

「そうなの?」


「あいつ等は、狩りも遊びだからな。酷い貴族になると奴隷を狩る遊びなんかも有るそうだ」

「何それ、人権蹂躙じゃん」


「また意味不明な事を、あぁ、今のは聞かなかった事にしておいてくれ」

「一応、悪い事なんだね?」


「勿論だ」

「あれ、何かな?」


 街のすぐ近くで梓に狩りを教えていた俺達の目の前を、騎兵隊が通り過ぎて行く。

あの旗は、王族直轄の近衛兵だったか。こんな辺鄙な街に何の用だ?


「あれは、王族直轄の近衛兵だな」

「へぇ~。じゃぁあの馬車にはお姫様とか乗ってたりして」


「かも知れんが、こんな街に何の用が有るのか、何処かへ行く途中かも知れんな」

「お姫様見たいよ、シノ」


「解ったから、袖を引っ張るな。依頼分狩ったし、ギルドに戻るか」

「うん」


 俺は、この時の判断を後悔する事になる。




 街に戻った俺達を待って居たのは、武装した騎兵隊だった。騎兵隊の後ろには、ギルド長が居る。

やはり梓は、どこか貴族か王族のお嬢様で、俺に誘拐疑惑でも掛かっていたのかも知れないと、その時の俺は焦っていた。

この程度の騎兵隊なら、なんとでもなるのだが、状況が解らないうちに動くのは愚策だ。

騎兵隊に囲まれた俺は、いくつか梓を抱えて逃げ出す手段を考えていた。


「あの方ですか?」

「はい、アズサ=カンナギと言ってました」


 騎兵隊が割れ、煌びやかなドレスを身に纏ったお嬢様がこちらに向かってくる。

その後ろには、神官らしき服装の女性と、騎士らしき大剣を携えた女性が随行している。


「私は、フロン王国の第二王女、ミラ=クル=フロウです。勇者様、どうぞこちらに」

「勇者?」


「貴様には言っていない」

「わ、私?」


 俺が、聞き返すと、後ろの女騎士が蔑んだ言葉を発する。まぁ騎士なんてこんな物だろう。

弱い癖にプライドだけ高く、平民を見下して悦にいってる、どうしようも無い人種だ。


「はい、貴女は我々が召喚した勇者様です」

「そんな事言われても、私一週間以上放っておかれたんだよ?」


「それは、謝罪させて頂きます。どうか我々と共に来て下さいませ」

「やだよ、勝手にこんな世界に呼び出しておいて、一週間も放置しておいて、私死んでたかも知れないんだよ?」


「こちらの手違いで、何処に召喚されたのか探すのに手間取ったのです」

「それは、貴方達の都合でしょ? 勝手に呼び出しておいて何言ってるのよ」


 言いたい事は解るが、俺の背中に隠れて言うのは止めて欲しい。皆の視線が俺に集まって痛いんだが。


「梓、こいつらの所へ行けば還る手段が解るかも知れないぞ」

「そ、そうかな?」


「還れないとしても、俺と居るよりは遥かに待遇が良いと思うぞ」

「私、シノと一緒に居たい」


 それは嬉しい言葉だが、この状況で発して欲しくは無かった。姫さんまで、俺を睨んでるし。


「まぁ、こいつらも梓をこのままにしては帰れないだろうから、一度は一緒に行ってやるしかないさ」

「う~ん、厄介払いとか思ってない?」


「全然。お上には逆らえないだけさ」

「解ったよ、すぐに帰って来るから、宿屋はあのままにしておいてね」


「解った」


 そう言いながらも、俺は二度と逢う事は無いだろうと考えていた。

姫さんは、梓の事を「勇者」と呼んだ。それは、勇者として何かをさせるつもりなのが明らかだ。そして、勇者がその使命を完うした後、ハッピーエンドとは成らない。

俺から見ても梓の力は強烈だ。その力を今度は恐れ、利用しようと考える。還す手段など無いだろう。召喚とはそう言う物だ。


 俺は、こちらを見る梓に心の中で「すまん」と言い手を振っていた。


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